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「オッペンハイマー」原爆の父を描いた超話題作に触れてみてノーラン映画の好きなポイントを振り返る

先日、この映画を観ました。

「オッペンハイマー」

あらすじ等はこちら

昨年のアメリカ公開から話題だったこの映画、今年のアカデミー賞では作品賞をはじめ数々の部門を独占状態で受賞していましたね。
監督は、

今や世界でもトップ人気監督の一人、クリストファー・ノーラン。
彼と言えばワーナーがずっと作品の制作から配給までを手がけていましたが、コロナ禍での

こんなことがあって、ワーナーと決別。この映画はユニバーサルで制作し配給に。そして、昨年の夏に大ヒットを記録しています。

私もイチ映画ファンとして、ノーランの映画は公開されたら「やっぱ観ておかないと!」みたいな感覚で鑑賞しています。しかも

ノーランといえば映像に並々ならぬこだわりがあるタイプの監督なので、スクリーンは必須、なんならIMAX必須みたいな圧が(笑)。
でも今回は私の時間の都合上、通常のシアターで鑑賞しました。「テネット」はIMAXで観たから、許していただきたい(笑)。

題材の件もあって世界的に比べると日本はかなり公開が遅くなった今作ですが、この作品を巡ったあの騒動(ここでは触れません)のことも考えると、個人的には「今の時期の公開でよかったのかな」と思いました。鑑賞中は作品だけに集中できたと思います。

というわけで、いろいろと自分なりに感じた感想を書いていきたいと思います。

※ここから先は思いっきりネタバレしてますので、詳細を知りたくない方はご注意ください。

(このポスター知らなかったな)


まずは、私がノーラン映画で「またか」って思ったことからなんですけど(軽く苦情からね)、

映画の長さ問題 

いやもうノーランだけじゃ全然ないんですけどね。ノーランは「ダークナイト」「インターステラー」あたりから「トイレのことを考えたまえ」という映画ファンの声がどんどん大きくなっていた印象がありました。
この「オッペンハイマー」も

3時間

この時点で「映画館には観に行かない」と決めた人も結構いそう(笑)。
この問題、今までのノーランの映画の中でもそこについて今作が一番ひっかかりました。なぜかはあとで書きたいと思います。

私はその長さが作品にとって必要な内容でかつ面白ければそこまで気にならないですし、今作も必要な尺だったと言われれば「そうか」は思います。
けど、年月が経つごとに観に行く前の「よっこらしょ」感覚が強まるし、その傾向はなにも私だけではないと思うので、もうちょっとそこは考えてほしいですね(笑)。

で、映画全体についての感想としては

いろいろ見応えありました!

ノーランの映画は大体見応えあるとは思うのですが(笑)、今作はその中でも上位、私は「「ダークナイト」「ダンケルク」に次ぐ見応え感だったな」と感じました。とはいえ、

結構観やすかった

ノーランの作品の中で、今作はかなり観やすかったです。
やっぱり映画の構成はノーランらしく、時間軸をざっくりと3つに分けて

■オッペンハイマーの軌跡

■オッペンハイマーへのある容疑からの尋問

そしてのちにオッペンハイマーの上司となる

■ストローズの公聴会

と三つのシークエンスに分けてシャッフル感覚で描いていて、説明的では全然ないんですけど。
で、映画自体はカラーであるオッペンハイマー主体の「FISSION」と、白黒であるストローズ主体の「FUSION」とまた二つに分けちゃってて、しかも過去がカラーで現在が白黒だから、分かりにくいといえば分かりにくいのですが。

とはいえ、一度そのルールを理解してしまえば、いつもノーラン映画に感じる「今私はどこの何を観てんのよ?」みたいな混乱に陥ることはとても少なく、今作は分かりやすい方だったと思います。

役者の使い方でより個性が出てきた

ノーランの映画って、設定や映像や構成のクセが激強なのでそっちで語っちゃいがちな感じですが、私が今作で「あ、確かに巨匠ロードに入っているかもしれない」と思ったのは役者の使い方と配置、演出でした。
ノーランはもともと役者、特に男性役者は以前からかなりのこだわりを持って選出をしていると思うのですが、今作は今までで一番そこが際立った作品だったのではないかと思います。

彼の常連役者組と新たに使った役者組の取り合わせが「今までで一番良かった」と思いますし、こんなに映像的に凝る人なのに、ちゃんと「役者の演技も重要だ」と理解しているところが私が彼の映画の一番好きなところです。

そもそもバッドマンシリーズの主役にクリスチャン・ベールを置いたってところから役者を選ぶ視点がしっかりとある感じはあって、

このジョーカーにヒース・レジャーを選び、その後の悲劇を思うと手放しで絶賛していいのか迷うところではありますが、それでもやっぱり「ダークナイト」でしか観れない最高の演技を引き出したのはノーランの手腕だと思います。

