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1つのアプリであれもこれも!ヘルスケアプラットフォーマー “Transcarent” のシリーズD資金調達!【5/2発表: 米国デジタルヘルスニュース】

(今のところ)毎週ご紹介している、米国のデジタルヘルススタートアップの資金調達ニュースですが、開始してから早2か月が経ちました。

前回は、小児科医と24時間365日テキストメッセージでつながれる医療サービス "Summer Health"をご紹介しました。

今回ご紹介する米国スタートアップであるTranscarentは、2020年設立のまだ設立4年程度の若いスタートアップです。ですが、既にシリーズDラウンドでの資金調達を完了させて、バリュエーションも$2.2B (1$=150円計算で、3,300億円)まで伸びてきており、かなり速いスピードで成長中です。

同社は、アプリ一つで幅広い医療ニーズに応えることができるバーチャルケアサービスを、主に企業・雇用主経由で従業員に提供しています。プライマリーケアやスペシャリティケアなど、幅広いサービスを提供しているのですが、創業当初から積極的な提携・買収活動を行ってきたことにより短期間でここまでの幅広いサービスラインナップを実現させてきたようです。

同社ホームページのトップ画面。
"One Place"と記載があるように、同社サービスに様々な医療サービスが含まれている。

今回の資金調達はシリーズDラウンドでの$126Mの資金調達になりました。シリーズAから継続して出資をしている著名VCのGeneral Catalystも今回ラウンドにリード投資家として参加しています。その他にも7wire VenturesやAlta Partnersも、シリーズA、B、C、そして今回のDでも連続して参加している他、バイエルやメルク(日本ではMSDという名前)といった大手製薬企業のCVCや医療機関もこのラウンドで出資をしております。

同社のCEOの Glen Tullmanさんは、バーチャルケアの代表格のTeladoc社に、当時CEOを務めていたLivongo社を2020年に$18.5B !!($=150円計算で、2兆7000億円強)で売却しています。その直後に、同社を設立したことになります。




About "Transcarent"

:米国
創立年:2020年
資金調達ラウンド:シリーズD
主な投資家:General Catalyst, 7wire Ventures, Leaps by Bayer(バイエル薬品のCVC), Merck Global Health Innovation Fund(メルク社のCVC)など
総調達金額:約 $424M
サービス:プライマリーケア、癌、肥満、メンタルヘルス、腰痛等の慢性的な痛みなどの様々なバーチャルケア全般(対面診療もあり)
事業モデル:B2B2C - Employer (雇用主)を介して患者さんに届けるモデル


サービス概要:包括的なヘルスケアプラットフォーム

顧客である雇用主は複数のデジタルヘルス企業と契約せずとも、同社と契約を結ぶだけで実に様々な医療サービスにアクセスすることができます。

同社アプリ画面の例

具体的には、プライマリーケアをはじめ、癌、肥満、メンタルヘルス、腰痛等の慢性的な痛みなどについて、遠隔診療も駆使しながら幅広い顧客のニーズに応えることができます。また、医療従事者探しのサポートや予約機能、医療従事者とのチャットやビデオ通話、24時間対応のヘルスケアコンシェルジュサービス(非医療的な面の支援)なども同社サービスに含まれています。

同社は様々なサービスメニューを提供している


アグレッシブな事業開発活動を通じた事業成長の軌跡

同社は自前で何でも揃えるというよりも、積極的に提携や買収を通じて大きく成長してきているようです。代表的な具体例を挙げてみます。

  • 手術まわりのサービスプロバイダーであったBridgeHealth社を、2020年に約40Mで買収(同社の創業開始直後の買収)

  • AIを駆使したバーチャルケア企業の98point6社を、2023年に買収。これにより、患者とやり取りするチャットボット機能などのテクノロジー、98point6社が抱えている医療従者、そして既存の顧客をまとめて獲得。

  • 腰痛等の筋骨格筋系に関する慢性的な痛みに対するデジタル運動療法を提供するSword Healthと提携して、この領域のサービスを追加。

  • メンタルヘルスのバーチャルケアを提供するSpring Healthと提携して、この領域のサービスを追加。

  • 10を超えるトップレベルの医療機関(例:Mass General Brigham, Intermountain Health, and Hospital for Special Surgeryなど)と提携して、従業員(患者さん)はこれら医療機関が提供する高品質な医療サービスを安価で利用することができるようになった。

ここに記載していない事業開発案件も数多くあります。また同社CEOは、今回の資金調達前でさえ1億ドル以上の現金を保有しており、今後は更に事業成長スピードを加速させるために新規顧客獲得を目的とする買収に興味がある、と述べています。


事業の現在地

同社の事業の進捗は以下の通りです。4年でここまで事業は成長するものなのですね。

  • 顧客である企業との契約は約300社ほど

  • 上記契約企業に勤務する約400万人の従業員にサービスを提供可能

  • 700を超える医療従事者が同社のパートナーに名を連ねている

  • 2025年には黒字化達成の予定


今回調達した資金の使い道

同社は、前述したように、今後も買収のために資金を使う可能性がある一方で、今回新たに調達した資金をAI機能の構築などに充てるとのことです。具体的には、同社サービスで活躍する医療従事者のワークフローを支援することが目的だそうです。

例えば、AIによって、患者さんの諸症状(例として、副鼻腔の痛み、頭痛、鼻水がある、など)を患者さん自ら同社アプリ等を介して報告した場合に、このAIが診断サポート機能(例:副鼻腔感染症にかかっている可能性が高い)として価値を発揮するなど、が挙げられています。

なお、更なる同社が取り組みたいチャレンジは、これらのAIを含むテクノロジーを導入して医療費を大幅に削減することであり、この点が同社が継続的に特に力を入れてデータで証明していこうとしている点になります。

最後に

同社は、創業開始からたった4年程度で、提携と買収を通じて様々なサービスラインラップを整えてきました。その結果、スタートアップとは思えない規模のメニューを提供することが可能なプラットフォーマーとなっています。同社サービスが提供する価値そのものだけでなく、成長の軌跡から多くのことを学ぶこともできます。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事

前回記事


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