森友事件は、日本の政治官僚組織がいかに腐っているかの代表例だ(デモクラTV本会議2020年7月18日生放送から)

2020/7/18 第381回
デモクラTV本会議項目

司会:
山口一臣(「THE POWER NEWS」代表、元「週刊朝日」編集長)

コメンテーター:
孫崎享(評論家・元外務省国際情報局局長)
明珍美紀(ジャーナリスト)
田部康喜(東日本国際大学客員教授・元朝日新聞論説委員)

2)森本自殺訴訟始まる

(2)学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当していた元財務省近畿財務局職員赤木俊夫さん(当時54歳)が、佐川宣寿(のぶひさ)元国税庁長官の指示で決裁文書改ざんを強制され自殺に追い込まれたとして、妻雅子さんが国と佐川氏に計約1億1千万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が大阪地裁で開かれ、国と佐川氏側はいずれも請求棄却を求めました。(東京新聞16日朝刊23面、14日朝刊27面)

山口
赤木さん自身は、国有地の値下げのときにはいなかったんですよね。その後近畿財務局にきて、雅子さんの手記によると、休日に呼び出されて、そのまま改ざんさせられたと。それ以降、明るかった夫が、暗くなってしまった。最後はうつ病を発症。で、自殺に追い込まれたと言う話なんですが…ひじょうに痛ましい事件だと思います。孫崎さん、どのようにとらえていらっしゃいますか?

孫崎
もう本当にこれを見ると、日本の政治官僚組織がいかに腐っているか、代表例になってきましたよね。これだって、この森友学園の問題がおかしいと。一連の佐川さんの答弁であるとか、その後の財務省の答弁であるとか、おかしい。みんなそう思ってんですよ。だけど、財務省の次官、新しく誰がなりましたか? 森友の対応を擁護する人がなっているわけですよ。彼の発言がおかしいって、みんなわかっているんですよ。彼がまともなことをしゃべっているって、誰も思っていませんよ。しかしそれが次官になるのが、今の日本の社会です。だから、すべてがね、さっきから申し上げましたが、福田さんがいったように官僚は、すべて、安倍さんを見てる。安倍さんが好ましいと思う発言だけする。そして、好ましくない発言をしたら、あらゆる組織から排除される…こう思ってる社会になってるんですよ。その本当の代表例が森友だと思います。

山口
今回雅子さんは賠償が欲しいわけではなく、何が行われたのか、そのためにあえて訴訟に踏み切ったとコメントされていますね。

明珍
雅子さんの意見陳述を詳細に見ると、改ざんさせられたこと、それと赤木さんは修正改ざんについてのファイルをきちんと整理していたということですね。ぱらっと見たら、めっちゃ綺麗に整理してある。全部書いてある。どこがどうで、何が本省の指示か、修正前と修正後、何回かやりとりしたようなやつがファイリングされていて、パッと見ただけでわかるように整理されている…という風に上司が言っていたと。これだけの証拠もあるのに、それが公表されない、それからここまで提訴に至るまでの赤木雅子さんの思いですね。夫は非常に公務員としての仕事に誇りを持っていた。安倍首相がこの問題に関わっていたら辞任すると発言をしましたよね。その後に、赤木さんは亡くなっているわけです。この発言についても、やはり、首相にかなりの責任がある。赤木さんが、自分は、国民に大変申し訳ないことをした。この自責の念、それから、改ざんをしてしまったことについて、自分はこういうことをしてしまった、それから、自分は仕事に対する誇りを失った。いろんな理由があると思うんですけど、そこで自死に至ってしまった。真相解明をする証拠はかなりあると思うんですけれど、これが開示されていない。そこで赤木雅子さんは、どうして夫がこういうことになってしまったのか、それを知りたいのと、二度とこういうことを起こしてはいけない、ほかの官僚の人たちがこういう目に遭っているかもしれない、夫と同じ思いになっているかもしれない、これをここで断ちたい、断ち切りたいといういろんな思いがあると思うんです。そこを私たちもきちんと受け止めないといけないと思うんです。

(CM)