そして彼の映画には役者の常連組がいて、マイケル・ケインこそ引退でいなくなってしまったものの、

ケネス・ブラナーやゲイリー・オールドマン、もうマット・デイモンもかな。今までのノーラン作品の役者がしっかり顔を出しているところも、それぞれの演じている役と演技を観て「なるほど」と思わせるところがあると思います。それぞれしっかりいい演技をしていますもんね。

ちなみにちょっと横道に逸れますが、私は

「テネット」のロバート・パティンソンや「ダンケルク」のハリー・スタイルズ、「インターステラー」ではティモシー・シャラメを起用していますが、いわゆる美少年や美青年系の役者を思いきりよく使うところも好きなんです。作品自体は硬派な感じがするので、ちょうどいい塩梅というか。新たな魅力も引き出したり。
「テネット」のロバート・パティンソンは「めちゃめちゃ美味しい役!」と思いました。私のノーラン映画のベストキャラです。

この映画のオッペンハイマーをキリアン・マーフィーが演じると知って、このファーストルックが公開になった時に「ついにキリアンが主役か」と思った映画ファンの方も多いと思います。私もでした。彼は

ノーラン映画の常連中の常連で重要な役者の一人。「ノーラン映画に全部出てんじゃない?」って思うくらいお気に入りですよね。
そんな彼をついに主役にするということは、それだけで「この映画自体に並ならぬものを注ぎ込んでいるのかな」みたいに予想できました。

映画監督のいわゆる「巨匠」と呼ばれる方達の傾向として、「よく起用する俳優がいて、その俳優が必ずいい演技をすることができる」というのは結構あるあるポイントだと思いますが、キリアンはこの「オッペンハイマー」でもしっかりとノーランの期待に応えていたと思います。
で、観ていて面白かったのが、キリアン・マーフィーはこの作品で主演男優賞を受賞していましたが、私の感覚では彼の演技がとても立っていたというより

「どんな役者とも共演して受けの演技をしなきゃならなかった」で賞

みたいのなところの方があるのかな、と思いました(笑)。

いちいち写真載っけてられないので(笑)、まとめてくださっていた方の画をお借りしますが、この映画、とにかく登場人物が多いし、しかも「ここにこの役者を使うのか」というようなキャスティングで。

ラミ・マレク、デイン・デハーン、「一番良かった」と思うジョシュ・ハートネットの使い方など、とても良かったと思います。
ベニー・サフディは「もうあなたは監督ではなく役者として生きていくのですか?」と言いたくなるような(笑)使いっぷり。

マシュー・モディンなんてストレンジャー・シングスのパパだからもう重なっちゃって、なんなのかわからなくなったり(笑)。私だけですかね?
ケイシー・アフレックの不気味さも良かったですね。
オールデン・エアエンライクの騙されやすそうな顔を上手く生かした配役(笑)。などなど、細かいところまで男性役者の配役が気持ち良かったですね。

全員ではないものの、その一人一人と演技しなきゃいけないんだから、「そりゃ大変だっただろうよ」と思いました(笑)。キリアンの押し引きの演技、特に受ける側の演技はとても良かったのではないか、と思います。

逆に立った演技というところでは

今作はロバート・ダウニー・Jr.が圧勝

のような気がしました。ロバート・ダウニー・Jr.の演技がとにかくもう圧倒的でした。これはもう助演男優賞受賞総ナメも納得です。
ついつい「アイアンマン」のトニー・スタークの事が頭に浮かんでしまいますが(笑)、他を気にすることなく思いっきり人間の厭らしさを演じたストローズは、観ていて気持ち良さすら感じました。「RDJにここまでの演技をさせたノーランも見事だな」と思います。
とはいえ、まだ底は見せてない感じがするのがRDJの怖さだったりするのですが。

なので、「オッペンハイマーとストローズそれぞれの別映画として観たかった」なみたいな(笑)。「こういう話こそ二部作ぐらいでもよくね?」と思ったんですが(笑)。

「役者側はノーランの映画で演技したり、演出してもらうの結構好きなんじゃないかな」と思いました。女性はまた別だけどね(笑)。

私が女性だから余計そう感じるかもしれないんですけどね~、相変わらずこの映画でも女性キャラは何考えてるのかさっぱり分からない感じでしたが(笑)。
オッペンハイマーのどこを見て、ピューちゃんやエミリー・ブラントが惹かれたのか。出会ったその日にできちゃったり、次にはもう付き合ってたりと。それだけオッペンハイマーが魅力的だったってこと?あんまり私には伝わらなかったそこは(笑)。
ジーン・タトロックが精神的に不安定なところなども、出会った時から不安定だったとは思いますが、ただの変な女みたいな感じに見えてしまい。ほんと分かんなかった(笑)。

