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しみじみと美味しいロシア料理の秘密をエピソードから探る―メインディッシュ編

『はじめてでも美味しく作れるロシア料理』著者ヴィタリさんに訊く、もうちょっとロシア料理のことーvol.8ー

料理が大好きというロシア人のオペラ歌手、ヴィタリ・ユシュマノフさんのとっておきのロシア家庭料理のレシピが、はじめてでも美味しく作れるロシア料理という一冊の本になりました。この連載では、本に収めきれなかった貴重な解説を含め、いくつかのレシピを特別に公開しています。
ロシア料理のレシピだけでなく、その特徴や成り立ちについても熱心に調べているヴィタリさんのノートから、今回はメインディッシュのエピソードをピックアップしてご紹介します。詳しい作り方が気になる方は、ぜひ本書を見てみてください。
前回の記事はこちらからどうぞ。

「魚メンチカツ」はロシアのポピュラーなカツレツのひとつ

ひき肉ではなく白身魚で作る「ヴォルガ風の魚メンチカツ」。ゆで卵が入るのも特徴的。

ヨーロッパでは「カツレツ」はスライスした仔牛肉ですが、ロシアではメンチカツを「カトゥレタ/котлета」(「カツレツ」)と言います

ひき肉を使った料理は、ロシアでは18世紀頃から作られるようになりました。その調理法は、ドイツ、オランダからピョートル1世によって知られるようになりました。

しかしながら、魚が豊富に獲れるロシアでは、16 世紀にはすでに、魚を細かくミンチにして、パン粉をつけて油で焼いていました。魚のミンチを使って動物を模った揚げ料理もありました。

ソ連時代は、どんな工場の食堂に入っても、メニューには必ず魚メンチがありました。肉より魚の方が豊富にありましたし、メインで使われない魚の多くが魚メンチとして食べられていました。

私も学校の給食として、マッシュポテトを付け合わせた魚メンチカツを毎週食べていました。なぜかいつも冷たくて、あまり味がなく、私は大嫌いでしたが(笑)、本物のヴォルガ風の魚メンチカツは美味しくて大好きです。

伝わる間に、中身と外身が逆転した「じゃがいものズラージ」

色々な詰め物に変えて楽しむこともできるズラージ。本書ではヴィタリさんオススメの、鶏肉ときのこの組み合わせをご紹介。

ズラージとはもともとポーランドで人気の、肉で中身を巻いた料理ですが、オリジナルはイタリアです。

16世紀、イタリア・ミラノのスフォルツァ公爵の娘は、ポーランド王のジグムント1世と結婚して、イタリア人のシェフをポーランドに同行しました。イタリア人シェフが作ったズラージは、ポーランドで人気となり、リトアニアやベラルーシを経由して、ロシアに伝わりました。

ベラルーシはじゃがいもの料理で有名でしたので、ロシアでもじゃがいものズラージが食べられるようになりました。そしてイタリアのオリジナルとは逆に、肉は詰め物になり、じゃがいもで包む料理になりました。
さまざまな詰め物がありますが、私は鶏肉ときのこが好き。冷めても美味しいので、お弁当にも向きます。

これまでの記事は、こちらから。

文:Vitaly Yushmanov(ヴィタリ・ユシュマノフ)/サンクトペテルブルク生まれ。マリインスキー劇場の若い声楽家のためのアカデミーで学ぶ。ライプツィヒ音楽演劇大学を卒業。2015年春より日本に拠点を移す。びわ湖ホールオペラ、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」、「東京・春・音楽祭」、NHK-FM、NHKワールド・ラジオ日本、BSテレ東、NHKワールドTV、東京芸術劇場他の全国共同プロジェクト、新国立劇場オペラなどに出演。「日本トスティ歌曲コンクール」第1位、「日伊声楽コンコルソ」第1位、「東京音楽コンクール」など、受賞多数。これまでに4枚のCDをリリース。幼いころからの料理好きが高じ、YouTube「Café Vitaly」(カフェ・ヴィタリ)でも、その腕を披露している。
オフィシャルサイト:http://vitalyyushmanov.com/
twitter:https://twitter.com/vitaly_jpn
写真:ローラン麻奈