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「キャッチ1本、家事のもと!」をキャッチコピーに、主婦兼コピーライターを続けています。…

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「キャッチ1本、家事のもと!」をキャッチコピーに、主婦兼コピーライターを続けています。趣味で、オリジナル技法の3D刺繍のバッグも製作。とにかく、ゼロから何かを創りあげることが好き。エッセーや小説など、仕事を離れた作品作りを楽しみます。

マガジン

  • 北風のリュート

    「#創作大賞2024」の応募作品、『北風のリュート』をまとめました。

  • 『月獅』章ごとのまとめマガジン

    大河ファンタジー小説『月獅』の各話を章ごとにまとめた<全文>を収納したマガジンです。まとめ読みをされるには、最適です。

  • 大河ファンタジー小説「月獅」

    天卵を宿した少女と、天卵の子の物語です。

  • シロクマ文芸部 課題作品

    シロクマ文芸部の課題で作った小説などを編集したマガジンです。

  • 詩篇

    折々に書いた詩をまとめています。

記事一覧

固定された記事

【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

第1話:遠いうねり    そこは世界の蝶番のような場所だった。  東と西の大地の深くえぐれた裂け目は、太古の昔に一頭の巨大な龍がつけた爪痕だと伝えられている。底な…

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3日前
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【連載小説】「北風のリュート」第2話

第1話は、こちらからどうぞ。 第2話:空を泳ぐもの(1) 【2030年3月25日、G県鏡原市】  ああ、今日も泳いでいるな、とレイは曇り空を見上げる。  春休みになってレ…

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1日前
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『月獅』第4幕「流離(さすらひ)」          第16章「ソラ」<全文>

第1幕は、こちらから、どうぞ。 第2幕は、こちらから、どうぞ。 第3幕は、こちらから、どうぞ。 これまでの話は、こちらのマガジンにもまとめています。 ‥‥‥‥‥‥…

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8日前
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大河ファンタジー小説『月獅』75         第4幕:第16章「ソラ」(10)

前話<第16章「ソラ」(9)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(10) (ライは四方からの銃撃に斃れた。絶叫するソラから禍々しき赫い光が迸り、天…

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2週間前
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春の夢釣り(#シロクマ文芸部)

 『春の夢』と銘のついた掛け軸を一幅うっかり購うてしもうた。  笑止千万、不覚千万、前後不覚ですっからからんじゃ。  いやはや、万年床の堆き山を崩しては堀り崩し…

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3週間前
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炭酸刺繍幻想

弾ける泡沫は玉響に ふるえる大気圏を抱き    百舌は泣く 失われた約束の梢に早贄を刺し  モンスーンを従え 蝶がカルビン回路を巡る  吐き捨てられた孤独を集め …

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3週間前
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花吹雪のアサシン。(#シロクマ文芸部)

 花吹雪と呼ばれる男がいる――。  薄れゆく意識の海で李浩然は、裏社会の伝説を十数年ぶりに思い出した。  千の顔をもち年齢不詳、姿すら誰一人まともに見たことがない…

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1か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』74         第4幕:第16章「ソラ」(9)

前話<第16章「ソラ」(8)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(9) (ソラは白虎のライと共に、ノリエンダ山脈の北壁で暮らしていた)  流れる…

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1か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』73         第4幕:第16章「ソラ」(8)

前話<第16章「ソラ」(7)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(8) (羚羊に群がる小獣たちを跳び越え、白虎はソラを連れ去る)  急峻な崖の隘…

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1か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』72         第4幕:第16章「ソラ」(7)

前話<第16章「ソラ」(6)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(7) (ナキオオカミ、ハイエナ、ジャッカルの襲撃から逃れたソラの前に、ふつうの…

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1か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』71         第4幕:第16章「ソラ」(6)

前話<第16章「ソラ」(5)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(6) (コンドルの雛に丸呑みされたまま断崖から落下したソラの躰から強烈な閃光が…

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1か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』70         第4幕:第16章「ソラ」(5)

