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ゆうばりグランプリ『湖底の空』日中韓合作映画の演技

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020、終了いたしました。
ボクの短編『転興星』『会えないふたり。』を観てくださったみなさま、ありがとうございました。オンラインなので製作者と観客と触れ合う機会がなかったのが残念でしたが、楽しい映画祭でしたね。

さてそんなゆうばりファンタの今年のコンペティション部門のグランプリを受賞したのは、我々もよく知る 佐藤智也監督の日中韓合作映画『湖底の空』。佐藤監督おめでとうございます!
この映画、映画祭で観た中では脚本も画も音も演技もダントツに最高で、とくに演技・・・日中韓3か国の俳優の競演が超エキサイティングだったので、これは是非この演技ブログ「でびノート☆彡」で書かねば!と。

日中韓、3か国の俳優の演技法の違いがぶつかりあう映画でした。

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空ポスター01

韓国人俳優は「関係」を演じ、

日本人俳優は「心情」を演じ、

中国系俳優は「存在」を演じる。

それがボクが『湖底の空』を観て感じた演技法の違いです。

まず主演女優のイ・テギョンさんの演技はディテールが非常に豊かで、セリフが無いシーンがいくつ続いても観客は主人公「空」と共に様々なことを感じ続けることができる素晴らしい芝居でした。
イ・テギョンさんはつねに環境や状況、目の前にいる人間との関係を演じていて、そのコミュニケーションからくる反応が表情や身体的反応のディテールに満ち満ちていています。
彼女は心情をセリフや表情に乗せて観客に伝えるという説明的な演技法をほとんど使わず、ただただ主人公「空」として環境に対峙しているのです。

その主人公・空と恋愛関係になる男性望月を演じる阿部力さんなど数人の日本の俳優さんたちは、人物の心情をセリフや表情に乗せて演じています。なので声や顔の表情がイ・テギョンさんに比べて大きく、人物の内面を観客に伝えるために多少説明的になっています。

これはイ・テギョンさんが環境や状況・相手役などの「自分が演じている人物が対峙している他者」にフォーカスしながら演じているのに対して、日本の俳優さんたちは「自分が演じている人物」そのものにフォーカスしているからで、
リアクションもイ・テギョンさんがただ反応してしまっているのに対して、日本の俳優さんたちはリアクションもある意味アクションとして意図的に演じているように見えます。

これって邦画における俳優のごく一般的な演技なのですが、韓国の俳優さんと同じフレームに収まると、そのスタンスの違いが明確に見えてきたのがすごくおもしろかったのです。

ひとつ具体的なシーンで説明すると、空と望月が2人で会話するシーンはどれも、空はずっと望月を気にしていて、望月はずっと自分の内面を気にしているように見えるのです。ここに日韓の演技法の違いがあります。

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そしてこれに上海のシーンの中国系の俳優さんたちのまた別の種類の演技が加わります(笑)。

中国系俳優さんたちは日本の俳優さんたちと同じように「自分が演じている人物」にフォーカスして演じています。ただ違っているのは、日本の俳優さんたちが役の内面から主観的に世界を見ているのに対して、中国系俳優さんたちは世界から役を客観的に見ている点です。

どういうことかというと日本の俳優さんは人物の「心情」など内面からとらえようとするのに対して、中国人俳優さんたちはその人物がどのようなコミュニティに属して生きている人間なのかとか、どのような信条を持つルーツや職業の人物なのかとか、個人の描写を越えたその人物の社会的な「存在」をとらえようとしているからだと思います。なので描写の切り取り方がドキュメンタリータッチというか、外面的なリアリティに満ち溢れているのです。

なので上海でのシーンは、ドキュメンタリータッチの俳優たちという最高の背景に囲まれて、空と望月の物語が展開するという、素晴らしいシーンの連続でした。童話作家を演じるアグネス・チャンもある種のリアリティというか「存在感」が凄くて、面白かったです。

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この日中韓の演技法の文化的な違い・・・これじつはずっと映画を観て感じていたことだったのですが、この『湖底の空』でそれらが同じフレームの中に納まっているのを見て、ああやっぱり!と確信しました。スッキリしたw。

そして演技も素晴らしいのですが、この『湖底の空』、脚本も撮影も音もカラーグレーディングもすべてが混然一体となって表現をしているところが素晴らしいのです。

ゆうばりファンタの塩田さんも映画祭のパンフで書かれてましたが、『湖底の空』冒頭の鏡のシーン。あそこでこの映画のすべてが表現しつくされてしまっているのは、もちろん演技の素晴らしさの勝利でもあるのですが、撮影・照明・音・カラーグレーディング、すべてが一丸となって表現に挑んでいるからですよね。いや本当に素晴らしい映画でした。圧巻!

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今年のゆうばりファンタはオンライン開催だったのでこの映画も自宅のモニターで観たのですが・・・これは映画館の大スクリーンで観たい映画だなあ。

きっと劇場公開されると思うので、そうしたら絶対観に行きます。 映画全体に溢れるディテールを全身に浴びに・・・そして演技に興味ある人には特にオススメの映画なのです。

小林でび <でびノート☆彡>

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