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なぜ地方にはプランナー/クリエイティブディレクターがいないのか?

私は地方の山梨でこんな会社の経営者/プロデューサー/プランナー/クリエイティブディレクターをしている。

「デザイナーでもない、よくわからない仕事」

地方を拠点に長くこの仕事をしていると、本当に多くの人から「よくわからない仕事」という位置付けで見られることがある。
それはそのはずで、私たちと同じ仕事を地方でやっている人をあまり見たことがないし、私たちの業界でもこの仕事をうまく言語化・体系化できている人も少ない気がする。(どこかにいるとは思うんだけど)
だから「何で食ってる人なの?」と怪しい目で見られることもしばしば。

また、非常に重要な役割を担っているものの、デザイナーやクリエイターのようにアウトプット(成果物)に対して「私がデザインした」「私が作った」とか言える立場でもない。
「あなたがデザインしたの?」と聞かれて、「デザインはデザイナーが作っている」ということを伝えると途端に「なんだ、あなたの作品じゃないのね」かのようなリアクションをもらう事がある。そういう時、この職業が否定されているかのようなとても悲しい気持ちになる。笑

ちなみに、東京の大手企業や広告代理店、制作会社などには私たちのような職種の人はたくさんいる。
その職種の人たちがキャリアを培える仕事や、多くの講座やスクールも数多く用意されていたりする。

ではなぜ都会で成り立つこの職業が、地方では見当たらないのか。なぜキャリアが築けないのか。この仕事のことを伝え、その理由を掘り下げることで、どこかの誰かのお役に立てるかもしれない、と思いこの記事を書いてる。

プロデューサー/プランナー/ディレクターって何?

私たちの会社は、企業や自治体、NPOなどが抱える課題に対し、クリエイティブの力でどう解決できるかを企画提案し、50人以上のクリエイターやパートナー企業と共に、チームを組んで実際の形にしていくことをやっている。

そのプロジェクトを中枢で動かすのは
プロデューサー/プランナー/クリエイティブディレクター
と呼ばれる「プロジェクトを企画立案し、形にすることを進める人たち」。
外からはあまり見えない仕事だが、これらの職種の役割を日本語で説明するとこんな感じになるのでは、と思っている。

▼プロデューサー(発起人、責任者)
ゼロイチで事業の企画を生み出す人。資金調達も含めてリスクを取り事業計画を構築する。全てを統括し、事業責任を負う立場の人。

▼プランナー(計画者、企画立案者)
ある程度大枠の予算や事業の方向性が決まったら、目的に応じて何をやってどのように実現していくか、を企画・言語化し、具現化までのプロセスを描く人。

▼ディレクター(進行管理者、指示監理者)
具体的に何をやるかが決まったら、タスクやスケジュールなどをより明確にし、制作の指揮を取る人。関わる人たちに指示をし、プロセスや成果物に対し監理監修する。

ちなみに、マーケティングを専門領域にするマーケターと呼ばれる人たちもいるのでそれも定義してみる。
▼マーケター(販売戦略立案者、販売促進者)
マーケティング戦略を立案したり実行したりする人。マーケティングは、特定の商品やサービスが売れて利益が出るためにどうするかを考え実行すること。

そして、1番よく間違えられるのはデザイナー。デザイナーはこう定義できる。
▼デザイナー(意匠設計者、視覚設計者)
目的や機能など与えられた設計条件を踏まえ、意匠や視覚的な部分を設計していく人。グラフィック、WEB、プロダクト、空間、など様々な専門領域がある。

ちなみに私たちが「クリエイター」と呼ぶ人たちには、デザイナーの他に文章やコピーを作る人、映像を作る人、写真を取る人、イラストを描く人、WEBコーディングをする人、などなど様々な領域で形を作るプロフェッショナルがおり、「創作者」「表現者」などと定義できるかもしれない。

ちなみに、プランナーやディレクターなどの役職の中にも「何に特化した人か」という肩書きが付く事がある。例えば「クリエイティブディレクター」はクリエイティブ制作全般に特化したディレクター、「アートディレクター」はより美術芸術表現に特化したディレクター、「WEBディレクター」はWEBに特化したディレクター、といった具合に。
それと、「プロジェクトマネージャー」という役職の人もいるが、これは予算やスケジュール、発注先との契約など、管理調整業務に特化した人である。

ここまで書いてみたが、これらの役職は明確にきっちり分けられているとも限らない。グラデーションのように領域は曖昧で、複数の役を兼ねている人も多い。(ちなみに私は、コピーライターと編集・ライティング業務なども兼ねたりする。)
というか、もっと細分化したり掘り下げていくと結構な情報量になってしまうのでいったんこのあたりに留めておきたい…笑

