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#17 雨下の迷い者たち

 目の前にす、と降り立った時、テンが叫んだ。
「あ! アマオウ!」
え、アマオウ? ものすごい威厳のある名前かと思ったのに、かわいい名前だな。びっくりしてその人の方を見る。当の本人はむすっとした顔のままだ。マントをはおって、背は僕よりも高く、顔のしわもよっているものの、年齢はあまり変わらなさそうだ。無表情なのに、目にはするどい光がやどっている。
「だから、俺のことはレイと呼べと言ったはずだぞ」
がみがみと機嫌悪そうに怒っている。うえ、こんなに怖そうなのに、テンはよくそんな平気に話せるな。僕がそう感心していると、テンはそっと、僕に耳打ちをし始めた。
「この人は、アマノダイ・レイシャーロッソ王。通称アマオウ様。世界中の雨ふらしが加入している雨ふらし協会の会長さんで、この部屋を管理してるの。このお方だけ、雷雲を呼ぶことができるんだよ」
「おい、聞いているのかテン!」
テンのこそこそ話にアマオウが雷を落とす。雷がとてもよく似合う人だと思う。ていうか、なんだかどこかで会ったような気がするんだけど。最初降り立った時から、どこかで会ったような気がしていた。するどい目の光と、そして何より威圧感のある立ち姿。この姿、どっかで……。
「それはそうと、お前もいたんだな、雨森ユウキ。中庭掃除はもう終わったのか?」
アマオウは口元だけ冷たい笑みを浮かべた。
 ……ん?
えええ、うそうそ、まさか、まさかこの人、い、イチゴ先生⁉ 確かに僕「あと髪の毛五センチ切って、ひげそって(以下略)」って思っていたけど! どうしてそんなに若返ったの⁉
 あたふたと二人の顔を見比べている僕を、アマオウは鼻で笑い、テンはまた、こうささやいた。
「アマオウは、『天気に一番近い学校』である夕日中にあたしが行くって決まったときに、心配してついてきてくれたんだよ。ちなみに、アマオウはすごい雨ふらしだからね、雨の力をほんの少しは使えるの。ユウくんほどじゃないけど。その力で、見た目を変えて、夕日中に潜入してるんだ」
なるほど、イチゴ先生は仮の姿だったわけか。雨の力でそんなこともできるのか。うすうす感じていたが、雨の力って、雨の日にしか使えない魔法のようなものだな。そう納得していたが、すぐ、なんだか疑問に感じてきたことがあった。
「で、でもじゃあ、なんで先生なんだ? どう考えても僕たちと同い年くらいですよね?」
僕のうろたえた言葉に、アマオウがにたりと笑う。
「当たり前だ、今までで最年少の会長だからな」
「じゃあ、なんで生徒じゃなくて先生に変装してるんですか?」
「ここの制服はきつい。肩がこる」
あ、そんな理由……
 その時、天井の方(遠すぎて見えないが)が少し光った気がした。見上げてみると、すごく上の方に、霧のようなものがかかっており、一部分の霧が、ちか、ちか、と赤く光っていることが分かった。それを同じく見上げていたアマオウはちっと舌打ちをして、
「あいつまたか! おいテン! あまりちらかすなよ!」
と叫び、飛び去ってしまった。来た時のように、マントをなびかせて、すっと上に飛んでいく。これも、もしかして雨の力だったりするのか。
「はーい!」
そう言いながら、テンはにこやかに手を振る。
「雨ふらし協会の会員のことはね、アマオウがすべて監視しているの。あの、霧みたいなのが光ったときは、会員の誰かがルールを破った合図なんだよ。例えば、必要以上に雨を降らせすぎるとか、仕事をさぼるとか。そういうのを全部、管理してるんだよ」
だから、みんなアマオウにはびくびくなんだよねー、とあまり怖がってなさそうな言い方をするテン。そんな偉い人なのに、敬語使わないんだな。まあ(一応先輩の)僕にも使ってくれてないけど。

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