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デレラの読書録:宮内悠介『スペース金融道』


『スペース金融道』
宮内悠介,2024年文庫化(2016年単行本),河出文庫

人類最初の植民惑星・通称「二番街」で繰り広げられるSF×闇金取立屋のエンタメ作品。

アンドロイドに高金利で金を貸し出す「新星金融」。

そこで働く取立屋コンビのユーセフとぼくが奇想天外なSF設定を駆け巡る。

面白いのはアンドロイドの設定の塩梅だ。

どういうことか。

「アンドロイド」はSFでは古くから使われているモチーフだ。

広義のSFは、科学的な設定や思弁的な設定を持ち出して、「人間とは何か」とか「社会とは何か」を逆照射するようなところがある。

ようは「アンドロイド」は、SFでは「人間や社会とは何か」を問うためのモチーフでもあるのだ。

というのも、まさにアンドロイドは「人間のような形をした人間でないもの」であるからだ。

従って、アンドロイドのSF設定上の役割は、人間がやりそうなこと、できないこと、見た目の違う人間、つまり、人間の境界性を際立たせることにある。

では、『スペース金融道』ではどのように描かれているのか。

『スペース金融道』の世界では、アンドロイドは人間に差別されていて、危険で不安定な職に就いている。

そのため大手金融機関では金が借りれず、闇金である(主人公たちが働く)新星金融で金を借りることになる。

取立先ではアンドロイドの事情や思惑、屈折があり、物語をドラマティックに仕立てている。

さて、特に面白いのがアンドロイドに刷り込まれている「新三原則」だろう。

一つは、スタンドアロンであること、二つは、経験主義を重視すること、三つは外部のグローバルネットワークに接続できないことだ。

特にいい味を出しているのが第二条の経験主義の重視である。

どういうことか。

本書の説明はザックリしている。

あまりに合理的だと人間っぽくないから、経験を重視しましょうね、というものだ。

経験した因果律を重視する、つまり、成功と失敗を重視する。

ようは、アンドロイドは過去の体験に密着しているということ。

当然これは、人間はそういう生き物だ、ということを示している。

SFにおいて、アンドロイドは、人間のメタファーなのであった。

機械知性なのだから人間より賢いだろうと連想するのが普通だが、本書では、アンドロイドは、自分の考えに固執し、騙され、利用され、傷つき、極端な思考に振れさえする。

あまりに人間的なので、アンドロイドであることを忘れてしまう。

展開のテンポの良さ、賭博やミステリなどの多様なモチーフとエンタメ性の裏には、ウィットに富んだ人間社会への批評性が本書にはある。


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