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疑わしきは被告人の利益に

あふれるニュースの中から、学びや気づきがほしい。そんな方のため、元県紙記者の木暮ライが取材し、印象に残ったニュースを取材後記で紹介しています。

■けんかで被害者死亡/暴行の特定に至らず―男2人に「同時傷害の特例」

昨年(2022年)12月31日午前4時~4時25分ごろ、福島市の繁華街(さんかく広場付近)で、言いがかりをつけてきた男性(当時20歳)とけんかになり、篠木正元被告(当時25歳)が男性の腹を蹴って頭を地面に打ち付け、栗原明被告(当時25歳)が頭を数回殴り、頭にけがをさせた。男性は搬送先の病院で死亡した。関係者によると、死因はくも膜下出血とみられる。両被告のどちらが男性にけがをさせたかは特定されていない。

(2023年6月15日 河北新報朝刊)

両被告は、傷害の罪に問われ、求刑通りそれぞれ30万円の判決を下した。木暮は、単なる傷害事件と思い事実だけを報じた。今ではこの判決について検証取材しなかったことを後悔している。あとで社会部デスクにも釘を刺された。しかし、河北新報の記者は地検などに取材を重ね、暴行の特定に至らなかった理由を丁寧に記事化した。

福島地裁は判決は起訴内容通りに事実認定し、死亡という結果ではなく暴行による傷害のみを刑事責任の対象とした。

(2023年6月15日 河北新報朝刊)

検察は、当初傷害罪で起訴したものの、傷害致死罪への訴因変更を模索していた。しかし、解剖医は「頭を打ったことが直接の原因とは考えにくい」と判断。亡くなった男性の死因は、病死の可能性もあることから、検察は訴因変更を断念した。

裁判所が下した判決は、刑法例外規定の「同時傷害の特例」だった。

《同時傷害の特例とは》
共謀なしで2人以上が同じ相手にけがを負わせた場合、暴行した者が特定できなくても暴行した共犯と同じく処罰できる。共謀があれば、傷害が生じる危険性や暴行の時間、場所が近い場合に「傷害罪」として適用される。傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」とある。

かつて「疑わしきは罰せず」という言葉を作りだした法廷弁護士のウィリアム・ガロウは、「裁判は、告発者が証拠を提供し、法廷で徹底的に検証されるべき」と主張した。日本の刑事訴訟法336条には「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」とある。「疑わしきは被告人の利益に」の原則を表明したものだと理解できる。しかし本件は、その法則を無視したといえるのではないか。2人の被告がやったことは到底許されることはない。しかし、法律の矛盾を考えると、判決は妥当だったのだろうか。
今も、判決後の加害者側親族の涙を忘れることはできない。

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