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ディスコミュニケーション度数の高い演技が面白い!

『まんぷく』・・・ひさびさに毎朝欠かさず見ている朝ドラです。
土曜もがんばって早起きして見てますw。

ボクが『まんぷく』が面白いと思うのは、俳優さん達が非常に「ディスコミュニケーション度数」の高い芝居をしているところです。

『まんぷく』では登場人物たちが話し合ったり、一緒に暮らしたり一緒に働いたりしてニコニコ笑いあっていても、じつはコミュニケーションがうまくお互い取れていないのです。それは意図的にそう演出されています。

登場人物たちがじつはお互いの事がよくわかっていない。そしてお互いによくわかっていないこともわかっていない(笑)。
そのディスコミュニケーション度数が『まんぷく』はやたら高くて、ボクは毎朝面白くてならないのです。

福ちゃん(安藤サクラ)とお母さん(松坂慶子)はだいたい会話が咬み合ってませんw。 萬平さん(長谷川博己)とお母さんの会話に至ってはほぼ100%成立していませんw。 世良さん(桐谷健太)の気持ちはいつも他の登場人物には誰も理解できないし、三田村さん(橋爪功)もいつも相手に分からないように本音を喋っています。・・・普通のドラマだったら、親友になったりライバルになったりして深く理解しあったりするはずの人間関係が、『まんぷく』ではお互い理解した気になってるだけで、実際にはほとんど理解しあえてないんですよ(笑)。

でも、これがたまらなく良いんですよね~。 福ちゃんと萬平さんもお互いの考えてることはじつは理解できてません、あまりにも2人の思考回路が違っているので。でもお互い信頼し合っているんです。最高じゃないですか。 そしてリアルです。

よく一般的なドラマや映画で描かれる人間関係は「わかりあってる」か「わかりあえない」かのどちらかで描写されます。 そしてよく物語のラストではその「わかりあえてない」人達がわかりあったりするんですが・・・ウソ臭いですよね(笑)。
そういう「むりやりハッピーエンド」タイプの作劇は最近では少なくなりましたが、見るとやっぱり古いなあ~と思ってしまいますよね。

そんな古いタイプのドラマにおいては、会話シーンも合意しあう「わかりあう者同士の会話」か、反発しあう「わかりあえない者同士の会話」かどちらかです。 これでは会話の結末が容易に先バレるし、その過程も観ていてドキドキできません。台詞上の仕掛けの妙を楽しむだけです。

その流れが大きく変わったのが2000年前後。当時流行ったオフビートな芝居で、ようするにその中間の「わかりあえてるようでわかりあえてない会話」というリアルな表現が出現、ディティールたっぷりのどこに着地するかさっぱり予想できない会話シーンの、そのあまりの面白さに夢中になった覚えがあります。

そう、「わかりあえて幸せ」「わかりあえなくて残念」という白黒ハッキリした世界が、いやいや「わかりあえてるようでわかりあえてないけど、それもまた幸せ」というグラデーションのある世界に変わったんだと思うんです。あれは革命でした。

だって現実世界がそうじゃないですか。
誰かと会話してて、相手の言ってることが100%理解できることなんてないですよね。 ボクなんかだいたいいつも相手の言ってることの30%も理解できてないです(笑)。
そしてボクの言ってることもだいたい30%くらいしか理解してもらえてないだろうなあ、と思っています。ディスコミュニケーション度70%です(笑)。

でもボク達はお互いに頷きあい同意しあうわけじゃないですか。「わかるよ」って。それはお互いに信頼があるからですよね、この人がこう言ってるんだからたぶん大丈夫だろうとか、たぶん大丈夫じゃないだろうとかw。充分ステキですよね。

・・・と現実世界がそんな感じなんで、映画やドラマの中でもディスコミュニケーション度の高い芝居が増えてきているんだと思います。

朝ドラって基本「主人公(女性)が時代の荒波にのまれて右往左往する物語」です。 なので第2次世界大戦のストーリーが多く、主人公は時代にもみくちゃにされ、それでも輝き続ける・・・つまり朝ドラ主人公に必要な基本的演技は「荒波にもまれて大変な思いをして、それでもキラキラと輝く」です。

その点、『まんぷく』主演の安藤サクラさん演じる「福ちゃん」は最初から輝いてました。
自分の置かれた状況が理解できてないので基本、困ったような半笑いの笑顔w。でも瞳はキラキラとしている。・・・この「わからない」という演技って実は難しいんですよ。

よく俳優さんがやってしまうのは「ああ、わからない…」とうつむき加減に眉間に皺を寄せて内向的に考えこむ演技、あれではダメです。
だって現実世界の人間は違いますよね。わからない時は本人にとって意外な現実に直面しているので、必死に「あれ?なにが起きてるんだろ?」と顔をあげて目を見開いて世界を観察しようとしますよね。
それが福ちゃんのリアルな「わかってない」演技です。

状況を知りたい福ちゃんは好奇心を持って周りの人間や出来事に接します。よく見ようとするので目は大きく見開きキラキラ輝きます。よく相手のいう事を聞いて少しでも理解しようとするから、相槌も慎重に正確になります・・・それでも30%程度しかわからないんですw。わかってないからモミクチャにされてるわけですから。なんとディスコミュニケーション度数の高い主人公でしょうか!w

そしてモミクチャにされながら、半笑いで困りながら誠心誠意、相手や状況に立ち向かっているその姿のなんと魅力的なことか!

