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【ダイバーシティお役立ち情報:第2弾】社外ステークホルダー向けだけではない!?「D&Iブランディング」の推進メソッド

執筆者:D&Iアワード運営事務局 黃昱翔

企業は、良質な製品やサービスを提供することによって利益を生み出す。そしてマーケティングによって、その製品やサービスの良さを伝える。

しかし、製品やサービスそのものの良さだけを伝えても伝わらない、もしくは差別化が足りないこともしばしばある。消費者や株主、そして社会全体に与える企業や商品ラインのイメージや特色が、消費されるかどうか、投資されるかどうかに大きく影響する。自社の商品やサービスが社会全体に対してポジティブなインパクトがあることを示し、ブランド価値を固める・高めることこそ、売上や企業の経営そのものに貢献するのだ。

近年、環境や人権などが重視される風潮のなかで、企業が制度・カルチャー面で多様性のある労働環境を整備し、また自社の商品やサービスを通じて、社会的マイノリティのコミュニティに貢献するなど、社会的に先進的な取組みをしている企業が、その取組みにコミットし、発信することにより、消費者、投資家、更には社会の支持を得て、広く信頼される企業になっていく。しかし、経営者と一人ひとりの従業員こそが、企業の事業推進・発展と、それらを社会に広めていく担い手であり、その従業員が組織内のD&Iの取組みの効果を実感していることが、会社全体のブランディングの役に立つ。

本稿は、消費者・投資家・社会全体といったステークホルダーへ向けたアウターブランディング(エクスターナルブランディングとも言う)と、従業員の共感を得るインナーブランディング(インターナルブランディングとも言う)の相互影響から、D&Iの推進について考えていきたい。


「B Corp」認証が巻き起こした「Bエコノミー」

近年、D&Iもしくは公平性(Equity)を加えたDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を含めた社会価値創造は企業活動において重要な役割を果たすようになっている。その動きを表す世界的なムーブメントとして、「B Corp」認証が挙げられる。

「B Corp」とは、DEIも含めた社会的・環境的パフォーマンスと説明責任、透明性に関する非営利団体「B Lab」が基準を満たした企業・団体に授与する認証のことだ。(*1)
主催の「B Lab」は、「ビジネスに良い影響力を与える力として使う人々が集まる、グローバルなムーブメントを推進するリーダーたちのコミュニティ」を目標とし、「ガバナンス」「従業員」「顧客」「コミュニティ」「環境」といった5つの領域からなる指標「Bインパクトアセスメント(BIA)」を作った。2020年の時点では、自社の社会環境的インパクトの精査のために5万社以上の企業がこの指標を利用した。(*2)現在は80か国・150の産業にわたり、6000社以上の企業が認証を受けている。(*3)

「ムーブメント」と呼ばれるB Corpの動きはグローバルに拡大し、企業・団体の認証にとどまらず、アカデミア、投資家、B Corpの指標を利用する企業・団体等、多様なステークホルダーを巻き込む「Bエコノミー」まで作り出しているという。(*4)
最近では、ダノンジャパンをはじめとして、グローバルファームの日本法人や日本企業も認証を受けている。

B Corpが作り出す世界的な社会経済的ムーブメントを筆頭に、ソーシャルインパクトが企業の価値評価・支持に繋がるような社会経済的潮流が広がるなかで、企業がD&Iに深くコミットし、それを対外的に示すことを通じて、業界やビジネスコミュニティにD&I推進の小さな波を起こしていくことが重要になっている。今後、企業によるステークホルダーとのコミュニケーションであるブランディングに、D&Iを組み込んでいくことは、企業活動のキーとなっていくだろう。

「ブランディング」から「インナーブランディング」を考える

ブランディングとは、ブランドの価値を創造し、それがあらゆるステークホルダーの頭の中で、「この企業・団体といえば〇〇のイメージがある」と常に想起されることにより、競合他社との差異化を達成することだ。
しかし、「ブランディング」と言ってよくイメージされるのは、消費者・投資家・市場・社会といった、いわゆる「外部=アウター」のステークホルダーへのブランディングだ。しかし近年では、「内部=インナー」に向けるブランディングも注目されてきている。

