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デレラの読書録

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読んだ本について思ったこと感じたことを記録します。 小説や詩集やエッセイ、あるいは学術的なものまで、ジャンル横断的に読みたいです。
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記事一覧

デレラの読書録:石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』

デレラの読書録:石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』

水俣病を題材にした作品。

題名の「苦海」とはメチル水銀を含んだ産業廃水が流れ込んだ水俣の海(不知火海)のことである。

水銀を含んだ魚介を食べた住民は水俣病を発症した。

つまり、苦海とは、人々を苦しめる海である。

では「浄土」とは、どういうことだろうか。

浄土というのは、仏教における、けがれや煩悩から解放された清浄の世界である。

メチル水銀が流れ込み、汚された苦海(不知火海)は清浄の世界

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デレラの読書録:朱喜哲『NHK100分de名著2024年2月(ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』)』

デレラの読書録:朱喜哲『NHK100分de名著2024年2月(ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』)』

米哲学者リチャード・ローティの著作『偶然性・アイロニー・連帯』の入門的テキスト。

平明達意。

ローティの思想と文脈を外観できる。

偶然性を自覚すること、アイロニカルであることが連帯に繋がる。

哲学史では必然/偶然の二項対立は重要な概念であり、ローティの哲学は偶然性を強調する。

では何が偶然なのか。

それは広い意味での私たちの言語(ボキャブラリー、概念、ことばづかい)が偶然なのである。

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デレラの読書録:伊藤亜紗『感性でよむ西洋美術』

デレラの読書録:伊藤亜紗『感性でよむ西洋美術』

古代から近代までの2500年分の西洋美術をサクッと振り返られる本書。

キーワードは、感性。感性とは「考えつつ、感じる」ということ。

では「考えつつ、感じる」とはどういうことか。

それは絵を見た印象を言葉にしてみるということである。

西洋美術の歴史は、〇〇様式の変遷としてすでに物語化されている。

本書ではザックリと、古代→中世→ルネサンス→バロック→新古典主義→ロマン主義→写実主義→モダニ

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デレラの読書録:千葉雅也『センスの哲学』

デレラの読書録:千葉雅也『センスの哲学』

読後感が気持ちがいい。

生活する自分の部屋から始まり、言葉に導かれ外に出て散歩をして、街並み、高架や河川、公園や街路樹、ビルや商店街などの風景の見方を教えてもらい、また自分の部屋に帰ってきたようだった。

解放感と閉塞感を同時に感じている。わたしは散歩が好きだ。

高低差のある土地で高いところから街を一望する気持ちよさ、住宅街の人間の生活が密集した感じ、商店街の店構えや文字、建物や道路の形、煙突

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デレラの読書録:千葉雅也『現代思想入門』

デレラの読書録:千葉雅也『現代思想入門』

かつてないほど平明達意に現代思想について書かれた本。

コツを知りたければこれだけ読めばいいとさえ思う。

とはいえ、描かれているコツは本格的である。

それは、複雑なことを高解像度で理解するために、二項対立を意識してダブルで考えるということ。

現代思想を代表してデリダ・ドゥルーズ・フーコーが呼び出される。

彼らは二項対立を脱構築する思想を展開していた。

脱構築とは何か。

ようは、二項対立

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デレラの読書録:千葉雅也『意味がない無意味』

デレラの読書録:千葉雅也『意味がない無意味』

本書では「意味がある無意味」と対比させて「意味がない無意味」という概念が提示される。

意味がある無意味は「モノの意味が無限に解釈可能であるが故に意味が確定出来ない」という無意味である。

ようは、意味の汲み尽くせなさである。

では、意味がない無意味とは何か。

それは解釈を止めてしまうような、意味を有限化してしまうような、無意味である。

わたしを絶句させる無意味。

本書は、この意味がない無

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デレラの読書録:千葉雅也『勉強の哲学』

デレラの読書録:千葉雅也『勉強の哲学』

近刊『センスの哲学』を読むために再読。

勉強とは何かをラディカルに問う本書。

勉強とは何か。

一言で言えば生成変化(p.212)である。

今いる環境から外に出て、自分の享楽的なこだわりを見つめ直し、こだわりを造り直す。

勉強はスクラップ&ビルドである。

補章のタイトル「意味から形へ–楽しい暮らしのために」にもある通り、本書で提示される勉強論は暮らしを楽しいものに変えてくれるのではないか

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デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂漠の救世主』

デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂漠の救世主』

砂の惑星アラキスを中心に描かれるSF大河小説デューンの第二巻。

第一巻で、ハルコンネン家の陰謀に打ち勝ち、帝座に着いた主人公ポール・アトレイデス皇帝の統治から12年。

帝王となったポールの運命の物語である。

ポールが帝座についたのは、もとは砂の惑星アラキスをめぐる覇権争いのなかで、一度は全てを失ったポールが、原住民族であるフレメンと共闘してハルコンネンおよび皇帝を打倒することの延長線上にあっ

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デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 下巻』

デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 下巻』

ついにポールがハルコンネン家に復讐を果たす時が来た。

ポールは産砂の命の水を飲み、クウィサッツ・ハデラックとして覚醒した。

クウィサッツ・ハデラックとはベネ・ゲセリットの信じる、いわば救世主だ。

ポールは救世主となった。

クウィサッツ・ハデラックは時空を渡って遥か遠い過去を振り返ったり、現在から先、枝分かれした未来の世界線をはっきりと見ることができる。

砂の惑星アラキスで産出される香料メ

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デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 中巻』

デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 中巻』

砂漠に逃げ延びたジェシカとポールはハルコンネン家に憎悪を抱くフレメンと共闘しようと近づく。

必然的にポールたちとフレメンは出会う。

かつてベネ・ゲセリットが残した予言の通りに、二人がフレメンに受け入れられるまでの物語。

生き延びるためにはフレメンと共に生活しなければならない。

しかし、その道は悲惨で陰鬱な聖戦へと繋がっている。

民族が戦争で勝利を手に入れるために自らの身体を賭す。

大量

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デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 上巻』

デレラの読書録:フランク・ハーバート『デューン砂の惑星 上巻』

SF小説の金字塔、壮大な大河作品。

香料の産地「砂の惑星アラキス」で宇宙を統治する大貴族であるアトレイデス家とハルコンネン家が衝突した。

両家の衝突は宇宙に何をもたらすのか。

鍵となるのは原住民族のフレメンである。

宇宙を統べる帝国の帝王皇帝、救世主を信仰する女子修道会ベネ・ゲセリット、覇権を狙うハルコンネン家、善政を目指すアトレイデス家、利権に群がる領主議会と大公家連合、宇宙ギルド、砂の

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デレラの読書録:宮内悠介『スペース金融道』

デレラの読書録:宮内悠介『スペース金融道』

人類最初の植民惑星・通称「二番街」で繰り広げられるSF×闇金取立屋のエンタメ作品。

アンドロイドに高金利で金を貸し出す「新星金融」。

そこで働く取立屋コンビのユーセフとぼくが奇想天外なSF設定を駆け巡る。

面白いのはアンドロイドの設定の塩梅だ。

どういうことか。

「アンドロイド」はSFでは古くから使われているモチーフだ。

広義のSFは、科学的な設定や思弁的な設定を持ち出して、「人間とは

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デレラの読書録:雨宮昭一『占領と改革』(シリーズ日本近現代史第七巻)

デレラの読書録:雨宮昭一『占領と改革』(シリーズ日本近現代史第七巻)

敗戦後の連合国による占領と改革。

戦中と戦後の切断線を丁寧に読み解く本書。

戦前・戦中の日本は全くダメで、GHQの占領と改革で日本は良くなった、という素朴で単純なイメージを解体する。

あの頃、何が起きていたのか。

戦後改革について考える時に見過ごしがちな問いに著者は注意を促す。

その問いとは、GHQがいなくても進んだ改革があるのではないか、それは当然元々あった利害関係や集団が進めるはずだ

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デレラの読書録:吉田裕『アジア・太平洋戦争』(シリーズ日本近現代史第六巻)

デレラの読書録:吉田裕『アジア・太平洋戦争』(シリーズ日本近現代史第六巻)

わたしは平成生まれで、戦争の記憶は無い。

さらに言えば、ベルリンの壁崩壊よりも後の生まれなので、冷戦すら歴史の教科書の出来事である。

そういうわたしたち世代は、かの戦争をどのように学ぶことができるのか。

わたしがアジア・太平洋戦争を知るということは、本書の「はじめに」で書かれてるように、直接経験していないことを想像することである。

なぜアジア・太平洋戦争が起きたのか。

意志決定のプロセス

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