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知られざる鉄鋼業界!東大発スタートアップがカーボンニュートラルを目指す

世界で最もCO2を排出すると言われる鉄鋼業界。そんな中、今回取材した株式会社EVERSTEELは「鉄リサイクルの促進」の事業を展開しています。

具体的には、リサイクルのために工場に運び込まれる「鉄スクラップの分別・検収作業」の自動・効率化。

スキルを身に着けるのに時間がかかり、熟練の作業員の人力に頼らざるを得ず、さらに技術を継承する人材が不足しているというこの「検収作業」の問題を、AIによる画像解析で解決しようとしています。

今回は、鉄スクラップ解析アプリケーションの研究開発を行う株式会社EVERSTEEL代表取締役 田島圭二郎氏に、業界の実情や今後についてお話を伺いました。

株式会社EVERSTEEL
代表取締役 田島圭二郎氏

外からは、なかなかイメージが湧かない鉄鋼業界。

私を含め一般の方には難しい内容なので、まずはこの業界のサプライチェーン、循環の仕組みを教えていただけますか?

難しいですよね。順を追って説明できればと思います。まず、住宅の解体や廃棄自動車、一般の消費者が買っている電化製品などからゴミ(スクラップ)が発生します。

そしてそのゴミは「スクラップ屋」という金属の廃棄物や各種スクラップを買取・加工・転売している業者さんのところへ集められます。持ち込みのメインは解体屋からで、建物を取り壊した際の鉄筋コンクリートなどをある程度選りすぐって持っていき、それをスクラップ屋さんが買い取ります。

重さ測って、何トンで何円ですって感じですね。スクラップ屋さんは、基本的に色んなものを買い付けています。鉄はもちろん、アルミやステンレス、ガラスなど。ひっくるめてまずは大雑把にゴミを分けてくれるのがスクラップ屋さんの仕事です。

そうして集まった中の鉄スクラップが、今度は鉄鋼メーカーに運ばれて買い付けられます。鉄鋼メーカーでは、集められたスクラップを電炉に入れて溶かし、鉄材として再生産、そしてまた鉄筋コンクリートで使われる、こんな感じの循環システムになっています。

画像:サニーメタル株式会社 Webサイトより

スクラップ屋さんから鉄鋼メーカーに持ち込まれた鉄スクラップは、リサイクルにあたって余分なものを取り除かなければいけません。その作業は熟練の作業員が目視で行っていますが…これがまた大変な仕事なんです。

当社は、その大変な作業をAIによる画像解析でできるようアプリケーションの開発・提供を行っています。

なので我々のお客様は、鉄鋼メーカーやリサイクル会社という位置づけですね。システムの精度を上げるために、鉄鋼メーカーの工場に数週間お邪魔することもあります。

リサイクル先は住宅用の鉄筋コンクリートがメインなんですか?

そうですね、建築材になることが多いです。というのも、再生した鉄材ってそこまで品質が高くないんです。

逆に高品質な鉄材の例を出すと、自動車用の薄い鉄板。薄く引き伸ばして湾曲させるなど加工性が高いことに加えて、いざ事故にあった際にはちゃんと内部を衝撃から守るなどの高い機能が求められる。

そこまでの高品質な鉄材は、リサイクルでは今のところなかなか作れない。じゃあ何を作るかっていうと、鉄筋コンクリートの様な、建物の中で衝撃があっても曲がらない、とにかく堅固に立つ、それだけを求められるような材料になります。建築材や列車のレールとかですね。

持ち込まれた鉄スクラップに、質の良し悪しってあるんですか?

スクラップには鉄ではない色んなゴミが混じっていますが、どれぐらいの割合で不純物が入ってるかによって質は変わります。不純物は主にプラスチック、砂利、コンクリート、同じ金属では銅やアルミなど。それらが入っていなくて綺麗なほど、質の高いスクラップということになります。

品質が良いほど買取価格も上がるんですかね。

正直、あまり変えられていないというのが業界の実情です。もちろん品質が高いスクラップほど高額で買い取りたいのですが、鉄スクラップって言ってしまえばゴミなので、これは綺麗なゴミ、これは汚いゴミ、って適切に評価すること自体が難しいんです。

この評価は鉄鋼メーカーの熟練の作業員がなんとか経験値でやっていますが、それも100%の精度ではありません。品質が良いのに安く買ってしまったりすることもあります。

じゃあ変な話、ハズレを掴んでしまうこともあるんですか?

当然ありますね。スクラップは20tトラックで運ばれてきて、クレーンを使って1tとか2tくらいの塊で荷下ろししていきます。下ろしながら、何かまずいものがないか検収していくんですけど、クレーンが掴んだ内側ってなかなか見えないんですよね。

そういった作業の実情や、適切に評価できないことを悪用する業者もいます。よくあるのは、ドラム缶の中にコンクリートとかを詰めてフタを閉めて外から見えないようにしてしまう。スクラップの売買は、重さに値段が付くので、重い方がその分儲かるんです。このような”かさ増し行為”で粗悪品を掴まされるというのはよくあるケースです。

闇深いですね…この話は書いて大丈夫なんですか?

