恐怖の報酬【オリジナル完全版】
オリジナルは子供のころ見て、むやみに面白かった覚えがある。が、リメイク版は見落としていた。せっかくNHKBSで見られるなら、と。
カネと欲に目がくらんだ男たちの妄執の物語としてはジョン・ヒューストン監督『黄金』(1948年)が忘れがたい。本作もその系譜に連なる。男たちの欲望の物語である。
1953年のオリジナル版はもっと徹底したリアリズムだったように思う。ほとんどがスタジオ撮影ではなかったか。犯罪アクション物という感じだった。ウィリアム・フリードキンによるリメイク版(1977年)は必ずしもそうではない。
なるほど南米の軍事体制下の僻村をリアリズムで撮っているが、文明生活からかけ離れた風景には幻想的なところがある。風景の詩学のような趣があって、これはオリジナル版には皆目なかったもの。どうやって撮ったんだ?と普通には見受けられないような光景の連続で、目を奪われる。南米でのロケ?が抜群の効果を上げている。
西洋人の野望が現地の自然や人の抵抗に遭って水泡に帰す……コンラッドの小説『闇の奥』(1902年)に始まる物語の系譜だ。これを原作として大胆に現代風に翻案したのがフランシス・フォード・コッポラ『地獄の黙示録』(1979年)だった。
本作における男たちの決死行は幻想性を強く漂わせ、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『フィツカラルド』(1982年)を思わすところがある。80年代前後、ヨーロッパ文明の限界を多くの作家が感じていて、それが映画という形で表現された。その流れにつらなる。決してたんなる犯罪アクション物ではない。人間の思惑を超えた自然を前に、人知を尽くして乗り越えてゆく男たちの姿が感銘をあたえる。そして、その破綻……
きっかけとなった油田火災こそ男たちの尽力で食い止められるが、彼らの妄執はついに無に帰する。あたかも一切は一場の夢だったかのようである。このニヒリズムによって、しごく味のある映画になっている。
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肝心な点を失念していた。以下のツイートの写真をご覧いただきたい。この映画を幻想的なものにしているのは、トラックに顔があり、崖や断崖の道にも至るところに顔があること。どれもが悪魔の顔である。
1971年『フレンチ・コネクション』、1973年の『エクソシスト』が大当たりしたウィリアム・フリードキン監督は、前者のドキュメンタリータッチ、後者のオカルトを混ぜ合わせた、新しい語り口を試みたのだと思われる。が、残念ながらその企ては先鋭すぎ、観客にも批評家にも受け入れられなかった。しかしながら本作をきわめて特異なものにしているのは、その映像的な冒険である。
オリジナル完全版には当時カットされた30分ほどの映像が復元されているそうだ。おそらく幻想シーンの削除を余儀なくされたのだと思われる。実際のところドキュメンタリーとオカルトの融合が困難なのは容易に理解できる。ましてストーリー自体は犯罪アクションなのである。いっそリメイクではなく、自前のストーリーを映画化すべきではなかったか。
実際のところ「揺らすとニトログリセリンが爆発しちゃう~!」という設定は、53年のオリジナルでは許されたかもしれないが、77年時点では科学の発達により、とうに過去の伝説になっていた。原液のままニトログリセリンを保管することなど有りえなかったはずだ。これが本作の本質的な弱点である。
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