このディスコミュニケーション度高い演技って、じつは安藤サクラさんは映画『百円の恋』や『万引き家族』でもすでにやってるんですね。ただ、これらの映画では、ディスコミュニケーションの中で内向することによってパワフルに攻撃的になってゆく女を演じています。
内向・・・『まんぷく』の福ちゃんが外に開いて無防備になってゆくことで幸せになってゆくのと全く逆の演技法です。このあたりが今回の『まんぷく』での新境地ということになるのかもしれませんね。

ところで、コミュニケーションを演じることをよく「キャッチボールする」と表現したりしますが、ボクはそれちょっと違うんじゃないかと思ってるんです。
キャッチボールみたいに、投げて受け取ってを繰り返しているような芝居は退屈です。

現実世界のコミュニケーションって全然キャッチボールじゃないと思うんですよ。キャッチボールみたいに相手の投げてくるボールを受け取ってばかりいたら、逆に心の距離は開いていきます。
だって相手は自分が理解できないボールや、受け取りたくないボールも投げてきますからね。そして自分も相手が理解できないであろうボールや、受け取りたくないボールも投げたい/投げなくちゃいけない時があるわけですから。

そしてたとえば会話シーン。

相手のセリフの時に「うん」とかよく機械的に相槌をつきますけど、あれって「うん、わかる」という意味だけでなく、「ん?よくわからない。でも聞きたいから先に進めて」とか「ん?よくわからない。興味無くなってきたなあ」とか「全然わからない。でも相手にわかってないことを知られてはいけない!」とか「うん、言いたいことはわかったけど、まったく賛成できないな」とか・・・「うん」にもま~様々なニュアンスのグラデーションがあります。・・・これってニュアンス的には肯定というよりは、むしろディスコミュニケーションの演技ですよね。

しかも相手が目上の人間だったり、後輩だったり、友達だったり、家族だったり、893とか怖い人だったり、美人だったりイケメンだったり、相手によってめちゃくちゃニュアンス変わります。 そして芝居はどんどん豊かになり、そしてディスコミュニケーション度数はさらにアップしてゆきます。

統計によると2010年代の現代人の悩み第1位は「コミュニケーションが苦手」だそうで、それはつまり現代人の最大の関心事はディスコミュニケーションだということです。

だからディスコミュニケーションこそがコミュニケーションの芝居の主軸になってきています。

ディスコミュニケーションの演技のコツは、内向せずにオープンに、相手や状況からもっと多くの情報を受け取ろうとすべきです。うつむかない、眉間に皺をよせない。もっと目を見開いてオープンな状態になるべきです。 『まんぷく』の福ちゃんみたいに。

そんな『まんぷく』もここ数週間、なんだか物語が停滞してる雰囲気ですよね。
あんなにも「わからない」を徹底していた安藤サクラさんの演技がちょっと「わかって」きちゃってる感じがします。 そして演技が内向し始めて・・・結果、ディスコミュニケーション度数が減ってきています。
同時に演技の中のニュアンスやディテールの量もガタ落ちに減ってきていて、特にアップのショットが退屈です。

疲れがたまってきてるんですかねー。朝ドラの主人公は歴代後半戦に入ると疲れやプレッシャーで瑞々しさを失ってゆきますからねー。最近やたらと芝居中に涙を流してるのも気になるしなあ・・・頑張って耐えてほしいものです。

最後に余談ですが、ディスコミュニケーション度数が非常に高い邦画の名作をボクが1本挙げるとすれば、それは小津安二郎監督の『東京物語』です。

これは凄い・・・映画の最初から最後まで物凄いディスコミュニケーションの嵐です。これ20代の頃に見た時はそんなこと理解できないから、退屈でゆっくりした芝居だと思ってました。でも最近見返してみてそこには・・・ものすごいスピード感でディスコミュニケーションの嵐が吹き荒れているじゃないですか!

そう思いながら見ると、あの不思議な演技の間にはディスコミュニケーションがぎっしり詰まっていて、超エキサイティングに感じますよw。
2018年の目で見返すこと、オススメです。

小林でび<でびノート☆彡>


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