じーちゃん

このまえ、
母方のじーちゃんばーちゃんちに
お米をもらいにいった

数年前から
じーちゃんが足を悪くし
おじちゃん(おかーちゃんの兄貴)と
おばさん(おじちゃんの奥さん)が
田んぼの管理をしている

じーちゃんは
足が悪くなったことがきっかけで
運転に苦労するようになった

若い時
タクシーの運転手をしていたじーちゃんにとって
運転は生きがいだった

しかし、今や控えなくてはならない状況にある

仕方ないと思う反面
寂しいだろうなというのは
聞かなくてもわかった

思い返せば
わたしが幼稚園のときから
じーちゃんには
よく色んなところに連れて行ってもらった

4つ下の弟とわたしは
かなりのやんちゃブラザーズで
走り回っては転び、走り回っては転び
迷子になっては走り回り
とんでもないガキンチョだった

それでも
色んなところに連れて行ってくれた

ブックオフでは
いろんな本を買ってもらった
そのおかげで
読書に抵抗のない
学生時代を送ることができた

じーちゃんばーちゃんは
温泉が好きで
地元の温泉に何件か連れて行ってもらった

りんご風呂
紅葉を見ながら入れる露天風呂
打たせ湯のある温泉カラオケ
美味しい食事
もふもふのキツネかなんだかのキーホルダーお風呂上がりのフルーツ牛乳

おかげで
人生の夢が
日本の温泉巡りになった

すべて

すべてが

頭に思い浮かべるだけで
ほっとする思い出

これがあるだけで
生きていけると思える思い出

そんな思い出たちを
じーちゃんはつくってくれた


現在……


じーちゃんに挨拶をすると
いつもの笑顔で迎えてくれた

近づいていくと
杖が傍らにおいてあるのが
目に入った

わたし達がこたつに足を入れると
じいちゃんは立ち上がり
杖をつきながら
自分の部屋に歩いていった

とうとう杖を使うようになったのだなと
ぼんやり、みつめていた

トイレから帰ってきた弟に
「じいちゃん、杖……」と言う

弟も
じいちゃんの背中を
ぼんやり見つめていた

ゆっくり、ゆっくり
遠ざかっていく

その背中が
やわらかい背中が

こんなに小さくなっていたのかと 

元気ボンバーな弟の
眉毛が下がっているのを
横目に見ながら
目をそらした


でも

じーちゃんは
じーちゃんなわけで

そりゃ、お年寄りなわけで

いつまでも元気でいてって
ずっと思ってるけど
ほんとはそうもいかないって
それもよく分かっている

しかし落ち込みを持続させてたら
せっかく来たのに台無しだと思って
杖プレゼントしてあげたいなーとか
そんな考えに切り替えて
じーちゃんとたくさん話した

じーちゃんは
ちびまる子ちゃんの友蔵じいに
びっくりするほど、顔が似ている
孫を溺愛という箇所もよく似ている

目の横にシワをつくって
とろけるように笑いかけてくれる
それを見て
わたしも弟もとろけるように笑った

ふと
おかーちゃんが
ばーちゃんがつくってくれたカレーを食べながら
じーちゃん、杖使うようになったんだね? と聞いた

すると

ばーちゃんが

おもたげに口を開いて


「………実はね……」


と話しだした。


「3月のはじめ頃にね

玄関に腰掛けて
靴履いて
立ち上がったら

ぴきって音がして
そのまま
歩けなくなっちゃったの」

私は

言葉を失った


じーちゃん


そっか


だって、そうだよね


そうだよ



……おいしいカレーを味わうのを

少しのあいだ、忘れてしまっていた

その話をしたあと
じーちゃんとばーちゃん
それからおばさんは
何事もなかったかのように話を変えた

ちょっと安心してカレーをもりもり食べた
食べながら
じーちゃんの助手席に乗せてもらって
色んなところに行ったことを
ひとつ、ひとつ、思い出していた

もうじーちゃんの自慢の運転で
お出かけできないんだ

じーちゃんのにっこりと笑った横顔見ながら
お出かけできないんだ

じーちゃん、温泉にばーちゃんと行くの好きなのに

色んなところに行くの、好きなのに……

カレーが
しょっぱくなる前に
考えるのを一旦やめた

帰りの車に揺られながら
今後
じーちゃんが
外を出歩けなくなってしまったら
たくさん本を持っていってあげようと決めた

頭でなら
本の上なら
どこへだって行ける
それを知っている
じーちゃんが教えてくれたから

そのときはわたしもいっしょに。

#おじいちゃんおばあちゃんへ












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