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コミュニティを研究するためのメガネ

DERTA研究チームがコミュニティを研究するアプローチ

第1回第2回の記事でお伝えしたように、いま、DERTAでは「コミュニティ研究」を行っていますが、そこでは、大きく2つのアプローチをとっています。

DERTA研究チームがコミュニティを研究するアプローチ

1つは「実践研究」で、DERTAが実践していることを素材に研究するもので、もう1つが今回の記事でご紹介する「既存研究の整理」です(上図の赤枠部分)。

この目的は、前者の「実践研究」の質をより深めていくためのもので、実践研究をより豊かなものにするための「メガネ」を得ることを目的に、既存研究の整理を並行して行っています。


コミュニティを見るメガネの多様性

と言ったものの、コミュニティについて考える概念は実に多様であり、コミュニティを考える上でどの学問分野・知見を参照すべきかを学者ではないDERTAメンバーが整理するのは非常に難しいものがあります。そのため、この記事では、その論点をまずは「主観的」「仮説的」に提示しながら、今後の検討の中で、その論点自体も更新していきたいと考えています。

下図は、コミュニティを見るものとして参考になるであろう「概念」を列挙したものです(縦軸は学問分野、横軸は対象(場ー関係ー個人))。現状は、列挙したものの構造化や、概念間の関係性を考慮した整理にはなっていないので、今後精緻化したいと思いますが、ここで列挙したような「概念」がコミュニティを探求する際の重要な概念であると考えています。


コミュニティを研究する際に参照すべき学問分野・概念


今回の記事では、上記の概念やキーワードからコミュニティを見るための「論点や問いなどの視点」を大まかに紹介しつつ、次回以降の記事でそれぞれの論点も踏まえながら、DERTAのコミュニティについて考察を深めていきたいと思います。


「社会学」から見るコミュニティ

「学説史上はじめてコミュニティの本義をアソシエーションとの対比により主題とした社会学の大著」と言われるマッキーヴァーの「コミュニティ」が1917年に刊行されているように、社会学は、100年以上前から「コミュニティ」について研究を重ねてきました。社会学の知見からは、コミュニティを見るいくつかの視点を参照することができます。

たとえば、ゲマインシャフト/ゲゼルシャフト、アソシエーション、実践共同体、想像の共同体などの概念は、コミュニティ全体の形態がどうなっているかという観点から、分析の視点を提示しています。また、ネットワーク論やソーシャル・キャピタル(社会関係資本)論は、コミュニティを構成するメンバーがどのような関係性なのかという分析の視点を提示しています(たとえば、信頼、交換、互酬性、贈与など)。そして、コモンズ概念は、コミュニティを共有資源の視点から見ることができます。

このような社会学の各種知見からDERTAコミュニティを見ることで、「DERTAコミュニティの特性は何なのか」 「どのようなコミュニケーションや交換が行われていて、それらがコミュニティに対してどのような影響を与えているのか」ということがより解像度高く見ることができるのではないかと考えています。


「政治学」の概念から見るコミュニティ

政治学は、政治的な権力関係や意思決定プロセス、政治制度や政治的な振る舞いについて探究するものですが、政治学の概念からコミュニティが参照すべき論点としては、「合意形成」「熟議」があげられます。つまり、「いかに、コミュニティとしての合意形成・意思決定をすべきなのか」、そのために「どのように・どの程度熟議すべきなのか」という視点を与えてくれます。

実際これは非常に難しい問題です。たとえば、cos DERTAコミュニティも、その場をもともと作ろうとしたのはDERTA社ですが、現状は、そこでの合意形成・意思決定のすべてをDERTA社で行っているわけではなく、コミュニティメンバーの自発的な動きによって意思決定されているものも少なくありません。だとすると、DERTA社が決めるものとコミュニティメンバーが決めるものを分けるものは一体何なのでしょうか。別の言い方をすれば、「<決め方>がコミュニティの中でどのように決定されるのか」という点が問題になってきます。この点は、前述の「社会学」や後述の「経営学(組織論)」の論点とも密接に繋がってくると思われますが、探求したい重要論点の1つです。


「経営学」の概念から見るコミュニティ

経営学とは「常に変化する内外の環境において組織をいかに効率的に運営するか」を解明する学問とされ(wiki)、戦略やマーケティングなど様々な視点から経営を探求する学問です。その中でも、コミュニティを研究する際に参照したいのが「組織論」です。

組織論は、企業や団体などの組織を構造・機能・運営の仕方などの観点から研究する学問分野ですが、その組織論の知見を参照しながら「DERTAコミュニティはどのような組織構造なのか」「コミュニティはどのような構造であるべきなのか」「また、コミュニティをチームとして見た場合に、そのチームはどうあるべきか」「自律分散的であるべきだとしても、それはどのようなものなのか。どのようにその状態を構築すればよいのか」などを探求したいと考えています(このあたりは、生物学におけるホロン、オートポイエーシスとも密接に関連)。


今後

DERTAの研究チームでは、現在、DERTAコミュニティのこれまでを実証的に分析しており、直近では、タイムラインによる洗い出し・分析を行っています。

DERTAコミュニティの活動をタイムラインで分析しているもの

次回の記事では、上記のタイムライン分析から現状見えてきたインサイトをお伝えする予定です。

そして、そのインサイトと本記事で記載した概念を照らし合わせながら、コミュニティをデザインするための<知>を整理していければと考えています。

各種の学問的知見からDERTAコミュニティを見た場合、DERTAコミュニティとはなんなのか。

そして、そこから一般化・抽象化したら、どのような知が見出されるだろうか。


本記事の執筆者

米山 知宏 / @kedamatti
東京工業大学大学院社会工学専攻修了。シンクタンクにて、情報政策に関する調査や情報システム開発のPMO支援、デジタルを活用したまちづくりについての調査・研究等に従事。その後、パブリックセクターでの勤務を経て、株式会社コパイロツトにジョイン。現在は同社にて、プロジェクトを推進する仕組みづくりをサポートするProject Enablement事業の責任者を務める。