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デザインの手前 #01:大原大次郎さん回振り返り

こんにちは。
「デザインの手前」パーソナリティの原田です。

4月にポッドキャスト番組「デザインの手前」をスタートしてから、はや1ヶ月が経ちました。
パーソナリティの原田優輝と山田泰巨の2人が、番組のテーマなどについてお話ししたVol.0に始まり、記念すべき1組目のゲストであり、「デザインの手前」のカバーアートのデザインも手がけてくれたグラフィックデザイナー・大原大次郎さんによる全4回のエピソードまで、すでに5本のエピソードが公開されています。

今回は、1人目のゲスト・大原大次郎さんのエピソードを中心にこれまでの配信を振り返りつつ、まもなく配信がスタートする2組目のゲストのご紹介などもしていきたいと思います。


多様化する「手前」のデザインとは?

「デザインの手前」は、デザインという領域に関わる編集者2人が、ゲストにお招きするクリエイターたちのデザイン観に迫りながら、デザインの本質的な価値やこれからの可能性について考えていくトークプログラムです。
「手前」という言葉に着目をした理由など、番組を始めるまでの経緯については第0回のエピソードでお話しをするとともに、noteの記事でもご紹介しています(多くの方がお読みくださっているようで大変感謝です!)。


デザインを等身大の言葉で伝える

第0回でもご紹介したように、グラフィックデザイナー・大原大次郎さんの展覧会で目にした大原さんによる文章が、番組タイトルを決めるきっかけになりました。
ということもあって、1回目のゲストには大原大次郎さんをお招きし、さらにカバーアートのデザインもお願いしました。

大原さんは、星野源さんら数々のミュージシャンのアートワークをはじめ、さまざまな店舗や宿泊施設などのアートディレクションを手掛けるグラフィックデザイナーです。
手描きによるタイポグラフィが大きな特徴で、そのスタイルは多くのフォロワーを生み出すほど国内のグラフィックデザイン界に大きな影響を与えた人物です。

(左)星野源『SUN』(2015)、(右)SAKEROCK『LAST LIVE “ARIGATO!”』(2016)

初回のエピソードでは、展覧会で目にした「手前」の文章を入口に、大原さんが強い関心を抱く、線や形、声や歌など諸芸術が生まれる「手前」の話について伺いました。

展覧会と同時期に刊行されたご自身の著書『HAND BOOK 大原大次郎 Works & Proces』をまとめるにあたって、できるだけ専門用語や「デザイン」という語を用いずに、等身大の言葉で活動を伝えたかったという大原さん。
そんな大原さんがご自身のデザインを説明する上で用いているのが、「手探り」と「手遊び」という言葉です。たしかに、デザインという行為が、誰しもが子どもの頃に通ってきた「手探り」「手遊び」という体験に翻訳されることで、自分事として受け入れやすいものになります。
そして、「手探り」「手遊び」のルーツを遡っていった末に出てきたのが、「手前」という言葉だったと言います。

「いまだにデザインには謎が多い」と語る大原さん。デザインは「真ん中」よりも「手前」を探っていく方がつかみどころがあるというお話は非常に共感できるものでした。
他にも、書籍で言及されていたデザインやカタチが生まれる「手前」にあるさまざまな「線」、デザインの「手前」で自然発生的に生まれている「しるしのないしるし」の話など、興味深いエピソードをたくさん語って頂きましたので、未聴の方はぜひチェックしてみてください。


線や形が生まれる手前の「癖」を探求する

手描きのタイポグラフィがトレードマークになっている大原さんは、極めて「作家性」が高いグラフィックデザイナーだと言えます。
しかし、意外なことにと言うべきか、あるいはだからこそと言うべきか、大原さんは一貫して「作家性」の在り処に着目し、その中で個性的な文字やカタチが生まれる背景にある「癖」を探求してきた歴史があります。
2回目のエピソードでは、大原さんがワークショップという形で掘り下げてきた「癖」のお話を伺いました。

「右利きの人が左手で文字を書いてみたら?」 「鉛筆が3メートルあったら?」「机がふにゃふにゃだったら?」ー。
大原さんが行ってきたのは、こうしたさまざまな「もしも」のシチュエーションで文字やカタチを描くことで、「個性」や「癖」のかなりの部分が「方法」「道具」「環境」に依存していることに気づいていくようなワークショップです。
こうした事実を知ることで(デザイナーとして)気が楽になったと語っていた大原さんでしたが、デザインやものづくりの分野に限らず、自分のものだと思い込んでいた「癖」を剥がし、それでもなお自分の中に残る個性を理解し、伸ばしていくことはとても重要な営みのように思いました。

最適解に最短でたどり着くことが求められる現代において「漂白」されていく個性癖をAIがコピーし得る時代における創造のあり方など、さまざまな現代的なテーマにも話が及んだ回でした。


