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日本の正社員よ。正常な危機感を持て

最近、仕事絡みの経験から一つの思いに囚われています。
それは、会社員としての日本人の弱さのことです。

ある新しい仕事のポジションを募集していましてね。
社内と社外で同時に募集をかけていますが、できれば社内の人材のほうがいいので、私が前いた部署の元同僚などにも広く声をかけています。
募集しているポジションの職場は東京なので、私が昔いた日本企業の知り合いにも募集情報を提供しました。

するとどうなったか。
元同僚からガンガン連絡が入りました。詳しい話を聞かせてほしい、と。
即日連絡してきたのは、オランダ人、インド人、アメリカ人、クロアチア人などでした。
日本人からの問い合わせは今のところゼロ。東京のポジションなのに。
この状況をどう理解したらいいのだろう。


もうひとつの経験は、日本支社のとある日本人社員のことでした。
彼(K氏としておきます)に関する苦情を 6人の現同僚から聞かされてきました。
私が日本人だから、というのもあるでしょうが、そういう情報(たいていはよくない情報)が私のところに集まるようになっているのです。

K氏に関する苦情をまとめるとこんな感じ。
✅同じことを何度説明しても理解してくれない
✅仕事がいい加減で間違いだらけ
✅納期を無視して定時退社
✅普通の対話が成立しない
✅忙しがっているが、じつは何もしていない

いやはや・・・ひどいものですね。
仕事上、私には直接の被害はないのですが、K氏と話したことがあるので、これらの苦情がすべてそのとおりであることを私は察しています。
彼は責任感というものが皆無だし、同僚に対する感謝や思いやりといった、人としての感情がそっくり欠落しています。
能力の問題という以上に、態度と人間性の問題なのです。
40近い大人がこれでは不治の病のようなもの。
私はとっくに諦めていて、極力 K氏に何もさせないように業務分担を組み替えてきました。
それが最善の解決とは思いませんが、全員のハッピネスを考えての苦肉の策でした。

先日、同僚の一人が真顔でこう言いました。

日本の会社は、どんなにひどい (terrible) 社員でも解雇できないのですか?


世界で最も労働者にやさしいヨーロッパの人間から見ても、日本の労働法は甘すぎるという指摘。
契約社員や派遣社員などの非正規社員が冷遇される一方で、いわゆる正社員は無能でも怠惰でもサイコパスでもめったに解雇されない。
それが日本の伝統的な雇用慣行だということを思い出しました。

「終身雇用」と言って、もともと日本の会社は社員を定年まで雇用し続ける慣行を守ってきました。
ある意味で良き時代だったし、それで全員ハッピーなうちはよかった。
しかし、そのやり方を嫌った竹中平蔵に代表されるネオリベ政権が、次々と法律を改悪し、大量の非正規労働者を生み出した。
非正規労働者は、処遇面で不利なだけでなく、比較的容易に解雇されうる。
一方で、正社員は雇用保障 (job security) がある身分なのです。2024年の今でさえ。

私は、終身雇用などの日本的雇用慣行を良しと考える人間です。
しかし、ネオリベによってズタズタにされてしまった雇用環境を元に戻すにはもう遅すぎます。
そんな悲惨な社会になってしまったなかで、正社員だけがのうのうと雇用を保障されているのはおかしいんじゃないか。

大切なことなので何度でも言います。
すべての人の雇用が保障される社会がベストだと私は思います。
しかし、被雇用者の半数が非正規雇用になってしまった今となっては、正社員も正当な理由があれば解雇できるようにしたほうがいい。
そうすることで、新たな正社員雇用の機会が増えるからです。


終身雇用には良い面と悪い面があります。
かつて日本の会社ではその良い面が出ていました。
雇用が保障されることで、コミュニティとしての連帯が生まれ、互いに助け合えた。強みと弱みを併せ持つメンバーが互いの弱みを補い合うことで、全員が貢献しながらチームパワーを発揮することができた。

悪い面は、過度の雇用保障によって正社員が甘やかされることです。
例えば、K氏のような “腐ったリンゴ” を生み出すことがある。
私は、K氏に良いところがまったくないとは思いません。
ただ、今いる組織の中では、自分と周りの人たちを不幸にしてしまうので、辞めていただいて別の輝ける場所を見つけてほしいのです。

新しいポジションの募集を見て、即連絡してくる外国人たちと、反応しない日本人の違いはどこにあるのか。
それは、キャリア形成を自分事じぶんごととして捉えているか否かの違いです。
自分の人生を大きく変える可能性のある話を聞きたい、と考えるのは当然のことだと思います。
自分から動こうとしない日本人社員らは、仕事もポジションも会社が与えてくれるもの、くらいに思っているのでしょうか。あまりに危機感がなさすぎやしませんか?

かつては日本の会社を強くした日本的雇用慣行が、今は日本の会社員をダメにしている。
日本の経済が停滞していると言われて久しいけれど、問題の根っこは正社員を解雇できない体質にあるのではないか。
とくに重厚長大な企業の正社員が無能無策なまま残留していると、時代遅れの産業が不当に延命するだけでなく、新たな産業へのシフトが一向に進みません。

日本の会社が正社員を解雇しやすいように変わるとどうなるか。
良くなるか、さらに悪くなるか、一概には言えません。
一時的に痛みをともなうことになる可能性はあります。
しかし、解雇された人は新たなフィールドで活躍する場を見つけるかもしれないし、解雇した会社は新たな人材を採用することができるはずです。

人材マーケットの流動性を高める。なんて言うと、いかにも転職エージェントやキャリアコンサルタントが喜びそうですが、肝心なのは、何歳からでも新たな人生を始められる寛容な社会になることだと思います。


P.S. 新しい仕事に興味を示さない日本人正社員よ。
ある程度安定した現状に満足しているのかい?
オランダやスイスで普通に働いてるやつらは、東京で新しいライフに出会う可能性に目を輝かせていやがる。
彼ら彼女らは、常に機会を探しているんだ。
そういう生き方はしんどい?
一度きりの人生じゃないか。
安定もいいけど、たまには変化もいいんじゃないか?