インナーブランディングは、下記のように定義されている。

インナーブランディングは、社内ステークホルダーに向けて自社のブランド価値を伝え、浸透させ、ブランド価値へのコミットメントを高め、ブランドの体現・実践を推進する活動のこと。

伊佐陽介(2023)『サステナビリティ・ブランディング 選ばれ続ける企業価値のつくりかた』
ダイヤモンド社:133ページ(電子書籍版)

つまり消費者や市場・社会に伝わるブランドの理念や、会社自体の特色・強みを従業員にも十分に知り、共感を持ってもらうことが求められる、ということだ。
それを達成するためには、下記の5つのツールがあるとされている。

1、ブランド理念
2、ブランドリーダーシップ
3、インターナルブランド・コミュニケーション
4、インターナルブランド・コミュニティ
5、ブランド主導型HRM(人的資源管理)

陶山計介・伊藤佳代(2021)『インターナルブランディング: ブランド・コミュニティの構築』
中央経済社:80ページ

これらの要素からわかるのは、まずブランド理念が設定され、それをもとに会社をリードすることが重要視されていること。そしてその理念を組織内で伝え(コミュニケーション)、従業員にファンになって共感してもらい(コミュニティ)、さらに制度として定着させる必要があることだ。

現場で実務を担当している従業員が会社の理念やビジョンを正しく認識、もしくは共感できることが重要になる。会社の理念やビジョンに対する認識や共感がなければ、それを日々の仕事で外部に伝えることも難しい。逆に従業員の会社への帰属意識が高まると、自分の担当の仕事・役割以外の範囲でも、積極的に事業・組織のために行動を起こすという「組織市民行動」が促進され、組織の課題解決のきっかけとなり、働きやすさと効率の向上、仕事の質の改善につながる。こうして、日々の業務-取引先や消費者との対応、新規事業の立上げ、自社採用の広報活動など-を遂行する際に、「クリエイティブである」「挑戦精神がある」「環境や人権を大切にする」などの自社の理念を落とし込んでいくと、外部のステークホルダーに対するアピールにもつながる。

そうするためには、ただ良い取組みをバラバラと宣伝するのではなく、パーパス・ミッション・ビジョンを起点として、それに紐づいた取組みの打ち出し方にする必要があるため、インナーブランディングは、経営戦略そのものだという考え方もある。(*5)

D&Iブランディングに取り組む

D&Iブランディングにおけるアウターブランディングとインナーブランディング
(D&Iアワード運営事務局作成)

上記の考え方に基づくと、企業がD&Iでブランディングを試みる場合、まず企業の理念としてD&Iにコミットし、実際の取組みと組織内の環境整備を経営戦略の中に組み込むことがまず大前提になる。そして、インナーとアウターの両方に取り組むことにより、両方が影響し合って効果を出すことも考えられる。

この前提のもとで外部に対してブランディングをする場合、取組みの例として自社のD&I推進理念と実際の取組みをホームページに掲載し、広告で告知すること、学術機関ややNPOなど外部団体とのコラボレーションやキャンペーンを実施すること、株主にはCSRレポートを通じて知ってもらうこと、また上記のB Corpのような認証を取得することなどが考えられる。
そしてそれらの取組みは、「他社がやっているからうちの会社でもやる」というような他社模倣ではなく、パーパス・ビジョン・ミッションで思い描く自社や社会の未来と現状のギャップを解決するためのアプローチとしての取組みであり、他社起点ではなく「自社起点」もしくは「自社未来起点」であることが大切だろう。

上記のような取組みが人材市場に伝われば、多様でイノベーションを促進できる人材を採用することにもつながり、それに賛同する消費者や投資家にも支持される。

内部に対する取組みは、ハード=推進制度の整備と、ソフト=カルチャー醸成の2種類に大きく分けられる。
まずハード=推進制度の整備に関しては、具体的には、管理者のリーダーシップ評価に指標として取り入れるなど、D&Iを人事評価制度に組み込むことや、多様な人を想定した福利厚生制度を設けることなどが考えられる。ソフト=カルチャー醸成としては、理解促進のための研修やセミナーを実施し、そしてハンドブック等を作ることにより、全ての従業員に多様性を重視する方向性を示すことが考えられる。