前話<第16章「ソラ」(4)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(5) (ソラを呑み込んだ雛は、三千メートル級のノリエンダ山脈の断崖の巣から落下…

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2か月前
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玉むすび(#シロクマ文芸部)

 朧月が蒼天に白くにじんでいた。  戎橋の欄干に背を預け、数馬は道頓堀に目をやる。北岸に軒を連ねる水茶屋からもれる灯りがちらちらと川面をさんざめかせていた。川風…

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2か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』69         第4幕:第16章「ソラ」(4)

前話<第16章「ソラ」(3)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(4) (コンドルはノリエンダ山脈の山頂を超えると急峻な北壁に沿って急降下。ソラ…

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2か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』68         第4幕:第16章「ソラ」(3)

前話<第16章「ソラ」(2)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(3)  厚い雷雲を抜けると、天空は静謐だった。  下界の嵐も火山の噴火も、火の…

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2か月前
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大河ファンタジー小説『月獅』67         第4幕:第16章「ソラ」(2)

前話<第16章「ソラ」(1)>は、こちらから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(2)  突然、ごごごごごごごっという不穏な重低音が、空気を震撼させた。  は…

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2か月前
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【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

第1話:遠いうねり    そこは世界の蝶番のような場所だった。  東と西の大地の深くえぐれた裂け目は、太古の昔に一頭の巨大な龍がつけた爪痕だと伝えられている。底なしの谷から唸り声をあげて天へと疾風が舞い上がるのを風の龍と呼んでいた。竜巻と呼ぶものもいる。  七の新月の夜になると羽毛のような雪が降り始める。  北風がその大いなる翼で大地と地に棲む人々を翻弄するころ、北風に乗ってやってくるものがいた。彼らを龍人と呼んだ。  遠い昔の忘れられた地球の子守唄のような記憶だ。 【2

【連載小説】「北風のリュート」第2話

第1話は、こちらからどうぞ。 第2話:空を泳ぐもの(1) 【2030年3月25日、G県鏡原市】  ああ、今日も泳いでいるな、とレイは曇り空を見上げる。  春休みになってレイはほぼ毎日、看護師の母が自宅に隣接する『小羽田医院』に出勤するのを見届けてから、制服に着替え自転車にまたがる。4月から高校3年生になる。理系コースを選択しているが、医者になれと強制されたこともないし、病院は五つ下の弟の櫂が継ぐだろう。母は、レイが嫁に行きさえすればいいと思っている節がある。友人すらまとも

『月獅』第4幕「流離(さすらひ)」          第16章「ソラ」<全文>

第1幕は、こちらから、どうぞ。 第2幕は、こちらから、どうぞ。 第3幕は、こちらから、どうぞ。 これまでの話は、こちらのマガジンにもまとめています。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第4幕「流離」  第16章「ソラ」(1)  太い鈎爪で肩を鷲づかみにされ、視界がぐいんと急上昇した。耳がきーんとする。海風をまともにくらい、目が開けられない。向かい風を受け瞬速で上昇していくのをソラは全身で感じていた。  ――ビュイックだ。ビュイックがまた助け

大河ファンタジー小説『月獅』75         第4幕:第16章「ソラ」(10)

前話<第16章「ソラ」(9)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(10) (ライは四方からの銃撃に斃れた。絶叫するソラから禍々しき赫い光が迸り、天を衝く光の柱となって、ソラは昏倒した――)  ソラは鉄格子の檻で目覚めた。  暴力的な陽ざしが肌に刺さる。周囲には茫々たる砂の海しか見えない。四方を鉄格子で囲まれた檻は、砂漠の上に置かれていた。  大型獣用の檻なのか、床と天井は板張りでかなり広い。ソラが転がっているあたりはかろうじて日陰になっていたが、地を

春の夢釣り(#シロクマ文芸部)

