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善き読者でありたい。素敵な本の素敵なところを綴る「読書感想」をアップしています(この頃は月5-10本、朝の更新が多め)。「発達障害のある我が子をより愛するために読む」というテーマでも読書しています。完全な趣味、非営利。お問い合わせはプロフィール欄からお願い致します。

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  • 読書熊録

    素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています

  • 発達障害の我が子をより愛するために読む

    発達障害のある我が子を今以上に愛するため、読み進めている本を記録します。ASDやADHDなど発達障害の他、身体・知的障害、難病、福祉、幅広い分野を学んでいきます。

  • 読書ノート

    読んでいる本、読んだ本、読みたい本についてつれづれ書いている日記のようなもの

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この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。 冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。 本を読む目が変わりました。病や困難に直面した人の語りが身に沁みる。あらゆる物語に、我が子の姿や、我が子の人生のヒントにな

    • 改革者でも弱者でもないーミニ読書感想『他者といる技法』(奥村隆さん)

      社会学者・奥村隆さんがもう30年ほど前に書かれたという『他者といる技法』(ちくま学芸文庫、2024年2月10日初版発行)が面白かったです。平易な言葉だけで、社会の複雑さを解きほぐす。複雑さとは、社会はそこに生きる私たちにとって善い面と悪い面の両方を含むこと。「当たり前じゃないか」と思ってしまう結論を、「言われてみればそうだな」という道筋で考えさせてくれる。 社会は複雑である。他者は時に、不気味である。そのことを平易な言葉だけで伝えてくれる本書は、さまざまなモチーフを使う。例

      • 言葉の接地とメンタルモデルーミニ読書感想『ことば、身体、学び』(為末大さん&今井むつみさん)

        為末大さん&今井むつみさんの『ことば、身体、学び』(扶桑社新書、2023年9月1日初版発行)が学びになりました。タイトルの3要素の関係を追求する本。つまり「言葉のメタファーで身体動作がやりやすくなるのはなぜか」「言葉が分かることと、身体動作ができることにつながりはあるのか」といった問いを考える本でした。 メモしておきたいと思ったのは「接地」と「メンタルモデル」という二つの概念。これは、ASD(自閉スペクトラム症)の子を育てる上で、言語発達遅滞やこだわりによる困り事を減らすヒ

        • 2024年4月に読んだ本リスト

          【4月】・『その可能性はすでに考えた』、井上真偽さん、講談社文庫 ・『学ぶことは、とびこえること』、ベル・フックスさん、ちくま学芸文庫 ・『自閉症感覚』、テンプル・グランディンさん、NHK出版 ・『いつかたこぶねになる日』、小津夜景さん、新潮文庫 ・『死にたいって誰かに話したかった』、南綾子さん、双葉文庫 ・『訂正する力』、東浩紀さん、朝日新書 ・『中央線をゆく、大人の町歩き』、鈴木信子さん、河出文庫 ・『世界はラテン語でできている』、ラテン語さん、SB新書 ・『中国行きのス

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        この本に出会えてよかった2023

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        • 言葉の接地とメンタルモデルーミニ読書感想『ことば、身体、学び』(為末大さん&今井むつみさん)

        • 2024年4月に読んだ本リスト

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          人生がどうしようもなく変わってしまったときにどう生きる?ーミニ読書感想『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(谷川嘉浩さん)

          哲学者・谷川嘉浩さんの『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマー新書、2024年4月10日初版発行)が、学びになりました。衝動とは、自分でもコントロールできない、人生の針路を変えてしまうエネルギーのこと。これは人間内部から起こるモチベーションとは必ずしも一致しなくて、外部からやってくるものでもある。タイトルはポジティブですが、私はこれは、事故やトラブル、予期せぬ人生の転機に「それでも」生きるための手掛かりを教えてくれる本として読みました。 衝動とは何か。著者は

          人生がどうしようもなく変わってしまったときにどう生きる?ーミニ読書感想『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(谷川嘉浩さん)

          定型発達者に自閉症者の何が分かるのかーミニ読書感想『自閉症の僕が跳びはねる理由』(東田直樹さん)

