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窓から流れる景色

2ヶ月ほど前、他県に住む恋人のご両親が、いつものように食料品やお鍋を届けに来てくれた。両手いっぱいにお米やお野菜の重さに、いつも、本当に有難いなぁと心が温かくなる。
ありがとうございますと受け取ると、お父さんが、「〇〇ちゃん、△月×日は一緒に魚釣りに行くけん、空けとってね」と話しかけてくださって、最近彼女とともにお正月ぶり2度目の帰省をした。


1日目

彼女から「これが好きだったと思う」と聞いたお土産を手に、迎えに来てくださったお母さんの車で、彼女の実家へ向かった。途中、スーパーへ立ち寄って、お買い物をした。着く頃には夜も深くなっていて、波が高かったので、お父さんは1人で釣りへ出かけていた。お母さんがお蕎麦と錦糸卵、ハム、きゅうりなどの具材とともに、海苔とハサミを出してくださった。彼女が海苔で具材を包んでこうやって食べるんだよと見せてくれて、生まれて初めて手巻き寿司ならぬ手巻き蕎麦を食べた。とても美味しかった。彼女はいつもこうして海苔で巻いた蕎麦や素麺を食べていたらしく、いつも一緒に啜って食べている素麺は邪道だと思っていたというので、美味しそうに食べてたのに!と笑ってしまった。
彼女の学生時代のお友達で、何度か一緒に遊んだことがあるお姉さんと連絡を取って、夜中に3人で会った。3人の連絡グループを作っているほど親しくしてくれて、とても嬉しい。車の中で色々な話をしていたらだんだんと空が明るくなってきて、解散したのは早朝5時だった。
数時間眠って、ぐっすり眠る彼女を横目に、台所のお母さんにおはようございますと挨拶しに行った。おはよう、昨日は何時に寝た?ええ、5時?皆で家に来たら良かったのに!と笑われながら、しばらく談笑していると、昨夜会えなかったお父さんも起きてこられて、おはようございます、お邪魔していますと声をかけると、おはよう、久しぶり!と笑顔で釣りの写真を見せてくれた。全然釣れなかった~また今夜行く、今日は釣れたら捌く手伝いお願いね、はい、なんて話していたら、お母さんが朝ごはんだよと声をかけてくれて、彼女を起こしに行った。
お正月ぶりに、彼女と一緒に、2台の車を洗った。
お昼すぎ、インターネットで見つけた道の駅のアイスクリームがとても美味しそうだったので、彼女に食べに行きたいとお願いして、2人で道の駅に行った。道の駅に行くと、おじいさんやおばあさんがベンチに座ってアイスクリームを食べていた。インターネットでも大きさが話題になっていたけれど、すごく大きくて笑ってしまった。おじいさん達は食べても食べても無くならず、どんどん溶けるアイスクリームを四苦八苦しながら一生懸命食べていて、とても可愛らしかった。彼女とわたしも購入して、手をべたつかせながら、一生懸命食べた。人生で1番大きいアイスクリームだった。とても美味しかったし、お腹いっぱいになった。
温泉に行った。岩盤浴をして、たくさん汗をかいた。きっと、大きなアイスクリームのカロリーは、無かったことになった…と思う。
洋服屋さんに行った。釣り人の刺繍が付いたTシャツを見つけて、お父さんのお土産に持って帰った。
夜ごはんを食べたあと、コンビニに行くと、花火セットが販売されていた。花火!わたしは幼い頃から花火が好きだ。本当は夏中、何度でもしたいと思う。でも、都市部に暮らしていると、花火ができる場所はなかなかない。彼女がわたしの視線に気がついて、花火しようかと声をかけてくれて、大喜びで花火を買って帰った。
彼女のおうちの敷地内でバケツを用意して、火を付けると、色んな色の火花が散った。じっと見つめていると、お母さんが出てきて、1本だけ参加してくれた。嬉しかった。最後に彼女と線香花火をした。

前日に会ったお姉さんが、今日も会いたいよ~と電話をくれた。会いたかったけれど、夜中に魚捌きを任命されていたから、少しだけ話して、仮眠を取ることにした。
また3人で遊びに行きたいな。


