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HRの能力定義を見直してみる


今でも多くの日本企業は、終身雇用を前提とした新卒一括採用や評価・賃金制度の運用を行っています。そしてHR部門(人事部門)の役割も、このような日本型人事制度の運用が第一であり、尖った人材よりも会社の組織風土にフィットし、不平を言わずいろいろな仕事をやってくれる人材を採用して、横一線のマネジメント体制の構築に従事してきました。

しかし、これからの「変化が激しく、予測し得ない環境が当たり前の時代=VUCA時代」の到来により、こうした日本企業の伝統的人材戦略やオペレーションシステムは根底から覆されてしまい、HR部門の求められてる能力(=ケイパビリティ)も大きく変化しようとしています。

今回は、「変化が激しい時代に対応できる柔軟な組織・人材づくり」をベースにした、HR部門のケイパビリティを

①ビジネスHRスキル
②HRエンジニアスキル
③デザインスキル(デザイン思考)

の3つの側面から解説していこうと思います。



ビジネスHRスキル


自社の事業戦略に関わらず、企業を取り巻くさまざまな外部環境(テクノロジー、経済、環境、人口動態など)、社会課題の動向といった社内外の経営環境に対して、さらに深い理解・精通がこれからのHR部門には求められいます。

自社のビジネスモデルにおける価値連鎖を深く理解し、社会課題の解決を通じて、企業外部と内部のステークホルダーの期待に答えていかなくてはいけません。
こうした価値連鎖において、「どのような人材がどこのプロセスに何人必要なのか?」「そうした人材の育成・獲得といった人事戦略をどうすべきか」を事業責任者に対して企画・提案し、そして実行できるスキルが「ビジネスモデルHRスキル」です。

そして、「ビジネスモデルHRスキル」で求められるのは、社内人材のマッチングや外部からの人材獲得・兼業、副業や他社出向といった人材共有化においても、事業部門の幹部と同じ視座で自社の事業内容、業務プロセス、外部環境を理解し、コミュニケーションができるレベルです。

また、ビジネスのゴールや事業ポートフォリオ改革に向けて人材資源に対してどのような投資を行うべきか、投資対効果として生産性向上やスキルがどのように好転しているのかを分かりやすく「見える化」し、経営層や事業責任者に対して適切なコミュニケーションを行えることも大切な要素であります。


HRエンジニアスキル

これからは、人事効率化のためのテクノロジー活用スキルだけではなく、ピープルアナリティクスに代表されるような「人材マネジメントの高度化」に寄与できるデータサイエンス、AIエンジニアリングスキルも重要になります。

少子高齢化により国内の労働人口の減少は確実であり、慢性的な人材不足状態は基本的には解消しません。変化の激しい環境における人材戦略の基本スタンスは、人材の持つ能力、スキル、ポテンシャルを見定めて、パフォーマンスを最大化するジョブやチームにアサインすることです。

しかし、元来「人材のスキルやポテンシャル」というものを十分に解明できていることは、稀でありなかなか難しいとされてきた領域でもあります。

だからこそ、人材の能力、スキルを集約した人事情報データベースを整備すると同時に、人材投資や生産性といった指標を組織単位で見える化し、リアルタイムに把握、モニタリングできるための人事情報システム(タレントマネジメントシステム)を構築する必要があります。

また、今後はジョブ型人事制度への移行トレンドに伴って、デジタル人材に限らず、外部市場価値と報酬水準を連動できる制度設計や運用の必要性が高まっています。そのような制度をエンジニアリング(設計)できることもスキルとして必須になっているのです。



デザインスキル(デザイン思考)

デザインスキルというのは、HR部門にとってのステークホルダーである従業員の声に耳を傾け、「共感(Empathize)」を基点とした課題発見を行い、「試作(Prototyping)」を通じて課題解決や価値提供を行っていくスキルのことです。

人材マネジメントをどう制度設計するかではなく、会社の従業員に対して、社会の中の一市民としてどのような存在でいてほしいのか、会社や組織の中でどのような経験をしてどのようなキャリアを歩んでもらいたいのか、そうした思考を通じて抽出した課題と向き合い、HR部門の有するデータやテクノロジーを駆使して、社内外のステークホルダーに対して価値提供する行動こそが、これからのHR部門に求められる不可欠なケイパビリティなのです。


まとめ

最後に改めて整理しますと

①ビジネスHRスキル
 ・外部環境、社会課題の動向といった社内外の経営環境対する幅広い知見
 ・自社のビジネスモデル、業務プロセスへの深い理解
 ・ジョブディスクリプションや事業ポートフォリオに応じた人事戦略の立案、遂行
 ・「見える化」を通じて人材資源の付加価値を高めるサポート

②HRエンジニアスキル
 ・「人材マネジメントの高度化」に寄与できるデータサイエンス、AIエンジニアリングスキル
 ・HRテクノロジー活用による業務効率化への企画、推進
 ・複雑な人事体系を設計できるエンジニアリング力
 ・モニタリングしたい人事KPIをERPパッケージに落とし込むスキル

③デザインスキル(デザイン思考)
 ・「人中心」「共感力」「コラボレーション」「プロトタイピング」「メタ認知」等のマインドセット
 ・社内外のステークホルダーの声に耳を傾け、課題を具現化
 ・人事変革に必要な人材を巻き込み、特に事業サイドとの協働で価値提供を推進


とまとめることができます。

HRに求められる能力(ケイパビリティ)が高度化しているのは事実です。
だからこそ、このような能力やスキルを有することができれば、人材の市場価値は高くなるのは言うまでもありませんし、企業優位性の一助になれることも間違いないでしょう。

それでは、また。

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