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放射線科医の業務負担を改善! “Rad AI” のシリーズB資金調達!【5/7発表: 米国デジタルヘルスニュース】

私が現在住んでいる米国に、今週私の両親が孫(私の息子)に会いに遊びに来ています。米国赴任してから初めて両親を招待することができたのですが、今のところこのUS旅行を楽しんでいるようで良かったです!

さて、そんな中でも、少し遅れてしまいましたが、今週も米国のデジタルヘルススタートアップの資金調達ニュースについて記事を書いていきたいと思います。

前回は1つのアプリであれもこれもできてしまう、ヘルスケアプラットフォーマー “Transcarent”をご紹介しました。

今回ご紹介する米国スタートアップであるRad AIは、2018年設立の放射線科医向けのAIレポート自動作成プラットフォームを開発・販売しているスタートアップです。大規模言語モデル(LLM)を使ったソフトウェアになります。

同社の共同創設者であるジェフ・チャン博士は、アメリカで最も有名な放射線科医の 1 人であり、米国史上最年少で放射線科医になった方です。

16 歳でニューヨーク大学(NYU)の医学部に入学し、フェローシップを修了した後に10 年間、救急外来の放射線科医として夜勤をしていたそうです。

そこで多くの放射線科医の同僚が燃え尽き症候群となり疲弊している様子を見ることになります。また、どんどんと増え続ける画像検査の仕事量に悩まされたジェフ博士は、AI がどのように放射線科医を支援できるのか、その方法を見つけるために、機械学習関係の研究のために大学院に進みました。その過程で、ジェフは共同創設者で、テクノロジーに関する豊富な経験を持つ連続起業家のドクター・ガーソン氏と出会い、2018 年に Rad AI を創業するに至りました。

共同創業者のお二人。左手が、米国史上最年少で放射線科医になったジェフ氏。
(出典:同社ウェブサイト

今回の資金調達はシリーズBラウンドでの$50Mの資金調達になりました。このラウンドから著名VCのKhosla Venturesもリード投資家として参加しています。



About "Rad AI"

:米国
創立年:2018年
資金調達ラウンド:シリーズB
主な投資家:Khosla Ventures
総調達金額:約 $80M
サービス:放射線科医向けのAIレポート自動作成プラットフォーム
事業モデル:B2B - 病院の放射線科医向け


放射線科にまつわる課題

米国全体の課題でもある医師不足は放射線科にもあてはまるそうです。これ以外にも以下の課題があるそうです。

1. 医師の負担: 放射線科医は、画像分析だけではなく、分析結果のレポート作成業務に多くの時間を費やしています。このレポート作成に費やす時間はなんと全体の75%に達し、1日100人以上の担当患者のレポートを作成することも珍しくないそうです。もっと画像分析に時間を当てるべきところ、レポーティング業務で逼迫しているとのことです。この過剰な負担は、放射線科医の疲労や燃え尽き症候群にも繋がっており、大きな課題の一つになっています。

2. 患者さんフォローアップの不足: 適切なフォローアップを受けている患者さんは全体の10%に過ぎないというデータもあるようです。また、適切・不十分の違いはさておき、従来の方法ではフォローアップができている患者さんの割合は30%程度のみのようです。これは、新たに癌を患った患者さんの診断や治療が遅れる可能性が大きいことを意味しています。

サービス概要

同社によると、X線・CT画像・MRI画像などを含めて、すべてのヘルスケアデータの80%以上は放射線科から生まれているとのことです。データが豊富に生まれるこの放射線科領域と、同社特有のLLMを使った技術の相性は非常に良く、同社はこの放射線領域でLLMを使い始めた最初の企業である、とインタビューで述べています。

そんな同社が提供する放射線科医向けのAIレポート自動作成プラットフォームは、放射線科医が医療画像レポートを作成および管理するためのデジタル放射線科ツールです。

製品画面イメージ
(出典:同社ウェブサイト)

放射線科医はこの生成系AIを活用したプラットフォームを使って、X 線、MRI、CTスキャンデータ・画像に基づく所見を基に、時短でレポートを作成することができます。一日当たり数時間の削減が図れる可能性があるそうです。

また、ただレポート作成を支援するだけでなく、放射線科医の過去のレポートデータに基づいて、それぞれの放射線科医で異なる文章表現やスタイルの好みに応じてレポート表記もカスタマイズされます。なお、臨床的に必要な患者さんのフォローアップのサポートも同製品で行ってくれます。

患者フォローアップ機能部分の製品画面イメージ
(出典:同社ウェブサイト)

数字で見る価値

具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか?その詳細を見てみましょう。

  • 効率の向上:従来の方法よりも最大2倍の速さでレポート作成を行うことができる。

  • 燃え尽き症候群のリスクの軽減:利用者の84%が大きな疲労を回避できたと答えています。

  • 放射線科医の所見に応じた患者のフォローアップ率の向上:この数値を30% から 85% 以上に高めることができ、新たな癌が迅速に診断され、治療開始がなされるようになります。

  • 複雑な症例のレポート作成時に生じるエラー率の削減:この数値が約 50%削減されます。

これらの効果によって、レポート作成業務に忙殺されることが少なくなり、画像分析や診断や、患者のケア・フォローアップといった医療の質に繋がる重要なタスクに集中する時間を増やすことができます

事業の現在地

同社の事業の進捗は以下の通りです。だいぶ顧客の課題解決に貢献していることが数字から読み取ることができます。

  • 現在、米国の医療機関の 3 分の 1 以上(100医療機関以上)で利用されている

  • 米国最大規模の民間の放射線医療施設10 か所のうち 9 か所で利用されている

  • 同社製品は現在、毎年約5,000 万人の患者さんのケアに貢献している


最後に

放射線科に関するデジタルヘルスは多く出ていますが、本製品はAI画像診断ではなく、放射線科医のレポーティング業務の大幅な効率化・負担軽減に大きくコミットしていることが分かったかと思います。

今後起こるかもしれない買収・統合・提携を通じて、各社製品の強みが合わさって、より強固なソリューションとなり、一層同領域の医療の質が向上していくといいですね。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事

前回記事


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