ここまでわかった犬たちの内なる世界 S2#09〜犬とモラル
ゾンビがはびこる世界で 、極限状態に追い込まれた人間の多様な在りようを描いた『 ウォーキング・デッド』 というドラマがあります。
次に紹介する予告編映像には出てきませんが、ドラマの途中からベルジアン・マリノアという犬種のイヌも登場します。
“生きるなら、仲間のために生きる”
そんなセリフから始まる予告編ビデオに象徴されるように、このドラマには、仲間を命がけで守ろうとする「利他的」シーンが繰り返し描かれています。
▼予告編映像(1分20秒)
あるとき敵対勢力によって、主人公の1人が拘束されます。
敵対勢力のメンバーは、拘束した人物から有益な情報を引き出そうとします。その人物がタフで口を割りそうもないとみなすと、人間心理を突いた”汚い手法”が使われます。当人を拷問するのではなく、その仲間を目の前で傷つける(と脅す)ことで 口を割らせるのです。
この手法は、『 ウォーキング・デッド』に限ったことでなく、海外ドラマではちょくちょく目にします。なぜこのようなシチュエーションが多く描かれるのでしょうか。
それは、 制作者がおそらく次のことに気づいているからでしょう。
✔️ほとんどの人間は、他者を傷つけることを嫌がる
「危害の回避」は正常な人間であれば誰でも持っている情動です。
私にはキャンディー、あなたには痛み
冒頭で「ウォーキング・デッド」を話題にしたのは、「危害の回避」が道徳的発達のひとつの鍵かもしれないという認識を皆さんと共有したいからです。
そこで、 面白い結果が出た研究を紹介します。
その前に、以下の2つの点を「了解事項」として確認しておきますね。
あなたはあなたの欲しいものを受け取れます。
でも、その受け取る行為で、隣人に危害が及ぶとしたら
あなたはどうしますか?
この質問をラットに問いかけた研究です。
2020年にオランダの神経科学者のチームが論文を発表しています。
🐭シチュエーション
ラットがキャンディー(蔗糖ペレット) を受け取るためには、 2つのレバーうちのどちらかを選び、押さなければなりません。
しばらくして、ラットがお気に入りのレバーを押すと、隣のケージにいるラットの床に不快な電気刺激が発生するようにしました。
🐭結果と新しく判明したこと
キャンディーを手に入れるためにレバーを押すことが、隣のラットに ダメージを与えることになると、ラットはレバーを押さなくなりました。
注目すべきは、隣のラットが以前からの知り合い(ケージを共有していた)であろうと、まったく見知らぬラットであろうとレバーを押さなくなったということです。
「人間と同じように、ラットは他者に危害を加えることを嫌悪している」と、論文の著者は語っています。
面白いのはここからです。
人間が他者の痛みに共感するときには、脳の前帯状皮質という領域が活発になることが、MRI(機能的磁気共鳴画像法)によってわかっています。
最近の研究で、ラットの脳の同じ領域にミラーニューロンが含まれていることが判明したといいます。 これは、別のラットの痛みを目撃すると目撃者自身の痛みのように感じるニューロンです。
▼ミラーニューロンについては、 以前このnoteでテーマとして取り上げています。
ここまで読んで驚きませんか?
人間とラットが同じ脳の領域を使って他者への害を避けようとしていることがわかったばかりか、ラットの脳にミラーニューロンがあるというのです。
論文の著者も述べているように、次のことが示唆されたのです。
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