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ドラマチック人生

自分の人生を振り返るたび、数え切れないほどのドラマチックな出来事があるな、と思っていた。


ふとした時に、印象的なシーンを思い出して、それはそれで面白いと思っていたんだけど、彼女と暮らし始めて、自分が強烈に、波のない安定した生活を、安心を、求めていたことを知った。刹那的に誰かを猛烈に憎んだり、慈しんだり、叫ばれたり、泣かれたり、そういう激しさに、知らず知らず、疲弊していたことを自覚した。刺激的で面白い日々だと思い込んで、自分が、その一つ一つを経験するたびに、ものすごく疲れているということに、気がついていなかった。
安心を手にして初めて自覚した。こういう生活を、時間を、ずっと求めていた。


それから、彼女と一緒に暮らし始めて、わたしは断捨離がものすごく苦手だということに気がついた。
もともと、今すぐに必要じゃないもの、例えば、服とか、アクセサリーとかを買うのが物凄く苦痛だった。靴下ひとつ買うにも、「穴が空いたから」という明確な理由、言い訳がないと、買ってはいけないような気がしていた。それに比例して、服1枚買うにも、「ああ、こんな気持ちで買ったな」「あのお店で買ったな」という思い入れが強く、買ったものは、捨ててはいけないような気がしていた。
一昨年、断捨離をしようと服を並べて、あれは、でも…着ていないけどこんな思い出が…とウジウジしているわたしを、彼女は呆れながらも笑って、じゃあ今年着なかったら考えてね、と言ってくれた。
今年に入って、自然と、服を買おう、そして捨てよう、という気持ちになって、彼女とともに断捨離をした。着なくなった洋服に対する執着心はなくなっていた。必要でなくなった洋服を手放し、その足で、大切にしたいと思える服やアクセサリーを買いに行った。

「使わないもの、合わないものを手放して、必要なものを手に入れる」という生活って、健やかだな~と思う。物に限らず、人も、思い出もそう。わたしは過去に縛られて、1人で後ろを振り返っては、黙って傷ついて、人を憎んでばかりだったけれど、今は、自然と、今、この瞬間と、未来のことを考えるようになった。
洗濯物がよく乾く天気とか、ゴミの分別とか、換気扇フィルタの交換時期とか、全然ドラマチックじゃないその1つ1つが、生活って、ものすごく穏やかなんだな、と教えてくれる。

彼女の、地に足をつけてきちんと生活をするところ、自分の機嫌を自分で取れるところ、過ぎたことを振り返らない強さが本当に眩しく、尊敬している。身体の具合が悪い時には無理せず休息を取ること、夜更かしせず夜はきちんと眠ること、お菓子ではなくご飯を食べること。彼女はなんにも言わないけれど、健やかに生きていくために必要なことを、日々、教わっている。それから、面白いと思うタイミングや深さが近いところが大好き。毎日、彼女の一挙手一投足に笑っている。わたしの話で大笑いしてくれる彼女の笑顔を見ると、幸せだなぁと思う。まだまだ彼女の生活力には遠く及ばないけれど、できるようになったことも、少しずつ増えてきたかな。彼女から「最近、頑張りすぎじゃない?ひとり暮らしでもするつもり?」と笑われた。


全然ドラマチックじゃない、穏やかで居心地のよい暮らしが本当に楽しい。これからもずっとこうして、毎日を平穏に暮らしていけたらな、と思う。

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