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368 富士山を隠す


はじめに

富士山とコンビニのコントラストをバックに記念撮影をしようとする観光客が殺到して地域住民の生活に支障が発生しているというニュースを目にしました。交通安全を守るという観点からも、自治体は富士山を黒い幕で隠すという処置に出たそうです。

このような問題は、オーバーツーリズムという言葉で近年よく耳にするようになりましたが、中学、高校、大学受験などでも2018年度以降登場するようになりました。
今日の教育コラムでは、改めてオーバーツーリズムの問題について少しお話してみたいと思います。

問題の発生と内容

日本語で、観光公害と呼ばれるもの問題は、何も訪日外国人だけが引き起こしている問題ではないのです。観光地の地元住民の平穏な日常生活が観光客が許容量以上に流入することで著しく損なわれるわけですから、国内の観光客も関係しているわけです。
そもそも、こうした結果は少し偏った見方をすれば、日本が望んで巻き起こしたとも言えます。日本は外国人旅行客を増やすことで、日本国内の消費を拡大させる政策をとってきています。
これは国内の消費行動が低迷してきたデフレ時代からの重要政策の一つだったのです。歴史的に見れば、2007年の「観光立国基本法」の施行と2008年の「観光庁」の発足は覚えておきたい関連事項です。
日本がこうした法整備と担当省庁の整備を進めたのは、国際観光の環境整備に力を入れるためです。そして、2015年にはその成果が実を結びました。安倍政権の下で進められたアベノミクスの成長戦略も相まって、コロナ発生の2019年の4年前にはすでに、日本人の海外旅行客数より、訪日外国人旅行客数の方が多い状態になりました。さらに、コロナ発生の手前、2018年にはなんと訪日外国人観光客の数が3000万人を超える状態にまで成長しました。消費額も約4.5兆円に上り、日本の経済を支える大きな産業となったわけです。コロナ発生の4カ月前、2019年は9月の段階で2400万人を超えていましたので、パンデミックさえなければその数はさらに伸びていたでしょう。
そうした中で、「オーバーツーリズム」という言葉が一般的に使われるようになっていきました。
急激な外国人観光客の増加は、渋滞や宿泊所不足などのインフラ面での問題、文化財や遺跡の傷みが想定より早く進むなどの保全の問題、ゴミのポイ捨てや民家に侵入したり撮影したりするマナー違反の問題などを生じさせました。

学習の場面では

社会科の学習でも、新しい地図記号に加えて外国人観光客にもわかりやすい地図記号やピクトグラムを用いた表記が紹介されるようになりました。また、ホテル不足を解消するために個人の住宅の空き部屋やマンションの空室を宿泊施設として宿泊する「民泊」という新しい言葉も広がりました。こうした社会の大きな変化は、入試問題にも採用されていったわけです。社会的事象に関心をもつことは重要ですから、この流れは当然なわけです。
そこで、多く見られた問題が「オーバーツーリズムの問題を観光客との調和をとりながら解決していく方法を論じなさい」といった問題でした。いくつもの方策が考えられるわけですが、ポイントはやはりあるもので、観光地の産業を盛り上げながら、環境や生活を守る「共生」「持続可能な成長」といったキーワードをいかに用いるかがこうした問題では重要になってきます。

現状認識

今問題なのは、観光公害という問題が日本の各地で同時に噴出していることです。そして、その問題の原因が外国人観光客の増加という現象だけにされている点です。他の地域からの移住者が増加した場合にも同様に生じることですが、ゴミや騒音、地域住民とのトラブルなどが増えます。
観光の場合には、その対応にかかる労力やコストを地元が負担しなければならないという観光の持つ負の側面がより強くなります。生活習慣や文化の違い、価値観の違いに加えて、言語の壁はこうした問題を深刻化させていきます。高度成長期やバブルの時代、円高が続いていた時代は、こうした海外での日本人の迷惑行為が問題でした。
有名な話で言えば、ホテルやキャビンアテンダントに文句を言ったりわがままを言ったり、酒に酔って絡んだりホテルで大騒ぎをする。重要な遺跡や建造物に落書きをする大学生や社会人などなど同じ日本人として何度恥ずかしい思いをしたことかわかりません。
そうした事象を引き合いに出して、お互い様の論理でこの問題と向き合っても何の解決にもなりませんし、テストでこの論調で説明しても得点になりません。
観光による経済効果と引き換えに住民の生活を犠牲にすることはできませんし、経済無くして地元の生活も成長も無いのです。地域人々や文化、そこに広がる生活そのもの、日本にとっては大変貴重な観光資源だということを忘れてはいけません。

だからどうする

オーバーツーリズムの問題を解決するのは行政だけではありません。観光地はたくさんのお客さんに来てもらっているわけですから、その観光客に対して必要な観光地としての設備や掲示物を準備する必要があります。
さらに住民全体が地域活性のためにできることを考えたり、問題を解決するために必要な提案をしたりと自分事とし、知恵を出し合い、持続可能な街の創造に努めていく必要があるのです。
そのために、お金が必要なら観光客から駐車料金や観光税のような形で必要な経費に見合ったお金を徴収し、トイレを増やしたり道を拡張したりしていくこともできるでしょう。
また、行政はその単位に応じてできることがあります。例えばゴールデンウィークのような休日の集中を分散させることも対策の一つとなるでしょう。分散させることで観光地に年間を通してまんべんなく観光客が訪れ、経済を動かすようにしていくことにもつながります。ある一定期間のみ殺到する状態では、その時訪れた人々がその観光地の本当の魅力を味わうことができない可能性があります。するとストレスだけが互いに残ってしまいます。
観光に直接携わらない住民と携わっている人との間でも感覚の違いはあるでしょうし、地元と地元外の人の間でも違ってくるでしょう。公共性であるとか他人への配慮であるといったありきたりの心の指導では、こうした問題はきっと解決しないのでしょう。

観光地の自然環境や文化財が保護され、長期的な魅力を維持できるようにする方法を模索しながらも、観光による経済効果を最大化していくために何が必要なのかこれは、多くの人々が考えるに値する問題です。

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