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残り20分

あと20分で恋人が東京から九州へやって来て、今日から同じ屋根の下に帰るというそんな日にふと本屋さんに入ったのが運の尽き、完全に言葉を綴りたくなってしまいました。時間がある時には1文字も浮かばないのに、いじらしいあたま。

すこし遠くに住む幼馴染のお母さんに、連絡をした。
お久しぶりです、引越しました。話したいことがたくさんあります。

寂しいよ、ちゃんと食べるんだよ、時々顔見せてね。落ち着いたら女子会しようね。
優しい言葉に、あ、そうか、と思った。
そうか、わたしは地元を離れたんだ。
いつの間にか。

今日は雨が降っていて、本当はスーツケースと、パンパンのリュックとバッグを持って地下鉄に乗り込むつもりだったのに、家を出ようとしたところで母が帰ってきて、雨だから車で送って行こうか、と言ってくれた。いつものように、大丈夫よ、と答えて外に出ようと思ったのだけど、今日はなんとなくそれは違うような気がして、「お願いします」と車に乗り込んだ。
「マイノリティである人たちは、堂々とすることなんかないと思う。平等である必要なんかない」と言う。
ほう。
「どういうこと?」
「生きづらくたって、偏見があったって、自分が望んでその生き方を選んだんだから、それは仕方ないじゃないの。生きづらいって思うなら、辞めればいいと思う、普通になればいい」
車のワイパーが雨粒をぴしゃ、ぴしゃ、とあっちこっちに弄ぶけれど、ワイパーの届かないところはいつまで経っても濡れていました。
「そっか。理解できない分野について何か話したいのなら、もっと勉強した方がいいかもね。」
「勉強?する必要ない、あたしにはなんの関係もないことだもん、知ってどうする」

ああ、文面にしたらつくづく強いことばだな。

「それでも、あなたのことは好き、わたしの、わたしの娘だから、家族は絶対だから」
「どれだけ好きだって、まあ所詮他人なわけだし。」
「一緒に住む子?相方?」
「よくやるよね。まぁ、せいぜい頑張ってね」

血が繋がっていることと、心が繋がっていることはきっとイコールじゃないから。
いろんな人がいる。いろんな人がいて、いろんなことを言っていい、わたしは苦しくなる言葉なんか聞かなくていいし、傷ついてあげなくたっていい、って知ってるから、「たまにはごはん一緒に食べに行くでしょ?」という言葉に、そうね、って笑って手を振った。


職業柄、様々な事情を抱えた家庭の学生と関わるのだけど、その子たちと話すたびに思う。
幸せですか?心無い大人に傷つけられてはいませんか?
あなたが1番正しいんだからね。ママにもパパにも、あなたを邪魔する権利なんかないんだよ、幸せに生きて、あなただけが幸せになる選択をしていいんだからね。

下着もパジャマも全部置いてきた。たくさん捨てた。
そんなに捨ててどうするの?お金が沢山あっていいね。
そうだね。お金、あんまり無いのに、馬鹿だよね。
でも、手放さなきゃ、新しいものは抱えられそうになかったの。

「じゃあね、お元気で」

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