エミリー演じる妻キティも、いきなり結婚して出産して育児うつみたいになってたり。「ノーランって本当に女の内面や幸せは描けない人なんだな~」と。「もうちょっとそこらへんも丁寧に描こうぜ~」とは相変わらず思ってしまいましたが、ほんとそこに興味はないんでしょうね。もちろん「それは余計だ」って思う観客もいると思うので、私の好みなだけですけど(笑)。
これは私の勝手な予想ですけど、今回エミリーはかなり自分でも演技プランを持ち込んだんじゃ無いかと。じゃないと、もっと印象が薄い役になってたと思います。自分で頑張った気がする(笑)。

ノーランの映画って、登場人物の格好もスーツが好きなんじゃないかと。制服というか。だらしない人だったりリラックスしている人があんまりいなくて、カチっとしているか裸かみたいな(笑)。そういう妙なところが面白いな、と。
「キャラクターや描き方に独特の特徴がある」って、スター監督あるあるで。映像以外にもノーランにもそういう分かりやすい特徴がはっきりとあって。
ノーランの映画のキャラってリラックスしたキャラが本当に少ないんですよね。カメラワークや技術の点だけじゃなくて、そういうところも私には面白く感じます。
撮影の時もノーラン本人がこんなかっちりした格好してるんだもんね。そういう人なんですね。

核と戦争の描き方については、そんなに斬新だったかというと「実はそうでもなかったのかな」と思います。爆発についてもCGを使ってないところは凄いけど、壮絶な核爆発の描写を描き切れてはいなかった、と。

その代わり、今回凄いと思ったのは音。とにかく音が凄い。聞いたことがないような爆発音というか、しかも通常のシアターで観ていてもデカい音だったんで、IMAXで観てたら劇場で耐えられたかどうか。耳がつんざかれたと思います(笑)。
そうとう音にもこだわって制作していたと思います。アカデミー賞の音響賞をとれなかったのはかなり痛かったのではないでしょうか。
それが「関心領域」という、また別の側面から第二次世界大戦時を描いた作品に奪われてしまったというのも、なんだか妙な気持ちになりますね。

原爆については、私が日本人で原爆の被害について幼い頃から教育を受けている身なので、そのリアリティや詳細についての認識も恐怖感も持っているものが違うと思うし、作品を観ていて日本の観客から「「描き方が足りない」と指摘されても仕方ないかもしれないな」とは思いました。
とはいえ、その原爆を開発した研究者の視点から戦争の功罪について描くという視点から描くのは「良かったのでは」と思います。
研究者として与えられた課題に夢中で取り組む姿、実験が成功して喜び合う研究者達の様子には、スクリーンを直視するのも辛い時間もありました。
でも、それだけ自分の中に戦争や原爆を憎む心があると改めて知れたと思います。

「世界を破壊する道具」を作ってしまったことに、どれだけ自覚的だったかはやっぱり問われますよね。それをオッペンハイマー自身も向き合えないトラウマとして描いているあたりも、きちんと描いていたのではないかと思います。
彼がストローズの策にはまってソ連のスパイとして尋問されるあたりは、その道具を作ってしまった事の運命的な戒めにも見えました。それでも最後には表彰されたりするんですけど。複数な気持ちです。

ノーランはオッペンハイマーに自分を重ねているところもあるかもしれないです。盟友のキリアンを主役にしたわけですし。彼自身も映画製作は自分の使命のように感じながら生きているところがあるんだと思います。
そして、「作られた作品に対する責任を感じてもいるのかも」と思います。
「ダークナイト」撮影直後に失ったヒースや、「ダークナイトライジング」上映時に起きたシアターでの銃乱射事件。もちろんノーラン本人には責任はありませんが、「傷を抱えているところももしかするとあるのかな」と思います。
そしてそれは直接的ではなくても、その後の作品からこの「オッペンハイマー」に至るまで、何かしら影響はあるような気がします。

この作品は決して戦争自体を美化するような映画ではないですし、観てよかったと私は思います。
原爆描写の被害者の姿が出てこない分、海外の10代後半ぐらいからの子供たちや若い人たちが観やすいかもしれない作品になっているような気がしました。もちろん構成などは難しいから全員は無理かもですけど。

とはいえ、私がシアターで観た時は平日の昼間からの回でしたが、半数以上の席が埋まっていました。そして、観客は年配の方がかなり多かったです。題材もあってのことだと思います。
中には足元がおぼつかないような、杖などをついた方なども。
なので、上映時間が長いため何回か席を立つ方も多く見られました。長時間座ってられなかたり、トイレに行く回数も多くなりますよね。
そういうこともあって、「やっぱりもうちょっと短い方がいいわ」と思ったのでした。

気になった方はぜひ観てみてください♪


おまけ

そんなノーランの次回作はあの007と言われていて、ボンドはアーロン・テイラー・ジョンソンに決まったか?と噂でもちきりですね。
楽しみーー!!

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