グラフィックデザイナー・大原大次郎の「お手前」

「デザインの手前」には、茶道よろしくさまざまなデザイナーたちの「お点前/お手前」にフォーカスする側面もあります。
ということで、3回目のエピソードでは、「グラフィックデザイナー・大原大次郎のお手前」を伺う回となりました。
1回目でも語られたように、「手遊び」と「手探り」が大原さんにとってのデザインであるということを改めて語っていただいた上で、「手探り」がない状態が「手抜き」になることや、「手抜き」をせずにいかに「力」を抜けるのかということに話は展開。デザインを語る際にあまり目が向けられない「休み方」「抜き方」「引き際」にこそ、それぞれの手前の凄みがあるのでは? という大原さんならではの視点が伺い知れる興味深いお話でした。

さらにこの回では、「デザインの手前」のカバーアートの制作プロセスや、共同作業で進めていくデザインという営みにおける「合いの手」の重要性についても話が展開し、ミュージシャンなどデザイン以外の領域の人たちとのコラボレーションから得られるものなどについても語って頂きました。
個としてデザインをする上での「手遊び」と「手探り」、共同作業における「合いの手」、ミュージシャンから学んだ「生け捕り」にするかのような物事の捉え方/伝え方など、さまざまな角度から大原さんの「お手前」に迫ることができました。

「デザインの手前」のカバーアート制作過程を記録したタイムラプス動画より。


SNSの「手前」にあったフィジカルな伝播

3回目のエピソードで語られたように、ミュージシャンらを中心とした他領域とのコラボレーションは、大原さんがデザインをする動機にもつながっています。
最終回となる4回目のエピソードは、大原さんがデザインを始めるようになる「手前」にあった原体験の話から始まりました。教室の片隅で音楽の話で盛り上がり、やがて音楽をつくり始めた友人のカセットテープのデザインをすることになり、それがレコードショップの店員や雑誌の編集者などへと口コミで広がっていったことが、デザイナーとしての原体験になっているという大原さん。
メディアやデバイスの環境が変わり、SNSによるコミュニケーションが主流となった現代において、グラフィックデザインの表現の場や方法は様変わりしています。それでも大原さんの根底には、原体験としての「フィジカルな伝播」を媒介するグラフィックデザインの力への手応えとともに、こうした伝播が生まれる「場」があることへの希望や感謝があることを教えてくれました。

後半では、「生活」と「デザイン」の関係や、学生時代からご縁があったピエール瀧さんの影響、大原さんの展覧会がきっかけでデザイナーになることを決意した高校生のエピソードなどについて語ってくださいました。

高校時代に大原さんがデザインしたカセットテープのラベル。

ワークショップや展覧会などを通じて、「感覚のつまみ」を増やしてもらいたいと語っていた大原さんは、デザインという営みを多くの人が等身大で体験できるものに変換することで、その人に眠っている感覚を呼び起こしたり、凝り固まった感性を解きほぐしていくような活動を続けてきた人でもあります。
手描きのタイポグラフィやアートワークという極めて属人性の高いアウトプットの背景=手前には、デザインをひらいていこうとする姿勢があることに改めて気づかされた収録となりました。

思いも寄らないうれしい出来事

さて、ここまで計5回のエピソードを配信してきた「デザインの手前」ですが、番組開始からわずか2週間後に、Apple Podcastの「デザイン」カテゴリランキングで1位を獲得するという驚くべき出来事がありました!(さらにその上の大カテゴリである「アート」でも最高8位を記録!!)

👏👏👏👏

色々と拙い面がある中、想像以上に多くの方がお聴きくださっていることには感謝しかありません。
今後より良い番組にしていきたいと思っていますので、番組のご感想、ご意見、ご批判など、ぜひSNSに「#デザインの手前」をつけてご投稿ください。


次回ゲストは、ミラノで注目を集めた「we+」

さて、大原さんに続く2組目のゲストとなるのは、コンテンポラリーデザインスタジオ「we+(ウィープラス)」の林登志也さん、安藤北斗さんの2人です。
先日開催されたばかりのミラノデザインウィークでwe+は3つの展示を行い、ミラノ市内で発表されたエキシビジョンの中から最も優れたプロジェクトに与えられる「Fuorisalone Award 2024」に2つのプロジェクトが選出されるなど大きな注目を集めました。

コンテンポラリーデザインスタジオ・we+の林登志也さん(左)と、安藤北斗さん(右)。

ミラノに出発する直前に収録を行い、we+が重視するデザインの「手前」のリサーチ近代デザインの「手前」にあるものづくり社会の歯車が回る「手前」のデザインなど、今回もさまざまな観点から「手前」のお話を伺っていますので、今後の配信もぜひお楽しみに!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「デザインの手前」は、Apple PodcastやSpotifyなど各種プラットフォームで毎週金曜に配信予定です。ぜひ番組の登録をお願いします。

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noteでは、収録にまつわるエピソードなどを更新していく予定ですので、こちらもどうぞよろしくお願いします。


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