山口
本当は証拠となるファイルがあるが、開示されていない。もう一点、赤木さん自身は公務災害が認定され、その意思決定の情報開示を求めたんだけれども、文書がまったく黒塗りで出てきた。真相がわからないじゃないか、というのが奥さんの思いだと思うんです。巷間言われているように、安倍さんの国会答弁に合わせるために、財務省が組織ぐるみで公文書改竄したんじゃないかという疑いも指摘されています。確かに赤木さんという人が、近畿財務局の職員個人として公文書を改竄する動機ってないわけですから。そのへん解明されないと、なかなか事件の解決にはなっていかないと思います。

田部
改竄についてはね。刑事面では不起訴になったわけですよね。民事なんですけど、皆さんご存知でしょうけれども、国家公務員法、地方公務員法で、公務員個人はですね、無責任なんですよ。責任がないんです。政策を作ったり、指示することについて。だから、佐川さんを訴えたのはよくわかるんだけども、佐川さんから賠償金を取るのは困難だろうと思います。それで、国に対して、国が佐川さんに指示したと言う点について、どこまで解明が進んで国が国家賠償責任を負うかどうか、っていうのがポイントになってくると思うんです。ただし、その過程でいろんな証拠といいますか、文書が出てきたりすれば、かなり政権を揺さぶることになるのは間違いないと思う。やっぱり奥様が、無念に倒れた夫の為に立ち上がった、ということは、かなり政権にとっては痛いところであるし、世論的にもインパクトがあるだろうと。かつ、先日のNHKクローズアップ現代Xですか。亡くなる直前の赤木さんの寝てるところの動画が出ていて、死にたい、死にたいって言ってるのを、奥さんが何を言ってるのと、奥さんが公開したわけなんですけど。明らかにうつ病の精神疾患が出ている。おそらく、推測ですけれども、重要な人物なので、地検が参考人として何度も呼んでると思うんです。そうすると神経がおかしくなる人が出てきて、汚職事件では課長補佐級が自殺に追い込まれると言う、典型的なパターンだと思うんですね。ここをどう解明していくか。そして、その過程でいろんなものが出てくるだろうと思う。テレビに出した動画も証拠として原告側が提示するだろうと思います。それに精神科医の鑑定書をつけるかどうかは別にして、追い込まれていった過程というものが、明らかになってくるだろうと。そうなると、かなり政権にとっては…ここまでコロナの対応を含めて30%台まで落ちてますから、…赤木夫人の勇気ある訴えというものが、かなり政権のダメージになってくるだろうということは言えると思いますね。

山口
私達もこの裁判の成り行きを注目していきたいと思うんですけど。一点、これ僕の認識なんですけど、佐川さん個人の賠償請求ってどうだって疑問の声がありましたが、かつて自衛隊の中で、パワハラ自殺があった時に上官の不法行為が認定されて、損害賠償が認められたケースもあるので…このケースってパワーハラスメントにもかなり近い事例なので可能性はゼロじゃないかなと思うんですけどね。やっぱり僕ら外の人間からすると、不思議なのは、佐川さんて言う人が、あれだけ国会に呼ばれて、ひどい言い方をすると嘘ついてんじゃないかという印象をもつ答弁を繰り返すじゃないですか。なぜああいうことができるのかな…ということと、この佐川局長さんから、地方の外局のね。近畿財務局の赤木さんというところまで、こう、つながっていくわけですよね。この人は勝手にやらないじゃないですか。上司に言われて、その上司も上司に言われて。その上司は本省に言われて。

孫崎
佐川さんのとこまでいったら、総理のとこまで行くんですよ。この案件は。だから誰も、正しいことをいったら自分は外されると思ってるから。あの…なんていうんですかね。

山口
質問を変えます。財務省の中で告発者が出てこないのはなぜですか?

