第十八夜 ビバ末法! 前編

「平家物語」で知られる、後白河法皇は、僧侶の女犯を嘆いて、こんな言葉を残している。
「隠すは上人、せぬは仏」
 これが鎌倉時代になると、さらに事態は進み、
「今の世には、隠す上人なお少なく、せぬ仏いよいよ稀なりけり」

「で、さあ、いよいよ、ありがたい逸物をいただこう、っていう時に」
 清少納言さまは、いったん言葉を切って、
「足音が聞こえてくるじゃない!」
 それは大ピンチだ。
「アタイたち、とっさに、本堂の隅の、几帳の影に隠れたのよ」
 本堂だったのか。御本尊さまもおわしただろうに、何とバチ当たりな。
 今更言っても、せんないことか。
「そしたら、お偉い上人さまみたいなお坊さんが入ってきて、よりによって御本尊にお経をあげはじめたのよ」
 それであきらめてしまうタマではあるまい。
「でも、もうアタイも火が点いちゃってたし、空澄さまもギンギンで、二人とも止まらないわよねえ」
 やっぱり。
「空澄さまが、音を立てないように、そうっと入ってきたの。でも、せっかく、空澄さまが気を遣ってくださったのに、アタイが思わず声をあげちゃって……上人さまがこっちを見たの」
 ごくり。また、私たちは息を呑んだ。
「空澄さまが、私の口を必死で押さえた。でも、下の口は押さえられないわよねえ。どうしても動いちゃって……今度は空澄さまが、声をお上げになったの。今度はアタイが、空澄さまのお口を押さえたわ。でも、腰は止まらなくて……アタイたち、お互いの口を塞いだままつながって、必死で腰を動かしてたの」
 ……いやもう。興奮とか何とかいう以前に、その執念に脱帽だ。
「しばらくは二人とも夢中で、お互いをむさぼり合ってたわ。お経の調子に合わせて腰を動かすのって最高! あなたたちも一度やってみるといいわ」
 はあ。
「でも、何だか見られているような気配がして……お経の声が止まったので、ふと目を開けると、上人さまが、几帳の上からのぞいてたのよ」


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