長夜の長兵衛 虹始見(にじはじめてあらわる)
躑躅の衣
丁寧に衣を広げ衣紋掛けに吊るすと、蘇芳の色目が金兵衛の心の奥を掴んでくる。ややあって、裏の萌黄が、そのまた奥を射る。三歩ほど下がって、もう三歩、五歩、終いには次の間から眺めた。
うむ。
おのずと口の端があがる。
譲り受けた折には、なかなかな傷み具合であったが、よう、ここまで。さすがは源兵衛、反物屋の隠居。染め物の腕は道楽どころではないわ。
まこと良質な織りの衣であったゆえ、つい熱が入ったと仰せでございました。洗い張りも仕立て屋も、同じ思いであったようだと