DLsiteで調べる同人作品は結局いつ売れているのか

はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお世話になっております。

DLwatcher.comというDLsiteのセール情報提供サイトを運営している濡羽十色と申します。

せっかく2023年のデータが一通り揃っているので、もうしばらく整理していこうと考えております。

今回は「時間」にターゲットを絞ったデータ抽出を行いました。同人作品はいつ売れているのかです。

かなり基礎的なデータであり、今後の資料の基礎として必要です。パッと考えると、2月初頭の現在やっているウインターセールは影響があるか、夏コミ冬コミの時期は売り上げが上がるか、といったことが疑問に思えます。

さてその実際はどうなるか、見ていきましょう。

※全年齢、男性向け、女性向けの分類はDLsiteのトップページでボタンが分かれているものに対応します。


計算方法

まずは、今回出している指標の計算方法を説明します。このところ出している指標と同様に「販売数×定価」を出しています。この記事ではこの指標を「販売量」と呼ぶことにします。

作品の販売数の合計ではありません。その点はご注意ください。

また、セール中の販売について補正はかけていません。そのため、大型セール期間中の販売については経済の実態より大きな数字になっている可能性があります。

ゲームなど販売価格が高くなりがちのカテゴリの影響が販売数では過小評価されることになるので定価で補正をかけています。

月別販売量 - 全作品形態

まず、月間の販売量が年間の販売量の何パーセントになるかをグラフすると図1になります。

図1: フロア別月別販売量比率

男性向け成人フロアは年中売り上げに大きな変動はなく、強いて言えば12月が多く、次いで8月という程度になります。冬コミの作品はDLsiteでは1月発売の場合が多いのでこれらは大型セールの影響と言って良いでしょう。

女性向けフロア(乙女向け+BL)はともに8月12月に明確なピークがあります。逆に2月3月に明確に売り上げの落ち込みが出ています。

全年齢向けは、7月に最大のピークがあります。昨年の7月は大型のゲームタイトルが発売されていたのでその影響かとも思い調べましたが、それを除いても7月がピークであることには変わりありませんでした。セールによる誘導では説明しきれないので今後の分析課題になります。

月別販売量 - 作品形態別

作品形態別でグラフにすると図2-4になります。

図2: マンガ・イラスト・CG作品月別販売量比率

マンガ・イラスト・CGカテゴリはかなり季節性があり、販売フロアを問わず似たような動きになります。同人誌での発表の場に強く影響を受けていることが見て取れます。

図3: ASMR・音楽作品月別販売量比率

ASMR音楽カテゴリは販売フロア間で共通した季節性はほぼありません。

図4: ゲーム作品月別販売量比率

ゲームカテゴリのR18は年間通してほぼフラットです。全年齢フロアの7月のピークはほぼ1作品が作ってます。ビックタイトルの影響力が凄まじすぎて分析不可能です。

発売からの経過日数

全年齢フロアが顕著でしたが、結局のところ作品が発売された直後の販売の影響が強いのでは無いかと予想が立ちます。

例えば、2023年に発売された作品を追跡して販売数の推移を調べれば、どのような売れ方をしているかは調べることが可能でしょう。しかし、この方法はどうしても時間がかかります。1年分のデータを蓄積しようとしたら2024年が終わります。

そこで逆に、2023年の販売数データから、その時発売日から何週間経過しているかというデータで集計を行いました。

100週までをグラフ化すると図5になります。

図5: 発売からの週別販売量比率(100週間)

どの販売フロアもほぼ同じ動きをしています。

発売直後の影響が大きいことは見て取れるので、10週までのみでグラフ化すると図6になります。

図6: 発売からの週別販売量比率(10週間)

発売から1週間でだいたい全体の20%の販売量になります。

平均で言えば、作品発売後の第1週の売り上げを5倍で最終的な売り上げが予測できると言えるでしょう。

より正確に予測するのであれば、中央値を調べることになります。

販売フロア別、販売経過週数の中央値は以下の通りになります。

$$
\begin{array}{l c}
\textbf{フロア} & \textbf{販売量中央値/週} \\ \hline
\text{同人(全年齢)} & \text{19} \\
\text{同人(18禁)} & \text{19} \\
\text{乙女向け同人} & \text{14} \\
\text{BL同人} & \text{25} \\ \hline
\end{array}
$$

乙女向けフロアが中央値まで早く到達し、14週です。それに対してBLフロアが25週と遅めになっています。BLフロアは初週の販売量比率が低いため、購入判断が全体に慎重になっていると言えるでしょう。逆に乙女向けフロアは購入に貪欲なマーケットであるようです。

男性向けと、全年齢はともに19週と女性向け全体の平均といえる当たりになります。普通がこれぐらいということになるのでしょう。大体4ヶ月ぐらいで買う人、欲しい人の5割には行き渡っているということになります。

長期での経過日数

続いて、年単位での販売経過を見ていきます。

1年目(1-52週目)から5年目(208-260週目)までに全体の売り上げのどれだけの比率に達しているかを集計しました。

図7: 発売からの年間販売量累計比率

$$
\begin{array}{r c c c c}
\textbf{経過年} & \textbf{同人(全年齢)} & \textbf{同人(18禁)} & \textbf{乙女向け同人} & \textbf{BL同人}\\ \hline
\text{1} & \text{68.98\%} & \text{66.11\%} & \text{81.19\%} & \text{67.97\%}\\
\text{2} & \text{83.03\%} & \text{78.26\%} & \text{94.35\%} & \text{84.20\%}\\
\text{3} & \text{91.29\%} & \text{85.66\%} & \text{97.84\%} & \text{92.36\%}\\
\text{4} & \text{94.34\%} & \text{90.27\%} & \text{99.10\%} & \text{95.93\%}\\
\text{5} & \text{96.08\%} & \text{93.16\%} & \text{99.61\%} & \text{97.45\%}\\ \hline
\end{array}
$$

男性向けフロアは古い作品も発掘されて購入されているのがわかります。発売から5年以上経過した作品も全体の7%程度売れていることになり、なかなか無視できない比率です。

乙女向けフロアは逆に、4年前までの作品で99%になります。それ以上古い作品はほぼ売れていないということになります。

大胆に仮説

今回のデータから見ると乙女向けフロアはある特性が高いように思われます。

その特性とは他のフロアより「需要が貪欲である」という性質です。供給の面から言えば「作品数が不足している」とも言えます。

データの切り口として今後調査予定としていきましょう。乞うご期待。

DLsiteは性質の良いマーケットなのでは?

販売経過日数でのグラフを出すと、非常に綺麗なグラフが出ました。

見ていると惚れ惚れしますね。

季節要因よりも販売からの経過日数によって販売量が決まるということでしょう。

「同人作品は結局いつ売れているのか」の答えは「発売からの経過日数でほぼ説明できる」です。

ちなみに、性質が一番良いであろうと思われる男性向けフロアで両対数グラフを作ると、図8なります。

図8: 発売からの週別販売量比率(両対数)

わかる人だと「なるほど」となりますよね。さらに分析を入れればパレート分布として整理されることでしょう。

必要な時にマーケット特性の調査をする予定です。(今は先延ばし)

付録

付録は有料となります。

付録の内容は各グラフの元データになります。多くの人には全く必要ないデータですが、興味深かったと感じた方、自分で分析を入れたい方は課金していただけるとありがたいです。

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