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web3拡大のために必要な決済領域を考える

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

暗号資産関連のニュースを追う中で「オンランプ」と「オフランプ」という言葉を目にしたことはありませんか?ネットで調べてみるとどうやら一般道から高速道路への入口をオンランプ、その出口をオフランプと言うそうです(私も知りませんでした)。暗号資産業界では似たような意味で金融市場から暗号資産市場への入口すなわち法定通貨から暗号資産への交換をオンランプ、その出口すなわち暗号資産から法定通貨への交換をオフランプと呼んでいます。

オンランプ・オフランプと聞き馴染みのない用語を使っていますが、要するに暗号資産決済のことです。暗号資産というと投資対象としての売買が中心となっていますが、今後web3の世界が拡大するためには一般経済の様々な決済シーンで法定通貨と暗号資産の交換が重要になります。今回はそのような暗号資産決済について個人と法人で分けて考えていきたいと思います。


なぜ暗号資産のオンランプ・オフランプが重要なのか?

先ほど暗号資産のオンランプ・オフランプは金融市場と暗号資産市場の入口・出口であると説明しました。このことを単に法定通貨と暗号資産の交換と言い換えてしまうと議論の本質が見えてきません。日常の決済シーンでは当たり前になっているために気づきませんが、実は私たちは普段から様々な形でオンランプ・オフランプの有り難みに触れています。

誰でもイメージしやすい海外旅行を例に見ていきましょう。日本で暮らす限りは日本円を持っていれば支払いに困ることはありませんが、海外では当然ながら日本円で食費や宿泊費などを支払うことはできません。そこで多くの場合は、空港やATMで日本円を現地通貨に交換したり、現地でクレジットカード決済を利用することになります。これは日本円で料金を支払いたい人と、例えば米ドルで料金を受け取りたい人で決済の障壁が存在するためです。この障壁を取り除くために裏側では金融機関や決済業者が日本円と外貨を交換するサービスを提供しています。

このような日本経済圏と外国経済圏を繋ぐ決済インフラがあるからこそ、私たちは海外旅行に行くことができます。さらには日本企業が海外企業と取引したり、日本企業の人が海外で働いたり、逆に海外企業の人が日本で働いたり、異なる経済圏同士でお金のやりとりだけでなくヒトも行き来することが可能になります。

一方、法定通貨が流通する金融市場と暗号資産が流通するweb3の世界では、これらを仲介する決済インフラが整備されていないために大きな隔たりが存在します。今では暗号資産取引所を通じた法定通貨と暗号資産の交換が大半で、ビットコインの残高有りアドレス数で見たweb3人口も世界全体で約5000万アドレス(世界人口の1%未満)にとどまっています(Glassnode参照)。

国際間の成り立ちを見てもわかるように、今後web3の世界を拡大するためには、取引所以外の部分で暗号資産決済が使える環境を整備し、法定通貨の経済圏と暗号資産の経済圏が重なる領域を増やすことが重要になります。

一般経済で暗号資産決済が必要になる様々なシーン

では実際にどのような場面で暗号資産決済が必要になるのか、個人と法人で分けて考えていきましょう。

Consumerにおける暗号資産決済

個人でまず思い浮かぶのは何か買い物する時など日常的な決済シーンです。海外では既にPaypalやShopifyなどが暗号資産決済を導入し、ECサイトを中心に一部では暗号資産での支払いが受け入れられつつあります。日本でも税金の問題を除けばビックカメラなど一部の店舗でビットコイン決済が導入された事例があります。これらの小売決済では、消費者は暗号資産で支払いますが、決済サービスによって店舗側には法定通貨でお金が入る仕組みになっています。

これから増えることが予想されるのが暗号資産による給与支払いです。2022年には米国のニューヨーク市長がビットコインでの給与受け取りを表明したことが話題になり、NBAやNFL、MLBといった米国のスポーツリーグでも一部のチームが選手向けに暗号資産での給与支払いを導入しています。また、web3ネイティブな企業で働く従業員は給与の一部を自社トークンやステーブルコインでもらうケースが多くなっています。

このようにweb3に携わる人の中には給与の一部を暗号資産で受け取りたい人がいます。しかし、一般企業は従来通り法定通貨で給与支払いを管理しているため、web3人材と一般企業で雇用関係が生まれづらい状況となっています。

この課題を解決するべく、グローバル労務管理プラットフォームを提供するユニコーン企業deel.では暗号資産を含む100以上の通貨をサポートした給与支払いサービスを提供しています。国際化が進む現代の労働市場においては国ごとに対応した人材管理や給与支払いが求められており、今やweb3の世界もその例外ではありません。将来的には多くの企業が米ドルなどと同様に暗号資産での給与支払いを導入し、web3人材にとっても働きやすい環境ができるかもしれません。

Businessにおける暗号資産決済

法人では貿易取引が最も大きい領域となっており、暗号資産による直接的な支払いではありませんが、決済の基盤技術としてブロックチェーンの活用が注目されています。貿易取引では国を跨いで多くの取引参加者と複雑な書類のやりとりが絡むため、そのプロセスをブロックチェーン上で管理し、デジタル通貨によって支払いまでを効率化しようという実証実験が国内外の金融機関を中心に行われています。

このような一般企業同士で既存の決済インフラを暗号資産の技術によって改善する取り組みはありますが、一般企業とweb3企業の個別取引を促すような動きはあまり起きていません。これは、web3企業は取引の請求書を暗号資産で支払いたい一方で、一般企業はそもそも暗号資産の管理態勢が整っておらず法定通貨で売上代金を受け取りたいという、決済ニーズの不一致があるためです。ここでも暗号資産と法定通貨の交換が必要になります。

この問題に対処したweb3対応の請求書システムをRequest Financeという会社が提供しています。企業は請求書の作成から管理、支払いまでをプラットフォーム上で行うことができ、支払いオプションとして暗号資産と法定通貨の両方に対応しています。これにより相手がweb3企業でも一般企業でもシームレスに取引することができます。いずれは日本でもマネーフォワードやfreeeなど既存の請求書システムが暗号資産に対応することで対web3企業との取引が増えていくのかもしれません。

決済インフラとしてのVASPの重要性

web3の世界を拡大するために様々な決済シーンで暗号資産のオンランプ・オフランプが必要になることは伝わったかと思います。最後に、その機能を提供する暗号資産関連サービス提供者(Virtual Asset Service Provider:VASP)の重要性について触れます。VASPの範囲は国によって多少異なりますが、日本では暗号資産と法定通貨の交換を提供する暗号資産取引所と同義と捉えて問題ありません。

前回「暗号資産取引所の機能はEmbedded Finance化する」と題して取引所の決済機能が様々なサービスに組み込まれるという話をしましたが、今回の内容を受けて取引所のオープンAPI化がいかにweb3の発展をもたらすかが理解できたのではないでしょうか。これまで紹介してきた小売決済、給与支払い、貿易決済、請求書支払い、いずれの場面でも裏側で暗号資産決済を提供できるのはライセンスを所有する取引所だけです。

暗号資産取引所は、投資目的で暗号資産を売買する取引所としての役割にとどまらず、web3における決済インフラとして発展する可能性を秘めています。今はまだ暗号資産で支払い・受け取りしたい人と法定通貨で支払い・受け取りしたい人で大きな壁がありますが、取引所が双方の橋渡しになることで暗号資産市場と金融市場の融合が進み、お金もヒトもweb3の世界に流れやすくなるでしょう。

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