また、上記の説明は、英語を訳しているのではなく、それぞれの役割を私なりに日本語で定義しているのであしからず。
それから、会社や業界によって定義が違うことが多々あるので、異論がある方がいるかもしれない。なので、これはあくまでも私たちの会社内での定義である事を伝えておく。

地方に必要なのは「デザイン」だけじゃない。

近年では、意匠的な「デザイン」という概念はかなり浸透してきた。
地方でも「デザイナーです」と言えばどんな仕事してる人かは大体の人がわかるだろう。「地方にはデザインが必要だ!」という言葉もよく聞く。
確かにデザインは必要だ。

しかし私は、実は地方に1番必要なのは、デザイン以前の部分、つまり「適切な企画や戦略が立てれて、言語化ができて、適切なところに発注し、適切に指揮が取れる人間」なのではないかなと思っている。
つまり、先程説明したような外からは見えにくい仕事である。

地方には、デザインなどのクリエイティブ制作が必要になるときに、発注側と受注側に下記のような課題がある。

①発注側の課題
〜地方には、担当部署や人材が不足。〜

大手企業や一定の規模の会社になると、社内に企画、広報、マーケティング、販促…といった専門の部署があり、経験値や専門性の高い人材が所属している。
そのため、クリエイター達に直接発注する前に、自分達の事業やブランドのこと、これからやるべき内容や方向性、予算計画などを社内の人間が言語化・立案でき、適切にクリエイティブを監修できる体制がある。

しかし地方には個人事業や中小企業が多く、そういった部署や人材を抱える会社は少ない。また、あったとしても未経験なのに任されていたり、他のポジションの人が兼任したりするケースも多い。
自治体なんかもそうで、全く右も左もわからないという人が担当者なんてこともたまにある。

そのため、「どこの誰に、どうお願いしていいのか」がイメージできず進められなかったり、適切な企画や監修ができずにクオリティが上がらないといった事態が起きる。

②受注側の課題
〜地方には、規模の大きい制作会社や広告代理店が無い。〜

都会だと、プランナーやディレクション人材などを社内に抱える規模の大きい制作会社や、広告代理店が複数ある。
そのため、営業から企画から制作まで、細分化されたそれぞれの専門領域をスムーズにワンストップで橋渡しする事ができる。

しかし、地方だとそういった大きな受皿となる会社はなかなか無い。
フリーランスのクリエイターか、数人〜多くて数十人で運営するようなデザイン会社や制作会社がいくつかある地域が多いと思う。

発注側は、その中から専門性を見極めてどこにどう発注すべきかを選定し、指揮をとりながら違う専門領域のクリエイターへの橋渡しを全てやらなくてはならない。
だが、さきほど伝えたように地方の多くの組織や事業体にはその機能がないため、直接クリエイターが受託し、クリエイターがその部分を無償労働のようにやってあげることになったり、権利のトラブルや段取りの悪さに地獄を見ることになってしまう。

クライアント(事業主)とクリエイターの間の見えない「溝」

このような課題を抱える地方だからこそ、プロデューサー/プランナー/ディレクターといった「溝」を埋める仕事が必要なのではないかと思う。

そもそも、事業主とクリエイターそれぞれが地域に存在していても、その2者を繋げる存在がいなければ地域にクリエイティブな仕事が生まれないケースもある。

例えば、大きな案件(例えば自治体のPRとか、中小企業の案件など)では、その規模を受けられる会社が無く、都内の会社や広告代理店、あるいはコンサル会社などに発注してしまう、といったケース。

地方の資本が外部に流れ出ているひとつのポイントである。まちづくりの視点で見てみると、このことは本当に大きな損失だと思っている。私たちの会社は、この問題を解決したいという思いでこの仕事を地方でやってきているが、この話はまた長くなるので別記事に書くことにする。

なぜ地方に存在しないのか?

重要な仕事で地方にこそ必要性が高いにも関わらず、なぜこんなにもこの職業が浸透しないのか、私なりの考えをまとめてみる。

①知られてないから

そもそも、世の中にある素晴らしいクリエイティブの成果物が、どのようなプロセスを経て作られているのか、知られていない。
目に見えるデザインやWEB、写真や映像などが作られるその前に、戦略立案や企画をする人、言語化する人、統括して進行管理する人などが関わっていることは多くの人の目からは見えない。
「クリエイターに依頼すれば、あんないいものが出来上がるのか」
と思ってしまい、いざお願いして初めて「それはこっちがやらなくちゃいけないのか…」と別の存在が必要ということに気づく。