          重度自閉症で会話が難しいなか、文字盤やパソコンによるコミュニケーション方法で発信を続ける東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫、2016年6月25日初版発行)が、衝撃的でした。執筆当時13歳。「話せない」ということで顧みられなかった、内なる心、豊かな言葉。まっすぐに読者に届けてくれています。 私が買ったもので42刷。ASD(自閉スペクトラム症)当事者の本がこれだけ読まれているというのは驚異的だと思います。「なぜおうむ返しをするのですか」「なぜこだわるのですか

          定型発達者に自閉症者の何が分かるのかーミニ読書感想『自閉症の僕が跳びはねる理由』(東田直樹さん)

          すこし不思議でシリアスで不思議―ミニ読書感想『冬に子供が生まれる』(佐藤正午さん)

          佐藤正午さんの最新作『冬に子供が生まれる』(小学館、2024年2月4日初版発行)は、佐藤作品らしさ全開、佐藤作品ど真ん中の物語でした。SFをサイエンス・フィクションではなく「すこし・不思議」の略だと解釈したのは藤子・F・不二雄さんだったか。佐藤作品もまさにすこし・不思議で、かつ、シリアスで不思議(SF)なのが良さだなと思います。 「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」(p5)。 本編の1ページ目、物語はこんなメッセージから始まります。何か変。「今年の冬、彼女が私の子供を産

          すこし不思議でシリアスで不思議―ミニ読書感想『冬に子供が生まれる』(佐藤正午さん)

          孤独につながるーミニ読書感想『つながる読書』(小池陽慈さん)

          予備校で現代文を教える小池陽慈さんが編者となった『つながる読書』(ちくまプリマー新書、2024年3月10日初版発行)が面白かったです。副題は『10代に推したいこの一冊』。小池さんとつながりのある研究者やエッセイストらが、若者に薦める渾身の一冊をプレゼンするという内容です。その熱量は、10代をとうに過ぎたアラフォーにも響きました。 紹介される本は十人十色。だけど、プレゼンターたちには本を愛する気持ちが共通する。本を読むことの魅力とは何か?なぜ私は本を読まずにはいられないのか。

          孤独につながるーミニ読書感想『つながる読書』(小池陽慈さん)

          読みたかったのは私だけではなかったーミニ読書感想『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆さん)

          書評家・三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、2024年4月22日初版発行)が面白かったです。これほど心に刺さるタイトルもありません。ほんとに、なぜ?なぜ仕事を一生懸命やって、こんなに頑張っているのに、大好きな本を読めないのだろう。本書は、本好きにとって切実な問いに、真摯に向き合ってくれる。悩む私と同じように向き合ってくれるから勇気が湧く。 「そんなの、仕事で疲れるからでしょ?」で世間的に終わらせられそうなテーマ。でも、疲れていても、好きなもの

          読みたかったのは私だけではなかったーミニ読書感想『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆さん)

          手拍子でビートルズーミニ読書感想『実験の民主主義』(宇野重規さん)

          政治思想研究者の宇野重規さんが、『WIRED』や『さよなら未来』で知られる若林恵さんを聞き手に語った『実験の民主主義』(中公新書、2023年10月25日初版発行)が学びになりました。民主主義の在り方やプラグマティズムがテーマですが、自分は療育や障害者のインクルージョン(社会包摂)の観点から読みました。 本書は、立法府中心に捉えられてきた民主主義を、行政のDXを主軸に考え直すことをテーマにしています。選挙で「誰が政治をするか」を選ぶだけではなく、トクヴィルが初期の米国に見たよ

          手拍子でビートルズーミニ読書感想『実験の民主主義』(宇野重規さん)

          AUT VIAM INVENIAM AUT FACIAMーミニ読書感想『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん)

          ラテン語さんの『世界はラテン語でできている』(2024年1月15日初版発行、SB新書)が、シンプルに面白かったです。世界史、政治、宗教、エンタメ…さまざまな分野に今も根付き、数々の言葉の語源になっているラテン語。その魅力を次々披露してくれる、豆知識・トリビアの本です。気軽に読めて、確実に「へ〜」と驚ける。 特に興味深かったのは、世界史のさまざまな場面で登場するラテン語でした。世界史好きには刺さる話が多い。たとえば、リンカーンを暗殺したブースは、その瞬間にラテン語の格言を叫ん