孫崎
(間)…だって、告発者が仮に出てきたとしましょうか。まず言えることは、私は外務省に入って、一年目ぐらいに、もう、発言は組織を守るためにあると、いつの間にか思うようになるんです。正しいことをしゃべることよりは…

山口
なるほど

孫崎
何が正しいかというんじゃなくて、我が省の立場は何なのかと。その立場にいかに自分を合わせるか。っていう…

山口
わかりやすかった! いまの。

孫崎
そういう生き方を一年目ぐらいに身に着けるんですよ。

山口
そうなんだ、なるほど。

孫崎
それで。それに遅れる人がいる(笑)。ついていけない人が。遅れて正しいことを言いたいという人がいるわけです。しかし、その人たちは外れていくわけですよ。役所というのは非常にうまく操作していて、役所に入れば、目的は、いかに偉くなっていくかということになっていくんです。あるいは偉くいいポストになっていくか。自分の全人生みたいに感じてくるんですよ。その中で、この発言をしたらまずいというものが、みんなに共有される。そして、佐川さんも、たぶん、今だって、自分は正しい発言したと思ってますよ。だって、これをやっていったら、総理のとこまで行っちゃうわけだから。そしたら、財務省では、これは許されないというような形で、論理的に忠誠を誓うというものが、絶対の生き方だと思うんですよ。残念ながら。

田部
それはね、官僚だけじゃないんですよ。日本社会が共同体化してるんですね。会社もそうですし…会社でもね。内部告発なんてめったなことじゃ起きませんよ。新卒一括採用でね。やっぱり、一年目から叩きこまれるわけですよ。わが社の論理はこうだと。ライバルに対してこうなんだと。外務省に入られたり、財務省に入れば、経済産業省に対してはこうなんだと。経済産業省は、財務省に対してはこうなんだというふうに叩き込まれるわけですね。組織の共同体化っていうのは日本の宿痾になっているわけです。内部告発者は企業でもめったに出ませんし…さっき孫崎先生が非常にうまく表現なさってましたが、正論を吐けば外されていくわけですね。正論を吐く人っていうのが、遅れた人なんです。組織の中では(笑)。なんで勉強しないの、お前って。いつまでそんな青臭いこと言ってんのってことになるんですね。戦前は自由に移動できたし、戦前の官僚組織だって…まあ。維新に戻ればそのへんの足軽だったやつがどんどん偉くなったりしたわけですよ。高等文官試験なんていうのはつい最近ですからね。日本の新卒一括採用だって、高度成長時代に確立した制度なんですけど、そこで組織が共同体化してしまった。一般社会の常識よりも、組織体の常識を優先すると。新聞社、テレビ局、メディアにしたって、同様ですよ。どうして朝日新聞が従軍慰安婦の誤報を30年近くも黙って見過ごしたかと。組織の論理でしょう、やっぱり。これを明らかにしてしまえば、大変なことになる。部数も減るんじゃないかとか、ライバルにつつかれるんじゃないかとか。その他、いろんな誤報を隠ぺいするということがありますよ。佐川さんの問題は徹底的に追及すべきだと思うし、財務省のあり方も徹底的に追及すべきだと思うけども。根底的に日本社会の組織が共同体化してしまって、その論理が一般社会の論理よりも優先される構造が出来上がってしまった。それが様々なところで綻びが起きている。一括採用、中途採用…山口くんなんか中途採用でがんばったけども、組織の中で差別されてるからね。新聞社が一番ですよ。新卒一括採用と、年次とかね。あるいは地方採用と本社採用。地方回りと東京本社…

山口
その話し出すと(笑)…

田部
そうじゃなくて、僕が言いたいのは、そういう典型的な日本共同体の…山口くんがんばったけども…部長までだからね。中途入社に対する差別があるわけですよ。

山口
賛成しますけど(笑)…

田部
そういう日本の最も典型的な煮詰まった制度を取ってるのが霞が関と実はマスコミだっていうことなんです。マスコミが、自分自身の共同体的な体質、ありようについて自覚なしに人の会社批判したり、官僚を批判するのはどうかなあと。まず自分からあらためよと。女性の比率を高めたり、中途採用の比率を高めたりしながら、開かれた会社にしていく。そういうことをしないと、いつまでたっても…メディアも責任ありますよ。いろんな問題について。もうちょっと、メディアの皆さんに自覚してほしいのは、自分たちがもっとも日本的な共同体化した組織であるってことです。