知った上で必要ないと判断するのはいいが、知らずに後悔する人を少しでも減らせるよう、私は、もっとこの業界のプロセスや役割を明確にしていきたいと考えている。

②シビアな予算

地方の事業規模は、都会の事業より1桁も2桁も少ない予算であることも多い。
すると、理解が得られるものは予算に組み込まれ、得られないものは削られる。つまり「プランニング費」や「ディレクション費」といった聞きなじみのない項目は真っ先に削ってくれと言われる。
企画からデザインからライティング、写真、WEBなどマルチにこなせる人材が、「一式」みたいな感じで安い金額(または企画やディレクションを無償で)で受ける、というスタイルが重宝されてしまう。
そういったマルチ人材はもちろん素晴らしいし地方に必要だが、これだけでは専門性を極めたクリエイターが地方から離れていく。私はこれも地方のひとつの課題だと捉えている。

③職能として確立されてない

これは地方うんぬんではなく、世界中でデザイナーや建築士、士業などの職業は既に職業としても確立され、学術的にも深められているのに比べ、プロデューサー/プランナー/ディレクターといった仕事は、職能としての体系化や概念などの掘り下げがまだ進んでいないように思う。(私は建築学生だった頃にこの仕事をもっと深く知っていたら、色んな選択肢があったかもな、と思う)

ここ数年でこの手の職業のセミナーや資格が増えたようにも思うが、どのセミナーも都内発で地方にとっては実践とかけ離れたものも多い。
(私も資格を取ったり受講したりした経験があるので、全く役に立たないと言いたいわけではなく、根底では応用できる部分が沢山あることは伝えておきたい)

私は働く場所が多様化している今だからこそ、地方におけるこの職能を深められるような実践的な教育環境を作るべきだと考えている。(ちなみに現在、DEPOTで地方×クリエイティブに関するセミナー開催を予定している)

④成果物と料金体系がわかりにくい

これは、私たちの業界の課題でもあるだろう。
クリエイターは自分の作った創作物が成果となるため明確だが、私たちは目に見えない業務が沢山ある。
そういう仕事っていうのは、「この人がいるおかげでスムーズにプロジェクトが進んでいる」ということにとても気付かれにくい。
事業主のクライアントからも見えない仕事があり、クリエイター達から見えない仕事もある。
(「両者を繋いでマージン取る楽な仕事」と思っている人は、この仕事を全く理解できていないと思う)

私たちは、依頼を受ける前、受注をする前に、いかに自分たちの仕事や料金を明瞭に説明できるようにするかを、日々試行錯誤している。(年々改良できていることを実感するが、まだまだ課題は多い。)


色々あげたが、つまるところ需要と供給の原理で、ニーズのないところに仕事がない。つまりそういう職能を持った人がキャリアを積もうと都会の会社に就職するのも無理はないのだ。地方はこのニーズを自覚することが必要とされている気がする。

地方の事業主の多くは、「伴走者」が欲しい。

私たちの会社は、クライアントワーク(受託案件)においては、クライアント(事業主)がプロデューサーだと捉えている。

よく携わったお店を「ここ、宮川さんがプロデュースしたんですよね」と誤解されることがあるのだが、そういう時ははっきり否定している。(あんまり伝わってないことが多いけど)

リスク取って事業をやろうと覚悟決めた人こそプロデューサーであり、私たちはそれを実現化するために目的地まで伴走して、形にしていく立場である。(もちろん自分たちで事業企画・出資するプロデュース業も行なっているがそれはいったん置いておいて)

この仕事をしていて思うのは、想いと覚悟を持ったプロデューサーたる事業主というのは、孤独である事が多い。特に、未開拓領域の多い地方で、今まで無かったものを生み出そうっていうのだから、誰にも理解されないこともきっと多いだろう。

考えていることをどう言語化したら良いか、どう表現したらいいか、どこの誰に作ってもらえばいいのか、本当にこの方向でいいのか、などなど、周りには見せないけど不安だと感じる事が多々あるはず。
つまり、考えるプロセスにこそプロの視点や手助けを求めている。

一方でクリエイター達は、条件をもとに意匠設計したり表現をしていく立場なので、それなりに明確な依頼内容が無いと着手できない。また、それぞれの専門領域があるため、違う領域の制作とかの話になると、他のクリエイターを紹介することしかできず、事業主はまた別のクリエイターにいちから説明しなくてはならなくなる。
また、デザイナーにはデザインの相談を、 WEBクリエイターはWEBの相談をできるが、「そもそも何を作ったらいいか?」という戦略立案や企画の相談まではできない。

プランナー/ディレクターたちは、事業主の伴走者としてその溝を埋め、多くのクリエイター達との架け橋となるプロフェッショナルなので、
地方で困っている多くの人に、ぜひこの職業のことを知って欲しいと思う。


ちょっと書いてみようと思ったら、想像以上の長文になってしまった(笑)、まだまだ書きたいことがたくさんあるが、次の記事はもうちょっと短くまとめられるように心がけたい…。


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