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“Annam”をフランス語で読む

正月早々、荷物が届いた。発送元はフランス。

クリストフ・バタイユ著、辻邦生訳『安南 愛の王国』の原書である。もちろん注文したのは自分だ。昨年12月7日、到着までおよそ6〜31日とあったから、待っていればそのうち届くだろうと思って、あとはすっかり忘れていた。

『安南』を古書店で入手し、はじめて読んだのが2010年の暮れ。その悲劇性に大きな衝撃を受けた。その簡潔な文体にも驚いた。

本書の「解説」に、フランス本国の評論家による言葉が紹介されている。

彼は禁欲的なまでに緊密な、きわめて短い、単純さそものもののような文章を書く。その文章はほとんどの場合、ただ一つの文節であり、その文節もただの四個の語を連ねただけだのだ。

評論家ジャン・バティスト・アラン

英語かスペイン語ならば読めるものの、たとえ引用されていても、フランス語は分からない。その簡潔きわまりない文体に大きな興味を抱いたものの、語学の壁は大きい。とても悔しい。それ以降、この『安南』は何度も読み返すほどお気に入りの小説の一つとなり、また毎回悔しさを味わう小説の一つにもなった。

そして昨年12月、「あなたへの手紙」のために読み返すと同時に、またもや悔しい思いを抱いた。もう我慢ならない。そして真夜中にポチッとした。

いま、新書サイズの“Annam”が届き、1ページあたりの文字の大きさと、本の薄さに驚く。1997年11月に、筆者のクリストフ・バタイユが来日したとき、訳者の辻邦生が対談している。そのとき、著者バタイユ自ら『安南』を要約する。

(『安南』は)20ページ目で修道士たちは布教のために世界の果てに旅立ち、50ページ目で、公教要理はむなしいと気づき、80ページ目で、彼らは宗教の禁を犯して愛し合い、100ページ目で死んでしまう。

『対談 小説の場と視覚 辻邦生、クリストフ・バタイユ』「小説すばる」1998年2月号

しかし、きょう届いたre-issueでは、100ページ目どころか、93ページで物語そのものが終わる。何て短い小説なのでしょう!(直訳調)

本文を「見て」も、カンマとピリオドの位置だけで推測するならば、やはり一文が短いし、何となく一文節なのだろうなと感じる。フランス語はスペイン語と同じロマンス語なのに、ほんとうに読めない。名詞レベルでは、英語に似ていたり、スペイン語とほぼ同じというものがあったりするけれど、いざ読むとなると、さっぱり分からない。これがイタリア語の文章ならば、スペイン語と似ている部分をたどりながら「謎解き」していくのが楽しいのだけれど。

新年の抱負は、好きじゃない。その手の目標も立てたことがない。

だから今回も、それとは違う。しかし、この原書がきょうたまたま届いたという理由で、もしかしたら、これが1年の目標になるのかもしれない。

Chrstophe Bataille "Annam"をフランス語で読む

さて、仏和辞典を買いにいこう。

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