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ガザ、パレスチナ、イスラエルのことを知るのに観たい映画

先日とあるTV番組で、ガザ、イスラエル、パレスチナなどのキーワードが、ネットで全く検索されなくなっており、それが興味・関心が薄れている証拠だとコメンテーターが言っていた。Googleトレンドで見てみると確かにその通りである。

ハマース主導による越境攻撃が去年の10月7日、その直後と比較すると2024年3月現在では約50分の1程度まで、検索数は激減している。

人の関心を集め続けることは、この情報量が多過ぎる社会では特に難しい。しかし興味・関心がなくなったからと言って、ガザやヨルダン川西岸エリアでの封鎖が終わるわけではないし、多くの民間人が亡くなり続けている状況は変わらない。

時間の経過とともに「無関心」になってしまうのは、イスラエル側の思うつぼでもある。なのでこのタイミングで、映画好きライターとして「現地のことを知れる映画」を紹介することで、もう一度考えるきっかけを提供できるよう、その役割の一部を担いたい。



『ガザの美容室』(2018年)

ガザのとある美容室は女性客で賑わっている。結婚式前のセッティングをする若い娘、出産間近の妊婦、信心深い女性に、何やらこの後の「お楽しみ」を匂わせて脱毛に来た中年女性、付き添いの人も含めると10人以上が座って談笑している。

男性がいない美容室内では、ヒジャブ(イスラーム教国内の女性が頭や身体を覆う布)を外し、リラックスした雰囲気だ。

彼女たちの軽快なガールズトークは、普段は抑圧されているガザの中で、この美容室が少し羽を伸ばせる空間として機能しているのだろうと想像させる。しかしそんな会話の節々にも、封鎖・占領について言及されガザでの生活が垣間見えてくる。

しばらくすると外からは銃声が聞こえ始め、次第に音が大きくなる。戦闘が近付いてくるのだ。

基本は美容室のワンシチュエーションのみなのだが、女性たちが何を思い、どのように暮らしているかが見えてくる非常に上手い構成の作品である。


『テルアビブ・オン・ファイア』(2019年)

(C)Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artemis Productions C623

こちらはイスラエルに住んでいるパレスチナ人の若手脚本家を主人公としたコメディ作品。主人公が書いているのは、パレスチナの女性スパイが、地元の男性と、潜入先のイスラエル軍将校との禁断の恋の間で揺れるという人気メロドラマである。

主人公の脚本家は、テルアビブからヨルダン川西岸地区のラマッラにある撮影所に通っているのだが、通勤と退勤で1日2回、イスラエルの検問所を通らなくてはならない。

ある日、検問所で人気ドラマの脚本家であることがバレてしまい、イスラエル、パレスチナの双方からハッピーエンドにするよう迫られてしまう。

テルアビブとラマッラの位置関係、約60kmの距離
(Googleマップより)

『テルアビブ・オン・ファイア』は4国による合作で、ルクセンブルク、フランス、ベルギー、そしてイスラエルが入っている。情報戦に力を入れているイスラエルの映画であるなら、すべてイスラエルにとって都合の良いストーリーになっていてもおかしくなさそうなものだが、そうではない。

かといってイスラエルへの批判色が強い映画だと、製作許可が下りないのかもしれないし、製作者の安全が脅かされる可能性もある。この難しいバランスを保ちながら、主人公の脚本家と同様に、一方にだけ肩入れし過ぎないようなギリギリのラインでコメディに仕上げたのだろうという印象だ。

4国の合作とはいえ(だからこそ、かもしれないが)イスラエルの映画でもここまでは言及して良いのだなという、境界線も少し見えた気がして興味深い。

『テルアビブ・オン・ファイア』とは
劇中のドラマのタイトル
女性スパイとイスラエル軍将校


『医学生 ガザへ行く』(2021年)

この映画は、救急外科医を志すイタリアの医学生が留学先としてパレスチナ自治区のガザを選び、現地で学ぶ様子に密着したドキュメンタリー作品である。

留学前にこう説明を受ける。「(現地では)2018年の3月から9月までで1万8千人の負傷者が出た。それは西側では非常事態でのみ経験するような大きな人数だ。」

それを聞いた医学生が「この仕事に向いているかを見極めるいい機会だ。」と覚悟を決めるところから映画は始まる。

彼の滞在期間は、「帰還の大行進」と呼ばれるパレスチナ難民の帰還を求めるデモが行われていた時期であり、病院へ運ばれてくる患者もデモの参加者が多い。

この映画で印象的だったのは、戦闘の場面や緊迫感のある手術のシーンよりも、ミサイルが飛び交う中で冗談を言い合いながらふざけ合っている学生たちの様子である。周囲で戦闘が起きているこの状況が、日常化してしまっているのだ。

ガザ地区における医療の現場と、そこに住む若者たちがどのように暮らしているのかなどが見えてくる作品である。

『医学生 ガザへ行く』は、「アジアンドキュメンタリーズ」というサブスクサービスから視聴可能だ。このサービスではほかにも様々なドキュメンタリー映画が観られるので、ぜひとも覗いてみてほしい。

このサービスでは多くの人に観てもらう・知ってもらうために、登録(無料)さえ行えば期間限定で無料視聴できる作品もある。『ガザ 自由への闘い』(2019年)もその一つである。

先述の「帰還の大行進」の様子がよく分かるドキュメンタリーだ。

今回、紹介したいずれの作品も、現地の深刻な様子の一部が分かるというものだが、残念ながらこれでも「今よりはマシ」という状況なのには驚きを隠せない。

今後も更なる事態の悪化が懸念される中、遠い日本からでもできることはたくさんあるが、「知ること」もその一つ。

ドキュメンタリーだとジャーナリズム性は高くなるが、『ガザの美容室』『テルアビブ・オン・ファイア』などのストーリー映画は、社会性もあるがそれ以前に「映画」というエンターテインメントである。「映画を観るだけなら」と心理的なハードルも低いと思うので、ぜひ観て、そして知っていただきたい。

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