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雑記1036「思いがけぬ教え」

おとといの記事で、隣のアホンダラ住人が夜中に洗濯機回して寝不足…ってな話をした。
で、驚きのことがふたつあった。


ひとつめ。

寝不足の次の日に当たるおとといが、ホームメイトのヤロウが休日でやがるもんで、またアッタマ来てた。で、昨日やっとクレームの電話できたのさ。

隣が夜中に洗濯機回して許せんと。ほぼほぼ寝れてないと。過去4回ぐらいあったけど、昨日は風呂場でゴンゴンしてる音もあったと。夜中2時やでと。

そしたら、「あー、それではちょっと通達の手紙を作って…」とか言い出したから、
「いやいや、そうじゃなくて。昨夜は回ってなかったですけど、もし今夜洗濯機回ったらもう終わりなんですよ。おとといの夜、死に物狂いで怒鳴り込みをやめたんです。いま電話連絡つきませんかねぇ。無理だったら自分で怒鳴り込むんですけど、相手の出方が謝意じゃなかったら、もう僕アウトなんですよ。刑務所入りたくないんですよ」
って言ったら、すぐにして折り返しますってなったわけ。

で、数分経ったらホームメイトからかかって来て、「先ほどの件なんですけどね…」ってな感じで微妙に暗めだったんで、なんか相手方が文句言うてけつかるんかと思ってザワッとなって。

そしたら「昨日、引っ越されてます」って。
「えっ」の自分の声が狂喜でしたとも。
引っ越し前夜でバタバタしてて、そこしか洗濯機回せなかったと。すいませんということでしたと。
「あーー、そうでしたかー。もう全然いいですー。あー、良かったー」

万歳三唱でもしたい気分だった。
こっちが越してきてから7年間、顔も知らんけど、ずっとアホ隣人アホ隣人思ってたからね。掃除機はガンガン壁に当てるわ、夜遅く風呂入るわ(向こうの風呂の隣がオレの寝室。風呂のドアの開け閉めだけでもバターンなる)。

いやー、マジか。解放されるのか。しばらくしたらまた入居してくるかもしれんけど、とりあえず邪魔者は去ったなぁ。脳内ではRPGのエンディングでも流れてそうな勢いだ。


驚きのことのもうひとつ。
電話を切ったら、なんかヘンな気分がしてきた。なんだこれは。ちょ、ちょっと待て。お、おい、これは、ま、まさか…

泣いた。また泣いた。

もう意味わからん、自分でも。こんな年になっても、しかもたいがい人が泣かんとこでも泣くような、泣き場所をしらみつぶしにしてきたようなオレでも、まだ自分の知らない感情のヒダがあるというのか。

へたり込みはしなかったけど、近いものがあった。
なんだったんだ、あの日々は。「うるせーなーアホが」と思い続けてきた日々は。隣のヤツ○○にならんかなー、△△にならんかなー、□□にならんかなーと、悪口雑言(口にはしてないが)を心で吐き捨ててきたこの7年間はなんだったんだ。

なんだったって言っても、隣人への悲しみや怒りじゃない。なぜおそらくは普通の人を、敵だと思い続けていたんだという空しさ、いや、そんなマイナスの感じの感情でもない。
どうやら、これは、認めたくはないが、謝意のようだ。そして謝罪の感じよりはむしろ、感謝、に近そうだ。
なんだこれは。なんでこんな感情が湧くのだ。考えられないことだが、どうやら寂しさに近いものを感じているらしい。あぁ、恥ずかしい。

相手に与えられてきたものはたぶんマイナスのものだった。が、「うるせーなー」と思い続けてきたオレの数年を、言ってみれば思い出をこしらえた、共同作業者だったんじゃないか? とまで思えてきた。この感じが一番近そうだ。
ムカつき続けてはきたけど、その起伏を、決して好まなかった起伏を、昨日まで壁越しに暮らしていた隣人以外では、オレに与えられなかった。その隣人がもういまはいない。
さらに驚いたことに、認めたくはないんで角度にして2°ほどだが、壁に向かって会釈をしてしまった。おい、何をやってるんだオレ、やめろ。ひとつ屋根の下で暮らしてくれてありがとうございました、じゃねーよバカ。何を思い出すんだよ唐突に。


実は、隣人は、おそらくは夫婦であろう、おそらくは女性のほうが、数年前から電子ピアノを弾きはじめた。
へー、なんて思ったこともあった。オレが弾くわけだからね。まぁ、思うよね。で、その洗濯機事件の2日ほど前、なんと「君が代」が聞こえてきた。ハモリつきで弾いてた。
普段聞こえてくる感じからだいぶ初心者っぽいけど、これ単音じゃないと多少は難しくないか? 少なくともオレが初回で、思い出して考えてすぐ弾ける感じはしなかった。
そのわずかに感じた上手さと選曲に「へ~っ」なんて思った。悪い人であるわけはなかった。

思えば、オレが7年前に失敗したのかもしれない。
ウチは203号室の端っこだけど、越してきた当初は引っ越しそばでも渡しに行こうと思ってた。下と隣の部屋に。
だけど、6戸あるこのアパートに誰も表札を書いてないのを知って、挨拶に行くのをやめた。「なにここ、キモっ」って思ってしまった。実家のマンションでも、その前に住んでた社宅でも表札はだいたい出てたと思うんで、その常識からそう思ってしまった。
「そうかそうか、シャットアウトするとこなのね」と、冷めてしまった。ウチだけ書くことも考えたけど、みんなが出してない意味を考えたら、不利にしかならんなと思ってそれもやめた。
結局オレもそうやって、隣人の顔も知らない住人になってしまった。普段あんだけ「挨拶って想像してる以上にだいじだでー?」ってここでものたまっておきながら。
(いま調べたら、賃貸は表札を出さないほうが多数派らしい。いままでは社宅、分譲マンションに住んでたからね。しかも個人情報の持つ意味もあの頃とは違う)

ひょっとしたら違う世界線のオレは、隣人と仲良くできていたのかもしれない。
それをオレに勇気がなかったせいで、めんどくさがったせいで、そうではない世界線を生きてしまった。もしかしたら、友になれたかもしれなかった人をみすみす逃してしまった。


昨日完成したマンダラチャートのひとつに「全力で生きる」という項目があった。でも、昨日のことを受けてか、いや、受けてだろう、そこを「名の通りに生きる」に変えた。
せっかく「仲」なんていう変わった名の一族に生まれながら、隣人との仲すら咲かせられなかった。オレは何をやっているんだと心底思わされた。

人と仲良くしないことは罪じゃない。
でも、誰からも挨拶されない者は時に凶行に走る。そんなことをさんざん言ってきたのに、自分は躊躇してできなかった。


隣人は、もしくは隣人をかたどっていた何かは、無言のまま「次からはできるよな?」とオレに教えて行った。

最後に洗濯機回してってくれてありがとう。




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【今週のオリジナル曲】

新曲の卒業ソングです。聴いてね('ω')ノ
3月末までしつこくこの曲でいきますでー。




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