山口
そうですね。一個だけ面白い話するとね、確かに僕ね、中途採用で入って、先輩に呼ばれて、がんばっても中途の人は編集長になれないからって。今のうちに釘さしとくって言われました(笑)。確かにそういうとこありますよね。

田部
僕なんかフランクだったでしょ全然。そういう人間もいるんだけど、そういう人間はちょっと違うわけだよ、組織の中じゃ。

山口
そういう宿痾みたいな組織の論理に絡め取られていくっていうのが一方でありつつ、もう一つは民主党政権の責任でもあるんですけど、政治主導といって、官邸に人事をやらせるようになったじゃないですか。

孫崎
政治主導で、政治家が勉強してんならいいですよ。勉強してない人が主導したらどうなるんですか。

田部
予算書を3人でいじってたって言うんだよ、民主党の奴が。政務次官とか政務官とかね。アホじゃないか。勉強もしないで。自分たちで予算なんか作れるわけない。方針を示すのが政治家なんだから。優秀なんだから、官僚は。

孫崎
首相と言う事を考えると、昔は首相になる人は、俺は首相になるからといって勉強やってたんですよ。

山口
有名な中曽根さんの大学ノートとかね。

孫崎
宮澤さんとか、いろんな人が自分たちのブレーンを大事にして、そして俺は日本の指導者になる。そのためにはちゃんと勉強しなきゃいけないと言う事、ある時代まではあったんです。いまバカでいいんですよ。バカでいいという国に日本人がしたんですよ。知的な物に対する憧れ、知的な物を大事にすると言う社会ではなくなった。残念ながら。日本はこの後、5年、10年、没落していくだけですよ。だって、知的な物に対する好奇心どこにもないんだから。知的な物を高めたら自分の人生がよくなる、利益がある、そう思ってる日本人なんていないんだから。

明珍
台湾では閣僚、大臣の人たち自身が、ある分野の専門家である人が多いわけですよね。そういう人たちがどうしましょうと内閣で話合って、垣根を超えてこれでやりましょうということで、成功してる国があるわけですよね。それが日本はできなかったのは、先ほどから皆さんおっしゃってることだと思うし。この問題にしても、安倍さんが直接改竄せよと言わなかったのではと思う。じゃ、どこの段階で忖度したのか、そこですよね。その人たちの責任ていうのを、追及しないといけないし、加害意識ですよね。加害者処罰をきちんとしておかないとまた似たようなことが起きると思うんです。そのためにも情報開示ですよね。

孫崎
いや、あのね。安倍さんが言わなくったって、安倍さんがそう思ってる…私がもし財務省の局長だったら、同じ様にしますよ。たぶん。

明珍
やっぱり佐川さんが忖度した?

孫崎
そりゃそうですよ。総理はこうなってると。言う事を…そこがおかしいんじゃないんです。総理がこうなってると言う事はみんな思ってるんです。思ってるから官僚はそうするんです。だからその構図がおかしいということを言っていかないと。

明珍
だから責任をきちんと追及する。公務員が不祥事を起こしても、国の責任だからということで逃げられてはいけないと。

孫崎
一番はね、安倍さんのところを追及しなきゃいけないんですよ。安倍さんのところを追及しなくて、下の所を追及してたって、この問題はまったく解決しない。これからも同じようなことが起きるんです。一番の人たちが何を考えて、それを忖度する。そして、その下の人たちだけをいじっててもダメなんです。一番の上の人たちが何を考えているか、そこがおかしかったじゃないか、ここまで切り込まなきゃいけないんですよ。

明珍
そうですね、それはメディアもそうですし、裁判でもそこまできちんと追及できたらいいですよね。

山口
公務災害が認定され、自殺して、世間の話題にもなった問題なのに。墓参とかそれぐらいしてもいいですよね。

明珍
昭恵さんがメールしたとか…

山口
昭恵さんの言葉ですからね(笑)。ホントにするかどうかもわからないし。

明珍
それぐらいやるべきだとは思います。

山口
そうですよね。その程度の事がなぜできないのか、謎です。国と佐川さんは自分たちは悪い事してないと主張をしていこうということなので、裁判の成り行きについて注目したいと思います。

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