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スタートアップの競合との向き合い方

事業やプロダクトをゼロからスタートすると、競合企業・サービスが気になる時期があります。
特にまだ PMF を迎えていないフェーズだったり、自分たちの事業が本当に形になっていくのか不安な時期ほど競合を意識し、焦る気持ちになります。

これまでダイニーでも同様に、数多くの競合と評される企業・サービスが存在します。
今回はそのような競合企業と、どのように向き合っていくべきかの考えを、経験ベースに書いてみようと思います。

参考

① 競合は同志

まずこのマインドセットが最重要だと思います。競合企業は、敵対ではなく、世の中に新しい価値を創る味方であり同志であります。
決して、否定したり、攻撃したり、こきおろしたりすることはあってはなりません。
お互いに適切にベンチマークし合いながら、敬意を持って鎬を削り、お互いに良いサービスを作っていき、共に市場を活性化させていく同志である、というマインドが重要です。

②「うちには競合はいません」論

多くのスタートアップでは、自社のアイデアの独自性、技術的優位性、尖ったバリュープロポジションを兼ね備えています。
特に、ファウンダーの心情としては、本心から「うちに競合などいない!」と思いがちです。

大前提、何もないところから事業を作っていくスタートアップ企業においては、バリュープロポジションが命であり、逆にそれがあるからこそ事業を起こすわけなので、当然の意見であります。

他方、「競合」は単一の定義ではないと考えています。誰の目線で、どれくらいの時間軸で、など、見方によって、定義が大いに変わっていきます。
そのため、様々なステークホルダーの目線や、事業フェーズに応じて、「競合」を整理・認知していくと良いでしょう。

超初期のバリュープロポジションを明確化させる文脈

この文脈では、自社のバリュープロポジションと競合する考えを持つ企業やサービスがあれば、これが競合です。
特に超初期においては、自分たちのバリュープロポジションの説明は概して難しく、意図的に自社の立ち位置を明確化するために、一見離れた位置にいるように見える企業を競合と位置付ける場合もあると思います。

ダイニーの場合

  • ランチの事前予約プロダクトのケース

    • Value proposition:スマホで事前予約・事前決済・事前注文ができるサービス。同種のコンセプトである企業はないと捉えていた。消費者のランチの可処分時間を取り合う相手が競合と位置付ける。

    • 競合:中食、UberEats、テイクアウトアプリ等

  • テイクアウトアプリのケース

    • Value proposition:企業特化のテイクアウトサービスであることが価値。そのため飲食企業のテイクアウト売上・需要を取り合う相手が競合と位置付ける。

    • 競合:プラットフォーム型テイクアウトアプリ

拡販フェーズにおける再現性を説明する文脈

主にセールスやユーザー獲得の場面における競合の捉え方です。
この場合はある程度定義は明確であり、リソースを取り合う相手が、顧客にとって・市場にとっての競合です。

to B 領域であれば、文字通り顧客企業側の予算であり、to C であれば、エンドユーザーの可処分時間、などになると思います。

ダイニーの場合は、to B 向けに複数のプロダクトを提供しています。
我々の顧客・市場における競合定義は、明確に POS システム等に代表される「基幹システムの保守費用」を取り合うサービスであり、飲食店のマーケティングに対して価値提供をする CRM プロダクトは明確に「販促費」を取り合うサービスが競合となります。

この定義においては「うちのサービスは〇〇とは異なるコンセプトやビジョンでやっているのだ」という主張はあまり関係なく、あくまで市場・顧客が、どの予算・時間から費用捻出して自分たちのサービスを購買しているのか?という定義になると思います。

ダイニーの場合

  • モバイルオーダー・POS システムのケース

    • 予算:飲食店のインフラサービス固定費

    • 競合:飲食店のインフラサービス固定費を取り合う相手

  • 飲食向け CRM システムのケース

    • 予算:飲食店の販促費

    • 競合:飲食店の販促費を取り合う相手

エクイティストーリー

投資を受ける目線で考えると、スタートアップ企業の Exit までのリードタイムを考えて、10年スパンでの成長ストーリーとポテンシャルを評価されることになります。

長期で考える場合、例えばその市場における10年後の立ち位置がどうなるのか、その市場のカテゴリリーダーとなれるのか、棲み分けによってシェアを一定取り合うのか、または新規市場であればそれを本当に創出できるのか、などが論点になります。
狙う市場の TAM と先行事例がその説得力に繋がりますので、その観点での
切り口になろうかと思います。