これらの取組みはD&I推進と重なる部分はあるが、ここで重要なのは、インナーブランディングとして従業員に共感・信頼してもらうには、ハードとソフトのどちらにも取り組むことが不可欠であること。社内制度の整備がなければ耳触りの良い言葉を並べただけだと思われるし、制度の整備だけあっても、それを使えない雰囲気と環境ならば、実際に制度を必要とする当事者にとって利用しづらい制度になってしまう。経営層や管理職層がD&Iの重要性を企業の理念に改めて組み込み、コミットメントすることがとても重要だ。

「インナーブランディング」に取り組むことが「アウターブランディング」の役に立つことは前述の通りである。それだけでなく、実は「アウターブランディング」も逆に「インナーブランディング」の役に立つこともある

たとえば、企業・団体がD&Iの認定を取得する動きは、一般的にウェブサイトなどに公開し、働きやすい会社として潜在的な求職者に、もしくは人権の先進的組織として社会全体に、つまり外部に見せるための「アウターブランディング」だと思われるかもしれない。しかし、外部機関による認定を取得しようという動き自体は、従業員にそのコミットメントが伝わるというメリットもある。なぜなら、外部機関による審査のために、まず社内で取組みの精査と取組みの俯瞰的な振り返りの必要性があり、それに伴い、従業員サーベイの実施など、全社的な動きにつながるケースが多い。このような全社的な動きを経営陣や人事から組織全体に伝えると、D&Iに対する会社のコミットメントや前向きな姿勢も従業員に伝わっていく。また、実際に賞を受賞した場合、従業員にとって「先進的な会社で働いている」という自信づけにもなる。外部にアピールする「アウターブランディング」の動きから、「自分の会社もD&Iを推進しているんだ」という認識につながり、「インナーブランディング」が目指す従業員の共感につながることもある。

最後に

すでにある程度D&Iの取組みを推進している企業は、D&Iアワードを含めた認証に参加することによって、アウター(外部)向けのアピールができるだけでなく、D&Iに対する会社のコミットメントを再確認し、従業員向けの動機付けやD&Iの取組みに関するコミュニケーションになる。また、従業員にその理念が伝わったことで、外部向けのブランディングの役に立つという良い循環ができる。
ぜひD&Iアワードを、「認定表彰制度」としてだけでなく、D&Iブランディングを推進するツールとして活用してもらいたい。

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D&Iアワードを自社・団体のD&I推進に役立てる方法を知る▼
https://note.com/deib_jobrainbow/n/ne73ec20bc552?magazine_key=mb91faf17ebbc

お問い合わせ情報
D&Iアワード運営事務局
Email:diaward@jobrainbow.net
TEL:05017456462

参考資料
*1:ライアン・ハニーマン、ティファニー・ジャナ『The B Corp Handbook〜B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善〜』バリューブックス・パブリッシング:38ページ。
*2:クリストファー・マーキス著・田口未和訳「グローバル企業に広がるBコーポレーション」SSIR Japan『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。』英治出版:108-109ページ。
*3:FAQs How many Certified B Corps are there around the world? Retrieved July 25, 2023 from https://www.bcorporation.net/en-us/faqs/how-many-certified-b-corps-are-there-around-world/#:~:text=FAQs-,How%20many%20Certified%20B%20Corps%20are%20there%20around%20the%20world,countries%20and%20over%20150%20industries.
*4:ライアン・ハニーマン、ティファニー・ジャナ『The B Corp Handbook〜B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善〜』バリューブックス・パブリッシング:40ページ。
*5:陶山計介・伊藤佳代(2021)『インターナルブランディング: ブランド・コミュニティの構築』中央経済社:80ページ。

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