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#18 雨下の迷い者たち

 入り口が分からなくなるくらい奥へ入り組んで入っていったから、出口が分からないのでは、と心配したが、この部屋から出ようと思いながら歩けば、いつの間にか「出られている」らしい。じっさい僕たちも、気づいた時にはもう廊下を歩いていた。
 そっか、ここ、学校だったな。
そんなことにふっと気づく。学校内も十分寒いのに、さっきの図書館よりは温かいことを感じ、そう思った。なんだか、手品を見せられていた気分だ、ずっと。
「じゃあ、あたしはここで! もう一回わな仕掛けてくるから!」
そう言って廊下の曲がり角で解散する。やっぱり足の速いテンは、「ろう下を走るな」のポスターの横を全速力でかけていった。そんな後ろ姿を眺めながら、テンの手ににぎられたままの本について考える。あの詩の意味するところを思いつかないと、ふりだしに戻ったままなのだ。
とりあえず『注文リスト』は頼ることができないことは分かった。イズの機械の完成を待つか、あの詩の謎解きをするしかない。万が一のためにも、全力で僕はピアノの練習をしよう。

さあ今日も! と音楽室に入る。
と、人が多い。音楽室の中にいた生徒たちは、ドアの音にぱっと顔を上げた。合唱部員やメイクまで、たくさんの人がいる。いつも放課後、第一音楽室使っているはずの合唱部なのに、今日はどうして第二音楽室にいるのだろうか。
「あれ、今日が中間発表会だっけ?」
「ユウくん!」
スイが僕のことを手招きする。空気の重さに、ただならぬ何かを感じた僕は、急いでスイたちの方へ向かう。みんなが取り囲んでいた机の真ん中に、白い紙がおかれていた。困ったような、苦しそうな、そんな視線をその紙に向けている。
「中間発表会は今日やないよ、それより……」
と口をつぐむ。え、なんだろう。そう思ってその白い紙をとってみる。そこにはこう書かれていた。

 来る二月十二日
 合唱コンサートの会場である体育館は
 赤い炎につつまれるだろう。

短い文章と、新聞紙の文字を一つずつ切り取ったありきたりな紙。これって……。僕は、ひとつしか思い当たらない。
「まさか、爆破予告⁉」
そんな、ドラマで見るようなべたなことをやってくる人がいるのか。僕はびっくりして目を疑った。
「そうなの……」
合唱部員はみんな下を向いて、悲しそうな顔をしており、ケイだけが、
「ふざけやがって!」
と叫んでいた。
「だ、誰かのいたずらってこともありえるでしょ?」
僕はそう、かすかなのぞみをかける。
「私んらもそうやと思っとったんやけど」
と、スイはメイクの方を見る。一番暗いオーラをまとっていたメイクは、少しぷるぷる震えながら、小さな声でこうつぶやいた。
「あ、あのね……、イズ氏が部活で初めて作って、賞とった、『花火打ち上げマシン』が、理科室からなくなっていたの。たぶん、盗まれたんだと思う。
 あれ使い方間違えると、ば、爆発するんだよね……」
え⁉ ま、まずいじゃん! そうか、だからこの場所にメイクがいたのか。ものづくり部のなくなったマシンと、合唱部に届いた爆破予告。
「そ、そっか……、えっと、じゃあ、例えば、合唱コンサート中止にしたいって思っている子とか、誰か心当たりない?」
しーん。言いながら、自分でもそんな子いないよな、とは思っていた。しばらくの沈黙の後で、アコが重々しく口を開く。
「あ、ナナ……かも。だってナナ、みんなとけんかして出ていったし。合唱部に恨みのあるやつなんて、ナナくらいしか思いつかない」
ナナって、僕の前の伴奏者だった子だよね? 僕は、少し前に、スイに聞かせてもらった話を思い出す。でも、けんかしてやめたことは知らなかった。あの時のスイの話は、ひっこしのためにやめたっていう内容だったのに。
「ナナか。ナナの教室はどこ?」
とりあえずそう聞く。話しておきたいことはほかにもあった。
「B!」
誰かの声を横目で受け止め、僕は走り出した。二年B組の教室まで。もしかしたら、僕はテンに似てきたのかもしれない。走りながら、他人事のようにそう思っていた。

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