ダイニーの場合

  • スポーツチーム向けプロダクトのケース

    • TAM:スポーツチームの領域、最大ではスポーツエンタメの領域

    • 競合:他のスポーツ系のエンタメ系のサービスがベンチマーク

  • 外食向け SaaS のケース

    • TAM:外食市場の市場規模

    • 競合:外食市場で、ソフトウェアで上場している企業がベンチマーク

③ 不安になるサービスが出てきた時は

自社と同じようなコンセプトで、かつ初速が良さそうなプロダクトが出てきた時、しかも往々にして自社よりもちょっと低価格であったりしますので、尚更気になってしまうと思います。

この場合は、まず前提、良いシグナルだと捉えます。類似のプロダクトが出てくるのは、良いプロダクトだからです。
自社と違った入射角で参入する企業がいる場合は、別角度から見ても魅力的な市場・機会であることの裏返しでありますので、自分たちのアプローチが誤っていないことに自信を持ちましょう。

逆にそれ以上は、特にアーリーステージにおいては、不用意に他社を意識をする必要はないと思います。新規事業のほとんどが、そもそも事業として3年持続させることが難しいものです。体感では1年も持たないことがほとんどですし、実際にダイニーの過去事業も1年以上成長継続できたものはありませんでした。

また「大手が参入したらどうする?」という質問を受けたり、実際に大手企業が参入するケースもあると思いますが、特にアーリーステージにおいては企業の規模よりも、強固な Moat があるか?相手企業がモメンタムを伴って進出しているのか?の方が重要に思います。

自社がアーリーステージでありながら大手が参入してくる場合は、一見同じに見えても、自社とは違う市場展開や事業機会を狙っているケースもあると思います。
それぐらい大企業とスタートアップ企業の目線は異なっています。

実際にダイニーで振り返ってみると、競合と評される企業の顔ブレは毎年変わっていっておりました。
その都度不安に感じる瞬間もありましたが、それだけ我々の現在地が、可能性のある市場・事業機会にいると捉え直せまして、最終的には一層自社の顧客やプロダクトに集中ができたと思います。

④ 最強の競合には早いうちにヒアリングする

最強の競合とは、可能な限り広く見た時の競合企業です。グローバルスタートアップであることが多いと思います。

HR 系の SaaS をやるなら Rippling 社かもしれないですし、Fintech 系をやるなら Brex 社などになろうかと思います。ダイニーの場合は、Toast 社です。

「競合」を想像すると、事業機会において何らか”競合”する企業をイメージしてしまいますが、グローバルで見ても、実は既に類似のモデルやアプローチで、かつ大幅にグロースしている企業は一定は見つかるはずです。

一方で、意識的に取り組まない限りはそのような競合企業の調査や対策を考えることもないでしょう。
時間軸だったり、文化や市場の差異で見て、今後直接ぶつかることはないだろうと思っても、世の中で最大限の成長をしている類似企業の知見は、実は非常に有用であり、実は一番ベンチマークすべき対象だったりもします。

ダイニーでも、モバイルオーダーのプロダクトをやる際にはまずモバイルオーダー・CRM 最大手の上海に現地体験に行きました。
また、直近何度か Toast 社とのディスカッションをしたり、実際に現地で Toast プロダクトのクライアントにヒアリングしたこともありますが、いずれも非常にインサイトフルで、事業のスピードを大幅に加速させられていると思います。
むしろもっとアーリーフェーズからやっておくべきだったと反省しています。

⑤ 警戒すべきはモメンタムを伴った競合

ここでのモメンタムを伴う競合とは、入射角、開発力、顧客の獲得のスピード感、マーケ力、エクイティ、資金力など、同様の Moat や事業機会を見ている一方で、自社以上に色々な観点で勢いと機動力があるプレイヤーです。

このような場合に初めて、競合企業の動向や、狙っている市場の構造(winner takes all なのかなど)を見ながら、適切に事業機会を獲得していくべきかと思います。
逆にそれ以外の場合は、基本的に神経質になる必要はないとも言えます。

知る限りで最も熾烈な戦いがあった事例:

最後に

経験的に、今回のこれらの競合を捉える観点は、あくまで一つの考え方として頭に入れつつ、ほとんど全ての時間は他社・競合のことではなく、自分たちのサービス・顧客に集中するのが鉄則であろうと思います。

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