          AUT VIAM INVENIAM AUT FACIAMーミニ読書感想『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん)

          取り替え不可能な人生のための哲学ーミニ読書感想『訂正する力』(東浩紀さん)

          東浩紀さんの『訂正する力』(朝日新書、2023年10月30日初版発行)が学びになりました。今までの自分は間違っていたかもしれない、至らなかったかもしれない。そう認める訂正の力。歴史修正主義とは異なる訂正のスタンス。それは、固有で取り替えの効かない人生を生きるために必要だと分りました。 訂正と聞いて、いいイメージは浮かばない。なるべくなら、間違いのない方が良いとつい思ってしまう。そして、訂正は修正と似ている。訂正主義と書くと歴史修正主義を思い浮かべてしまいますが、両者は全く異

          取り替え不可能な人生のための哲学ーミニ読書感想『訂正する力』(東浩紀さん)

          「聞けてよかった」が不可欠ーミニ読書感想『死にたいって誰かに話したかった』(南綾子さん)

          南綾子さんの『死にたいって誰かに話したかった』(双葉文庫、2023年1月15日初版発行)が、かなりの名作でした。タイトルにギョッとするかもしれませんが、この作品は奥深く力強い。生きづらさと、話すこと・聞くことについての物語です。 それぞれの事情で生きづらさを抱える主人公たちが、ひょんなことから「生きづらさを克服しようの会」(通称生きづら会)を結成するというのがあらすじ。最初は、何をやってもうまく行かないアラサー男女の2人が、世間一般への鬱憤を吐き出すとも言えない会合だったの

          「聞けてよかった」が不可欠ーミニ読書感想『死にたいって誰かに話したかった』(南綾子さん)

          羽のように雪のように砂糖菓子のようにーミニ読書感想『いつかたこぶねになる日』(小津夜景さん)

          なんとも不思議な本に出会いました。俳人・小津夜景さんの『いつかたこぶねになる日』(新潮文庫、2023年11月1日初版発行)。内容を説明すれば、本書は漢詩を紹介するエッセイ。でもそれだけでは捉えられない読書世界がある。羽のように軽く、雪のように白い。あるいは砂糖菓子のように甘く、でもすぐ消えていく。何かのジャンルに当てはめることが、どうにも勿体無い一冊でした。 著者は俳人で、フランスのニーズに住んでいる。でも本書のテーマは俳句ではなくて漢詩で、しかも漢詩の名作をめぐるエッセイ

          羽のように雪のように砂糖菓子のようにーミニ読書感想『いつかたこぶねになる日』(小津夜景さん)

          攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)

          ASD(自閉スペクトラム症)当事者で、研究者のテンプル・グランディンさんの『自閉症感覚』(中尾ゆかりさん訳、NHK出版、2010年4月10日初版発行)が学びになりました。15年近く前の本ですが、いまだに版を重ね、現在も書店の棚に挿されていました。タイトル通り、ASD者として「どう感じてきたか」がたくさん盛り込まれている。 ASDは、抽象的概念の理解に困難さがある人がいるとされます。著者もその一人。しかし、著者を支援したベビーシッターは、具体的事例を通じて抽象的概念を伝える工

          攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)

          声を聞くために学ぶーミニ読書感想『学ぶことは、とびこえること』(ベル・フックスさん)

          人種差別の課題やフェミニズムに取り組んだ研究者ベル・フックスさんの『学ぶことは、とびこえること』(里美実さん監訳、朴和美さん、堀田碧さん、吉原令子さん訳、ちくま学芸文庫2023年5月10日初版発行)が学びになりました。特にフェミニズムについて、黒人女性であるベルさんは、それが白人女性のためのフェミニズムになっていないか批判的思考を追求した。周縁化される声を、無効化される声を聞くための、学びの方法を考えさせられました。 著者の批判的思考は、黒人女性としての経験に立脚しています

          声を聞くために学ぶーミニ読書感想『学ぶことは、とびこえること』(ベル・フックスさん)