 『春の夢』と銘のついた掛け軸を一幅うっかり購うてしもうた。  笑止千万、不覚千万、前後不覚ですっからからんじゃ。  いやはや、万年床の堆き山を崩しては堀り崩しては掘りして、ようやっと発掘せし作者不明の錦絵を、馴染みの質屋に酒代の質草にせんと、狸の皮算用をはじきつつ持参したところまでは、ふむ、なかなかに良き思案であった。巷間の浮説によらば、仏蘭西あたりではジャポニスムとか何とかぬかして浮世絵がえらく珍重されておるそうな。錦絵なんぞ茶碗の包み紙くらいが関の山と打っ棄っておった

炭酸刺繍幻想

弾ける泡沫は玉響に ふるえる大気圏を抱き    百舌は泣く 失われた約束の梢に早贄を刺し  モンスーンを従え 蝶がカルビン回路を巡る  吐き捨てられた孤独を集め 夜の帳がおりる 流れる泡沫に ストラディバリが泣いている  風には千の跫音があり 海に千尋の聲を掬う ぷらあんよわあんと糸遊はのどけき光の戯れ 鉄の壁に凭れて聴こう 遠き約束の子守唄を 移ろう泡沫は パウル・クレーの素描に遊び 蝋石の線路は消され、鯨の影は銀河を彷徨う ひねもすたゆたう春の海に信天翁は凪を縫う 天

花吹雪のアサシン。(#シロクマ文芸部)

 花吹雪と呼ばれる男がいる――。  薄れゆく意識の海で李浩然は、裏社会の伝説を十数年ぶりに思い出した。  千の顔をもち年齢不詳、姿すら誰一人まともに見たことがない。風に乗って現れ、花吹雪のごとく風に消える――伝説のアサシン。男かどうかも定かではない。何しろ誰も正面から見たことがないのだから。わかっていることは、美しく殺してくれる、ただそれだけ。死の瀬戸際に、舞い散る花吹雪のなか遠ざかる背を目にするといわれているが、野辺に打ち捨てられ死にゆく者が最後に見た光景を誰が知るというの

大河ファンタジー小説『月獅』74         第4幕:第16章「ソラ」(9)

前話<第16章「ソラ」(8)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(9) (ソラは白虎のライと共に、ノリエンダ山脈の北壁で暮らしていた)  流れるように二年が過ぎた。  ノリエンダ山脈の北壁では、一日一日が生きていくための挑戦である。天卵の子は、人の子の三倍の早さで成長する。四歳になったソラは、十二歳の体格を持つ少年に成長していた。  ぴしっ。  極限まで凍りついた空気を切り裂き矢が走る。 「ライ、しとめたぞ」  白銀の虎の背に仁王立ちになっていた

大河ファンタジー小説『月獅』73         第4幕:第16章「ソラ」(8)

前話<第16章「ソラ」(7)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(8) (羚羊に群がる小獣たちを跳び越え、白虎はソラを連れ去る)  急峻な崖の隘路を白虎はソラを咥えて跳ぶように駆けた。  針葉樹の林を抜け、いくつかの岩間を駆けあがる。コンドルの巣のあった天崖より遥か下ではあったが、風は容赦なく丈の高い樹はない。雪に浸食された崖道は脆く、白虎が蹴るたびに岩が崩れ谷へと落ちる音が響く。そんな断崖の途上に大きな一枚板の岩と岩が斜めに支え合う三角の間隙があっ

大河ファンタジー小説『月獅』72         第4幕:第16章「ソラ」(7)

前話<第16章「ソラ」(6)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(7) (ナキオオカミ、ハイエナ、ジャッカルの襲撃から逃れたソラの前に、ふつうの虎よりも二周りも大きな白虎が立ちはだかった。) 「北壁の雷虎!」   先頭で追い駆けてきたナキオオカミは驚愕し、残雪でぬかるんだ地面に前脚の爪を立て、つんのめりながらかろうじて止まる。その声は怯え慄いていた。後続のハイエナもジャッカルも、猛虎の存在に気づくやいなやその場に凍りつく。ソラは白虎の眼前で尻もちをつ

大河ファンタジー小説『月獅』71         第4幕:第16章「ソラ」(6)

