オーディブル記録⑧『ケーキの切れない非行少年たち』

少年院で過ごす子供たちの実態や更生プログラムについて考えさせられる本。タイトルの付け方もうまく、重たいテーマのわりにかなり有名になっていた。記憶にある人も多いのではないだろうか。

著者は、強姦や殺人などの重い犯罪を犯した子供たちのIQの低さに驚く。非行少年たちには、境界知能に該当するものも多く、現実の認識能力が低いことがわかる。そのように現実の認識能力が低いと、他者の言動を悪いようにとってしまったり、例えばレイプもののAVを真に受けて、相手も喜んでくれると思い込んで犯行に至る子供もいるのだという。

そうなると、非行少年たちを単純に悪人として扱っていいのか、自己責任論的な眼差しを彼らに向けていいのだろうかという問いが生じる。善悪を教えれば更生できるという話ではなく、生まれつきの能力の差や、社会での生活の難しさからくる認知の歪みが犯罪に至る一因だと考えられるからだ。

彼らの目線から社会をのぞき込んでみる。生まれ持ったハンディキャップを誰もフォローしてくれず、どんどん追い込んで来る社会。追い込まれた末に犯罪を起こしたら、急にみんなが自分に注目しはじめ、一斉に糾弾される社会。彼らからみたらそんな環境の中にいたのかもしれない。

最後の章では解決策が論じられる。認知能力を高めようと授業のようなことをしたところ、少年たちはやる気が出なかったようだが、彼らが教える立場になると、意欲が高まったという話が印象的だった。教えてあげる側とか、誰かの役に立つ側に回りたいという欲求を、ずっと叶えられないでいたのかもしれない。

自分の職業や生活からすると、本書の直接的な情報というのはあまり実用的ではない。ただ、こういった内容は、近年よく言われる親ガチャとの話ともつながっていくし、もう一つは当事者に主観的な世界がどう見えているのか、軽々には判断できないということにもつながる。他者の表層をみて何かしらの判断を下すというのはやっぱり暴力的なことだし、気を付けないとなぁとしみじみ思わされたのだった。

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