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369 憲法改正


はじめに

今日のコラムでは、まず何といっても5月3日の憲法記念日に配信された岸田文雄首相の憲法改正に向けた熱いメッセージをご覧いただき、憲法改正とそのプロセスについて皆さんはどのような感想をもつかというところから少しお話を進めていきたいと思います。

護憲派と改憲派

憲法改正というと憲法9条の議論を思い浮かべる人が多いかと思います。自衛隊を明記するか否か、または、軍隊をもつべきかどうかという話にまでこの話題は発展します。
中でも現在注目されているのは、「緊急事態条項」という言葉かと思います。似ているようで違う言葉に、「緊急事態宣言」というものがありますが、これは新型コロナウイルス対策として使われた考え方です。言葉は似ていますが内容は異なります。
憲法での「緊急事態条項」は、国家権力を制約する憲法秩序を非常事態の場合には一時的に停止して、非常措置をとるという考え方に基づきます。この「緊急事態条項」を創設すべきかどうかを巡って、国会でも議論が活発になっています。
では、この議論はどのような事態を想定しているのでしょうか。わかりやすい例で言えば、アメリカで起きた9.11のようなテロが国内で起きた場合や3.11の時のような原発事故を含むような大規模な災害なが起きた時を想定しています。
そうした場合に憲法に「緊急事態条項」が定められていることで、一定の手続きはありますが時の総理の判断次第では、緊急事態を宣言できるわけです。緊急事態とはいえ、総理大臣などに一時的に憲法の枠組みを超える権限を与えるべきかどうかは十分な議論が必要なわけです。
実際にどのような議論が出ているかを見ておきましょう。

〇出ている意見の例
(1)緊急事態を宣言している期間中は国会の機能を維持するために
   衆議院を解散できないようにすべきだ。
(2)国会議員の任期は延長すべきだ。
(3)国民は国や自治体の指示に従うべきだ。

✖反対意見として出ている例
(1)国会議員の任期を延長すると選挙をせずに議席を復活させることに
   なるので、国民主権の観点からも望ましくない。
(2)国や自治体が強すぎる権限を持つと、人権の制限につながる。
(3)今の法律の枠内でも、強い措置をとることは可能だ。

このように、憲法に盛り込むことで必要以上の権限を与えてしまうことは危険であるという考え方と、書くことでより明確に実行し多くのものを守れるという反対の意見で割れているのです。

憲法改正の手続き

次に憲法改正の手続きについて簡単に見てみます。手続きは大変に大きな壁が何重にも準備されています。
まずは、日本国憲法の96条に書かれている内容を知っておきましょう。憲法にはこのように書かれています。

「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」

ここで言う「発議(ほつぎ)」という言葉を理解しておきましょう。発議とは、国会議員が議案を提出して審議を求めることまでをいいます。ここから議論が始まるわけです。憲法のどの部分を改正するかを示した「改正原案」を国会に提出します。この提出には2種類あります。

一つ目は、「議員提出」と呼ばれるもので、国会議員自身が原案を、衆議院か参議院に提出します。衆議院に提出する場合100人以上、参議院に提出する場合50人以上の議員の賛同が必要になります。

二つ目は、「憲法審査会」と呼ばれるもので、衆議院と参議院に、それぞれ設けられた憲法審査会が国会に提出します。

そして、国会に提出された「原案」は、まず本会議で趣旨説明や質疑が行われ、その後、憲法審査会で集中審議を行います。憲法審査会で「過半数」で可決された時、本会議での採決に進めます。
いよいよ本会議で両院で全議員の「3分の2以上の賛成」があれば、可決となり「憲法改正案」が完成します。すると初めて国会が憲法改正の発議を行います。
そして、ここからやっと国民投票となるわけです。「憲法改正案」の国民投票は、国会の発議が行われて60日以降180日以内の間で、国会が議決した日に行われます。国政選挙と同様に期日前投票や不在者投票、在外投票の制度もあります。投票期間は、期日の14日前からとなっています。日本国憲法が施行されて以来、国民投票にまでたどり着いたことが無いわが国では、ここまでの手続きだけでもかなり高い壁だということが分かります。

まだ遭遇したことのない世界線

個人的には、この14日間で憲法改正に関わる説明などを政府や国会議員はどのように国民に説明するのかという点に興味があります。通常の国政選挙では立候補者が国民に政策や政治理念を演説などでうったえますが、憲法の改正となるとどのようになるのでしょうか。
77年間にわたり日本に根付いてきた日本憲法は、世界で最も変わらなない憲法の一つだと言えます。太平洋戦争の反省に基づき草案され、定められた平和憲法の価値は、日本が戦争と距離を置き国際社会の中で地位を高めてきたことが証明しています。
一方で、隣国の脅威に直面している日本にとって憲法を改正することは今まさに重要なことなのかもしれません。
皆さんは、憲法改正の是非を問われた時、どのように判断するでしょうか。

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