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367 高校入試と為替相場


はじめに

日本では、現在のところ超円安基調が続いています。株価も最高値を更新しています。株価と為替の関係性は強く為替の変動は、簡単に言えば企業の業績や売り上げに直結する大きな要因です。
今日の教育コラムでは、新NISAなどで社会的に貯蓄から金融商品の運用や投資に関心が高まっている現状とそれに伴う為替相場に対する理解の必要性からきている高校入試への影響について少し考えてみたいと思います。

高校入試で円高・円安

2022年の公立高校の入試で為替相場に関する問題が出題された都道府県は、山形県・福島県・栃木県・富山県・石川県・山梨県・福岡県・長崎県・宮崎県・鹿児島県の10県に及びます。

中学校で円高・円安について学ぶとき「世界各国では異なる通貨が使われていて、その交換には、比率があり1ドルは何円と交換できるのかといった形でレートが、日々変動している。」と教わると思います。
また、世界中で「アメリカのお金に交換したい!」という人が増えれば、ドルの価値は上がりドル高になり、「日本のお金を手放したい…」という人が増えれば、円の価値は下がり円安になるというようにさらに具体的に学んでいる人も多いかと思います。
一方で、出題傾向が高まっている分野だけにどのような問題になれていく必要があるのか、またどの程度理解していればいいのか不安な人も多いかと思います。

問題のとらえ方

高校入試で為替相場の問題として考えられるパターンを2つに整理します。

パターン①円高・円安の要因を問う問題
「何が発生したら」「円高になるのか」の「何」に当たる部分を選択肢から選ぶ問題が出題される傾向にあります。例えば、為替レートが下落したという現象がよく問題に使われますが、このある国を例えば日本に言い換えてみます。
日本の通貨は円ですから円のレートが下がったとなります。これは「円安」になったことを意味します。選択肢から「円安」になるものを選べばいいわけですから、円高なのか円安なのかを判断していけばよいわけです。
その時に大切なのが円の需要が上がったかどうかという見方です。市場の需要供給と同じで、世界中で日本円に交換したいという人が増えれば、円の価値は上がり円高になります。
日本円より別のお金に換えたい人が増えれば円安になります。つまり円の需要が低下するものがするものが「何」に当たるわけです。例えば、政府による外国通貨の購入は、その代表的なものです。日本円に置き換えれば、政府が外国通貨を購入するということは、自国の通貨を売って外国通貨を手にするということですから、円の需要が低くなることを意味し、円安へ動くわけです。
また、現在の日本の様に物価が上がるインフレが進む「おにぎりが300円」「ラーメンが1500 円」という社会になっていくと、ついこないだまで買えたものが、同じお金で買えなくなりますので、自分が持っている円の価値は、相対的に下がりますので円安となります。
このように、円高・円安の要因を問う問題については、現象と結びつけて「円の価値」が高くなれば円高、低くなれば円安というように判断することができます。

パターン②円高・円安の影響を問う問題
要因を問う問題と影響を問う問題を区別しておきましょう。影響は、その発生によりどのような結果が生じるかがイメージできるかが重要なのです。
例えば、日本から米国に対して100ドルの株を購入するとします。1ドルが100円から50円に円高が進むと、1万円で投資していたものが、円高が進んだ場合は5000 円で投資可能となります。つまり円の価値が高まり、半分の金額でその株が手に入るわけです。
このように、円高が進むと海外への投資コストが低くなるわけですが、逆に海外からの投資にはコストが高まるため海外からの投資は減少します。
また、影響と言えば海外旅行の場面も具体的な例としてイメージしやすいものの一つです。例えば、100ドルを所持して海外旅行したとしましょう。円安では、円の価値が低いわけですから、円をドルに換金するときにたくさんの円がかかります。ですから、使えるドルは少なくなります。
また、逆に海外から日本に旅行に来ると1ドルでたくさんの円が使えるわけですから買い物がたくさん楽しめます。
円高が進んだ状態ではこの現象が逆になります。つまり、円高が進むと、日本への旅行客にとっては不利な状況が生じてその影響で、海外からの旅行客は減少すると考えられるわけです。

練習問題

次の問題は、全統模試の過去問の一部です。正誤問題ですが、どのように判断して答えを出しますか。

全統模試の過去問

(答え)
正解は、②です。日本のアメリカ向け輸出が拡大することで、物を売った日本に対して代金がアメリカから日本へ支払われるわけですから、アメリカが日本の円を必要とします。つまり、ドルを円に換えて支払うので円の需要が高まり、円高ドル安になるわけです。

(補足説明)
現在、円安ドル高が進んでいるのは、まさにこの現象と逆のことが起きているのです。さらに、現在の円安が進んでいる主な原因は、日本とアメリカの金利差も影響しています。日米両国とも、長らく金融緩和政策をとってきました。しかし、アメリカは2022年に金融引き締めに転換しました。
これにより日米の金利差が開いたことで、投資家は円をもっていても低金利しか付きませんので、円を売ってドルを買う動きが強まるというわけです。

注目すべき現象としての為替

入試における社会科の評価としては、知識をどれくらい身に付けているかという評価と事象に対してどれくらい論理的に思考し判断できるかという評価と社会をどれくらい見ているかという評価が重要になります。
3つ目の社会を見る視点という点では、今起きている為替の変化は歴史的な重要な局面だとも言えるのです。それだけに関心があるかどうかを見極める問題が入試に出る可能性が高まっているわけです。
例えば、1ドル150円台などという現象は、1990年の8月以来、32年ぶりのことなのです。今もなお日米の金利差が広がりるなか、低金利の円を売って高金利のドルを買う動きは広がっています。これはもはや大きな金融政策の転換無くしては歯止めがかからないのです。これは社会的に見れば注目すべき大きな話題に間違いないのです。

どちらが正解?

2024年の初めから2月中旬にかけての約1か月半で、円相場が1ドル140円台から150円台へ10円ほど円安・ドル高に振れたとき、私たちの生活はどのように変化するのかを問われた時に、どのように答えるのが正解かなのかを最後に考えてみましょう。

(円安になると:例1) 円安になると、輸出企業にとっては海外で稼いだ外貨を円に転換した際の売上高が増えるため、業績が良くなり株価が上昇する傾向があります。また輸出する製品の価格を安くできることから、国際競争力も高めやすくなります。

(円安になると:例2)円安になると、海外から輸入する物の値段が上がります。日本はエネルギーや食材など、多くのものを輸入に頼っています。円安で輸入コストが上昇すれば、企業は製品価格を値上げせざるを得ません。 つまり、日本では円安になると物価が上昇しやすくなります。

結論は、例1も例2も正しい説明です。円安は、基本的に日本の通貨の価値が下がっているわけですから、行き過ぎた円安はよくありません。しかし、その行き過ぎたとはどの程度のことを言うのかが難しいのです。
円高なら輸出業は業績が悪化し、株価が下がり、そして賃金も下がり消費が冷え込みます。しかし、円高なら安く海外から商品や資源が買えるのでモノの値段が下がり、支出が抑えられます。
メリット、デメリットがそれぞれあるわけです。影響を考えたり、判断したりするとき、この両側面があることが分かりにくさを生じさせるわけです。だから、具体的な現象として説明できるように理解しておく必要があるのです。


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