2日目

1時頃、お父さんからの着信で起きる。もうすぐ帰り着くから用意を、という連絡だった。
恥ずかしながら、わたしは魚を捌いたことがなかったので、不安と期待を抱きつつ準備をしていると、お父さんが大きな箱いっぱいの魚介を持って車から降りてきた。
魚の内蔵を取り除く人、膜を剥がしたり骨を抜いたりする人、それぞれの手順を教えてもらった。彼女が手際よく内蔵を取り除いてくれたので、魚介の骨を抜いたり、膜を剥がしたりした。冷たくて、滑りのある生き物の感触や生臭い匂いは苦手なはずなのに、不思議と嫌な気持ちはせず、悪戦苦闘しながら楽しんだ。お父さんが時々見に来てくれて、お店に出す訳じゃないし、不格好でもいいからねと声をかけてくれた。
2時間くらいで、魚を捌き終わった。達成感に包まれつつ部屋に帰ると、いつの間にか眠ってしまった。

お昼まで眠ってしまった。彼女が、起こしたのに起きなかったよと言うので、申し訳なくて、どんな風に起こしてくれたのか聞くと、「〇〇ちゃん~朝よ~眠たい?眠たいね~寝とき!って言った」と言われた。起こす気0優しさ100の起こし方だった。
出かける準備をしていたら、お母さんから今日はたこ焼きをするから材料を買ってきて、と言われて、彼女と喜んで出かけた。
彼女がシャツを新調したいと言っていたので、もう一度洋服を見に行った。悩み抜いた末、彼女が選んだ3枚のシャツは、プレゼントさせてもらった。彼女にプレゼントすると、何を買っても、嬉しそうな笑顔でお釣りが来てしまう。プライスレス。
たこ焼きの材料を買って帰って、彼女と一緒に生地を作った。自宅にはたこ焼きの機械が無いので、彼女に披露したことはないのだが、以前、わたしがたこ焼きを作るのが得意だよと話したのを覚えていたらしく、「よろしく!頑張って!」と任されてしまった。
お父さんから「お!〇〇ちゃんが作るんか!」と期待を込めた目線を感じる。にわかに不安になってきた。ああでも何年か作ってないし…と言い訳しながら、生地を流し込んで、しばらく待って、ふつふつと生地が泡立ってきたら、溝に合わせて切込みをいれて、そうだ、こんなふうに作るんだったなぁ。実家で、友達の家で、たびたび作った記憶が蘇ってきて、なんとかまあるく、美味しそうなたこ焼きができた。時々入る、シェフ、これ、タコ入ってませんけど!という苦情に、すみません!第2弾はたくさん入れますから!と謝りつつ、たくさん食べて、作って、食べた。美味しかった。お父さんとお母さんと彼女が、美味しそうに食べてくれて嬉しかった。作業をしつつ食べる食べ物…お好み焼きとか、たこ焼きとか、もんじゃ焼きとか、気を遣う公の人とは遠慮したいけれど、人との距離が縮まって、好きだなぁと思った。

ごはんを食べたあと、彼女の高校が作った、卒業記念ビデオを見た。わたしが経験してきた卒業式は、何度も予行練習して、咳払いも躊躇うほどしんと静まり返って、号令に従って、入場から退場までが粛々と過ぎていくものだったのだけど、彼女の卒業式は、みんなとても自由で伸び伸びしていて、在校生の合唱中にはみんな振り返って、後輩に手を振ったり、隣の子と笑ったり、小さいカンニングペーパーを大人数で覗き込んで保護者や先生に感謝を伝えたり、退場中はめいめいカメラにポーズを撮ったり、立ち止まって後輩と話したりしていた。こんな卒業式もあるんだなとびっくりした。だらけているとかではなく、とにかく本当に和やかで、みんな泣いていて、卒業を惜しんでいるのが伝わってきた。わたしの母校は人数が多かったから、名前も顔を知らないまま卒業する人も多くいたけれど、彼女の学校は小規模だからか、みんな兄弟みたいだった。彼女は、答辞を聴きながら退屈して1人で変な顔をしているところを大きく映されていて、笑ってしまった。大声を上げてはしゃいだりはしていなかったけれど、彼女が1番自由だった。
少し眠ったら、高校生の彼女と友達になる夢を見た。


2度目の彼女の実家訪問。
初めて行く場所や初めての体験が盛り沢山だった。どれも思い出深いけれど、動いている昔の彼女に会えたことが1番嬉しかった。彼女はうわぁ可愛くないと悲鳴をあげていたけれど、幼くてあどけなくて、今とは違う良さがあって、とても可愛かった。連続した毎日の繰り返しで、なにも変わっていないように思うけど、気がつかないうちに、確実に、中身も外見も変化している。今の彼女と今のわたしは今しか一緒に過ごせないから一瞬一瞬を大切にしたいと思ったし、これからの未来、わたしたちはどんなふうに変わっていくんだろうと想像した。いつでも「あの時も楽しかったけど、今が1番楽しいね」と笑っていられる日々だといいな。

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