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争いの果て

エゴの街に立つ 君の影は遠く消え
僕の声は遠く彼方 救いはもうこの世界にない

君は立ち止まり 悪意をその手で弾いた
束縛にその身を委ねて 時代に揺れるだけ

聖なる丘に登る太陽 乾いた砂に滲む憂鬱
割れた空に響く憧れ 僕は十字架を背負う

聖なる丘に沈む太陽 乾いた砂に滲む憂鬱
割れた空に響く憧れ

エゴの夢をみた 僕の影は遠く消え
君の声は遠く彼方 救いはもうこの世界にない

僕は 十字架を背負う 憎しみの十字架を背負う
裏切りの十字架を背負う 愛しさの十字架を背負う

君の

     ーーーーーーーGorgoda (1994)
            Lyrics by はがね(Delta Beat Project)

ーーーーーー

ボストンから帰ってきて浪人生活を2年。
何とか地方の大学に入学が決まったその年に湾岸戦争が始まった。

行きつけのお店のテレビで開戦の報を知った。

ブラウン管の奥には
暗闇に光る曳光弾とミサイルのバックファイヤ
着弾点に立ち上がる炎と煙が映し出されていた。

遠い砂漠の国で起きた侵略
どんな狂気が戦争を生むのか
どんな悲しみがそこに生まれるのか
そんなことをぼんやり考えていた。

中国の天安門事件と湾岸戦争は
僕の思考に大きな影を落とした。

自分が作る音楽も変わった。

ラブソングとか青春ソングとかダンスチューンとかではなく

戦争や狂気
悲しみや未来

そんなものたちを表す音楽に変わっていった。

インダストリアルテクノの影響を強く受けて
部屋に積み上げた機材に埋れながら
日々の大半を音楽に費やした。

狂気が世界を侵食していく危機感と
自分のアイデンティの危うさを重ね合わせ
テクノロジーに溺れる今とその先にある未来を思った。

大学在学中は僕は天才だった。
少なくとも自分を信じていた。

自分の掌の上に落ちてくる音を拾い
網膜に結ばれた映像の断片をつなぎ合わせ
そして言葉を積み上げた。

Delta Beat Projectという自身のユニットを立ち上げ
オリジナルの曲を書き
僕の世界を完全に理解してくれていた
盟友のギタリスト、Tatsuとともに曲を仕上げていく。

彼のギターは僕のデジタルなトラックに人間味を与えた。
彼は僕と違うタイプの天才だった。
少なくとも
僕のイメージを6本の弦で正確に伝えることができる
稀有な才能を持った翻訳者であった。

1994年 この『Gorgoda』という曲で
僕たちの創作活動はピークに達する。

美しいピアノのストロークと
シンフォニックな弦のフレーズのその奥に
破壊と絶望と諦めと
そして 微かな希望をちりばめた。

Delta Beat Projectのファーストピリオド
エンディングを伝えるのにふさわしい曲となった。

この曲を書いた時 自分が天才を通り越して
一瞬だけ 神に触れたような感覚があった。

錯覚でも勘違いでもなんでもいい。
(もし僕が天才だとしたなら)
この曲が僕の才能の絶頂だった。

ーーーーーーーー

あれから30年弱 経過して
僕たちはまた同じ過ちを繰り返そうとしている。
侵略の罠に世界は囚われ
正常な思考を少しずつ失っていく。

その戦いの先には

絶望 痛み 悲しみ 喪失 諦め 

その隙間から希望は見えるだろうか
来るべき未来はどんな姿だろうか

正義にはそれぞれの軸があり
それぞれの主張があり
それぞれの思惑があることは理解できる。

しかし

僕らが大切な誰かを守るために営んでいる

愛おしい努力や
生きるためのエネルギーを

一瞬にして奪ってしまう狂気を

僕は許すことができない。


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