前話<第16章「ソラ」(5)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(6) (コンドルの雛に丸呑みされたまま断崖から落下したソラの躰から強烈な閃光が。ソラはなんとか雛の胃から脱出した。)  涙が涸れるまで泣いたら、喉がひりひりした。  闇でよく見えないが、あたりに川や泉はなさそうだ。ソラは岩間に残っていた雪をひとつかみすると口に含んだ。がりっと土の味がした。舌にざらつく土や砂のかけらをぺっぺっと吐く。がぶがぶと水を飲みたかったけれど、しかたない。土の混じ

大河ファンタジー小説『月獅』70         第4幕:第16章「ソラ」(5)

前話<第16章「ソラ」(4)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(5) (ソラを呑み込んだ雛は、三千メートル級のノリエンダ山脈の断崖の巣から落下した。)  ノリエンダ山脈の山頂にある断崖から落下したコンドルの雛は、まだ飛ぶことができなかった。羽ばたきの練習はしていたし、親鳥と同じ立派な翼も生えそろいつつあったから、あるいは飛べたかもしれない。だが、喉に突き刺さった激痛に正気を失っていた。気流をとらえることはおろか、痛みに身悶えし翼を開くことすら思いつ

玉むすび(#シロクマ文芸部)

 朧月が蒼天に白くにじんでいた。  戎橋の欄干に背を預け、数馬は道頓堀に目をやる。北岸に軒を連ねる水茶屋からもれる灯りがちらちらと川面をさんざめかせていた。川風が着流しの裾をめくって戯れる。浅春の夜風はまだひんやりする。数馬はぶるっと身震いし、はだけていた襟もとを合わせた。  ――春の月は、なんとのう、うすぼんやりしとるなあ。  輪郭も朧な月明かりは、川面を照らす前にどこぞで霧散してしまう。  芝居小屋が並ぶ南岸は、昼の賑わいの名残もなくひそりと静まっている。橋のすぐそばにあ

大河ファンタジー小説『月獅』69         第4幕:第16章「ソラ」(4)

前話<第16章「ソラ」(3)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(4) (コンドルはノリエンダ山脈の山頂を超えると急峻な北壁に沿って急降下。ソラは再び失神していた。)    どさっ。  顔面を強打し、ソラは目を覚ました。  細かな羽毛が埃となって舞っている。ごつごつした岩の上に抜け落ちた薄茶色の胸毛が散乱していた。鼻、頬、腕、腹。ソラの全身に鈍痛が走る。起き上がろうとして吐いた。口の中にどろりと血の味がした。 轟々と風が吹きつける。奥は暗くてよく見えな

大河ファンタジー小説『月獅』68         第4幕:第16章「ソラ」(3)

前話<第16章「ソラ」(2)>は、こちから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(3)  厚い雷雲を抜けると、天空は静謐だった。  下界の嵐も火山の噴火も、火の咆哮も怒涛の驟雨も、狂気もない。紅蓮の炎も稲光も、命の鼓動のけはいすらない。あまねく太陽に照らされているだけの無音の世界。空気も薄い。ただ風は吹いていた。  コンドルは嵐にもまれた羽根をばさりと一振りし雨滴を払うと、闇を従える翼を広げた。  はるか北にノリエンダ山脈の雪を戴く山頂だけが見える。一文字に連なり、雲

大河ファンタジー小説『月獅』67         第4幕:第16章「ソラ」(2)

前話<第16章「ソラ」(1)>は、こちらから、どうぞ。 第4幕「流離」第16章「ソラ」(2)  突然、ごごごごごごごっという不穏な重低音が、空気を震撼させた。  はじめは鈍く重く。しだいに重量を増してくる。けっして耳を覆うような大音量ではない。だが、地の底から得体のしれない何かがせりあがって来る不気味な圧迫感が島を覆った。  海面が激しくうねる。森からいっせいに大小の鳥が飛び立つ。地底で龍がのたうち大地が軋むような不穏さが確実に強まっていく。島を取り巻く空気がみしみしと震