これは残念ながら、割と業界の一般的な話なので大丈夫です(苦笑)。

じゃあ当然、スクラップ屋さんも「あそこは信頼できるorできない」っていうのが業界内で広まるってことですよね。

それはありますね。

スクラップの分別・検収作業をされる方って工場に何人くらいいるんですか?

工場の大小によりますが、大体十数人くらい。工場は24時間稼働なので、昼夕夜の3勤で回すには最低でもそのくらいの人数が必要というイメージです。

24時間稼働していること、夜勤もあるというのは知りませんでした。

鉄鋼メーカーでは「電炉法」という方法を使って、電気で鉄スクラップを溶かして鉄鋼材をリサイクルしていくんですが、電炉法はかなりの量の電力を消費するので、電気代が安い時間帯である夜間にやる方が安く済むんです。そういった事情から、実は鉄鋼メーカーは夜の方が工場が活発に動いています。

分別・検収作業って、どの程度まで細かく見ているんですか?

さすがに1つ1つ細かく見ていくということまではしていません。積み荷からスクラップをクレーンで上げた時に、下から出てきた表面をサッと見て、マズいものが無ければ続行、という具合に進行していきます。

明らかに混じっていてはダメなものがあった時に取り除くという感じ?

そうです、それぐらいのイメージです。なかなか全ては見きれていなくて、スクラップ全体の内、半分見られていたら良い方かと。

入っていたらダメなのものは例えば何ですか?

多いのは銅です。その銅も、銅板や銅線の形で混じっていると色が違うので分かりやすいんですが、実際にはそういうケースはほとんどありません。

なぜなら、そもそも銅って鉄の10倍ぐらい値段が高いので、外から見てわかるような銅であれば、スクラップ屋さんの段階で取り除かれるんです。その方がスクラップ屋さんは儲かりますから。

言われてみれば確かに…

スクラップ業者でも見逃してしまうようなものを、作業員が見つけないといけないので、ホントに難しい。

現場作業に参加している田島氏
写真提供:株式会社EVERSTEEL

田島さんが現場に行くこともあると聞きました。工場ではどんな1日を過ごしているのか教えてください。

朝8時くらいに現場入りして、まず安全確認についての注意事項を現場責任者の方が1人ずつ話していきます。

私も荷揚げのバイトしてたので何となく分かります。チームごとに別れて、安全靴ちゃんと穿いてるかとか、ヘルメットに緩みがないかとかの安全確認。その後にラジオ体操してました。

そうです、そんなイメージですね。ラジオ体操はなかったですけど(笑)。

KY活動という危険ポイントに関する事前確認をしてから作業開始。トラックからスクラップを下ろすための天井クレーンの操縦席に同行させてもらって、午前中はひたすらその作業の様子を眺めます。午前中だけで大体20~30台くらいのトラックが入ってくるんですけど、それをどんどん捌いていきます。

午前中だけで30台も捌けるんですか。

荷下ろしの場所は複数あって、その合計でトラック30台分くらい。1ヶ所だけだとざっくり10台分くらいだと思います。1台の荷下ろしで20分ぐらいですかね。

1台下ろし終わると、「1台目はこういうランクのスクラップでした」という具合に、検収員の方がそれぞれ査定を出していきます。我々は、なぜそういうランクになったのかをヒアリングし、そのほかにも危ないものがあったらそれに対してどのような対処を取るのかなど、作業中に気になった部分を確認・記録します。

昼は食堂にみなさんと一緒に行ったり、お弁当とってもらって一緒に食べたり。そして午後もひたすら同じことをやっていきます。

午後で20~30台分を見て、夕方5時ぐらいに終了。ホテルに帰って、そこからは溜まっている日中の会社の通常業務の処理を夜12時くらいまで。寝て、次の日もずっと同じ作業って感じです。

基本的にはずっと同じ点検作業の繰り返しなんですね。

同じ作業が続くと、イレギュラーというか、いつもと違うスクラップが来たらテンション上がりそうです。

上がりますね(笑)。
危ないものをちゃんと見つけられたりしたらやっぱり嬉しいです。

鉄スクラップの分別・検収作業の大変さを、少しですが理解できたと思います。

ありがとうございます。苛酷にも関わらず、すごく高所得という仕事ではないですし、現場は粉塵が凄いので肺ガンのリスクもあります。

でもやってることはすごく環境に良いことなんです。朝から晩までスクラップをチェックし、リサイクルに寄与していて、超環境に優しい人たちなんだってことを知って欲しいです。

EVERSTEEL社オフィスのある
東京大学構内の南研究棟

▼株式会社EVERSTEEL Webサイト

(写真:佐久間鑑)

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