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「~ですが」はグレーのボタンくらい、わかりにくい - ことばのデザインvol.01


↑のグレーのボタンどれが押せるか押せないか、わかりますか?
ボタンの挙動を確かめないと、ぼくは答えれません。

このようなグレーのボタンと「〜ですが」は似ているなぁ、と。
デザイナー目線で感じます。
たとえば次の文の○○○に、どんな内容が入りそうですか?

デザイン案を確認しましたが、○○○
来週のお打ち合わせの件ですが、○○○
また、予算を交渉しましたが、○○○

グレーのボタンと同じく、答えにくいのではないでしょうか。

なぜボタンと同じかというと、本来の使い方とは異なりそうなためです。
ボタンは本来、押せます。
「〜ですが」は本来、逆の意味がつづきます。

本来の役割や慣例をもとに、何が起こりそうか人は常に学習しています。
先程の例文の○○○には、こんなパターンが入りそうです。

デザイン案を確認しましたが、問題ありません。
デザイン案を確認しましたが、商品が際立つよう調整お願いします。

来週のお打ち合わせの件ですが、10月10日13時にZoomにてお願いします。
来週のお打ち合わせの件ですが、延期させてもらえないでしょうか。

また、予算を交渉しましたが、なんとか追加してもらえるそうです。
また、予算を交渉しましたが、追加はむずかしいそうです。

ルールが乱立していて学習できない…!
逆の意味であったり、順当な意味であったり、文のつなぎであったり。
UIデザイン的に考えると、コンポーネントの設計ができていません。

デザイナーの仕事は、コンポーネントなどの視覚情報に、受け取りやすい世界(ルール)を設計することです。
ことばも同じように考えることで、こんなことに繋がるはずです。

・ユーザーが理解・判断・行動しやすいデザインにできる
・円滑なコミュニケーションができる
・わかりやすい資料をつくれる


この記事では、ことばのデザインの1歩目として、
「〜ですが」をデザインするために次のことを書きます。

## 「〜ですが」のパターンと改善案
 - 順当な意味が続くパターン
 - 逆の意味が続くパターン
 - 文のつなぎパターン
 - 自分を守りたいパターン

##「〜ですが」を使ってしまう理由
 - オールマイティなため
 - 話ながら考えれるため
 - 文を複雑にできるため

## ことばのデザインも楽しそう



「〜ですが」のパターンと改善案

全パターンごとに、デザインや業務上にありそうな例文を取り上げました。
例文をもとに改善案も考えてみます。


順当な意味がつづくパターン

▼ Before
クーポンをお持ちですが、利用しますか?

「(理由)ですが、(理由に沿う主張)」といった順接のパターンです。
本来の使い方と真逆です。
よく考えて読むと違和感がありませんか?

▼ After
お持ちのクーポンを利用しますか?

「ですが」を省き、ユーザーへの親切な提案になるよう入れ替えました。
一般的に順接には「なので」などを用います。
ただ「なので」は論理的で押し付けがましい印象を受けるので、使用を控えました。


逆の意味がつづくパターン

▼ Before
クーポンを利用されましたが、システムエラーが発生しました。

「(期待)されましたが、(期待と反対の結果)」といった逆接のパターンです。
本来の使い方に倣っていますね。
ただUIデザイン的に考えると「〜ですが」のイディオムは崩壊している、とぼくは考えています。
特別な理由がないかぎりは他のことばを使います。

▼ After
クーポンを利用できませんでした。○○の設定を見直してください。

明白なことを省き、どうすれば期待どおりの結果にできるか案内します。
今回のケースでは「利用されましたが」は明白です。
ユーザーは前の画面でクーポンを利用しているはずなので「利用された」ことは説明しなくても理解しているためです。

さらに「システムエラー」は、ユーザー目線のことばではありません。
ユーザーがわかることばに置き換えました。


文のつなぎパターン

▼ Before
お問い合わせいただいた件についてですが、3営業日以内にメールにてお返事いたします。

「(なにを)ですが、(どうする)」といった文のつなぎパターンです。
主語 + 述語のケースが多いです。
単純に「お問い合わせいただいた件は、3営業日以内にメールにてお返事いたします。」と言い換えれますね。

▼ After
お問い合わせありがとうございます。10月10日(月)までにメールにてお返事いたします。

ユーザーへの感謝をつたえ、受け取りやすい情報にしました。
「3営業日以内」は、ユーザーが情報を変換する必要があります。
こちらから変換できるのであれば、変換しておきましょう。


自分を守りたいパターン

▼ Before
遅くなりましたが、資料をお送りさせていただきました。

「(自分を守る)が、(要件)」といった保身パターンです。
突っ込まれないように先に弁解しておきたい気持ち、わかります…!
ただ相手が欲しい情報は弁解でしょうか?
他にも「小さなことですが」「すみませんが」「余談ですが」などがあります。

▼ After
資料をお送りいたしました。遅くなり申し訳ありません。

相手が知りたい情報を先につたえました。
相手目線に立って情報の優先度を考えると、自ずと順番は決まりますね。
また、弁解しないように体験をデザインするのも大事なポイントかなと思います。


「〜ですが」を使ってしまう理由


オールマイティなため

「〜ですが」は、上記のように様々なパターンで使えます。
どんな文も、ことば選びをせずとも自然とつながってしまいます。

書き手にとっては、やさしい存在ですね。
反対に読み手にとっては、やさしくありません。

デザイナーとして、読み手のためのやさしい表現を探り続けたい、と考えるようにしています。


話ながら考えれるため

口で話す行為は、考えたことを素早いスピードで、ことばにしています。
「〜ですが」はどんな文でもつなげれる上に、文字数が増えるため、考える時間を稼ぐのにも適しています。
話しことばで「ですが」や「けれども」を、ぼくもよく使っています。

つまり、話すように書くと「ですが」を多用してしまうのかなと思います。
話すはあくまで素早いアウトプット、つまりラフ案なようなものです。

デザイナーとして、書くことはラフ案ではない、と考えるようにしています。


文を複雑にできるため

「〜ですが」は、文をつなげる力が強いので、一文に複数の意味を込められます。
複雑にすることで、むずかしいことを言えた感を得られます。

むずかしいことを言えた感のある文は、読み手にとってわかりやすいでしょうか?
残念ながら大抵のケースは、わかりにくいです。

デザイナーとして、自己ではなく他者のためにことばを選びたい、と考えるようにしています。


ことばのデザインも楽しそう

デザインするように相手の視点で、ことばを組み立てる。
そのように考え出すと、デザインみたいで楽しいなって思えてきます。

この記事は「〜ですが」を使わないで!と主張したいわけではありません。
グレーのボタンが適切なデザインも存在します。
なので、グレーのボタンのように特徴を理解して設計できると良いなと考えています。

UIデザイン・Webデザインは、ことばがユーザーの理解・判断・行動をつくっています。
Webサイトは95%がタイポグラフィといった考えもあるくらいに。
なので、デザイナーがことばに拘っても拘りすぎることはないのかな、と思い書いてみました。

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