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INOとクラウドファンディングは何が違うのか?NFTを活用した資金調達

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

最近、私たちのクライアントからよく寄せられる質問に、「INO(Initial NFT Offering)」と「クラウドファンディング」の違いがあります。

2021年以降、デジタルコンテンツをNFTとして販売・配布する動きが急増しています。この動きの中で、スタートアップやクリエイターたちは新しい資金調達手段としてINOに目を向けています。

INOとは、プロジェクトや製品開発のためにNFTを発行し、その販売によって資金を集める仕組みです。この手法は、インターネットを通じて広く支援者を募るクラウドファンディングに似ていますが、例えば永続的なデジタル所有権を保証するなど、NFTならではの独自の利点を提供します。

以下で、この二つの手法の主な違いを詳しく見ていきましょう。

※ INOがよく比較されるのは、クラウドファンディングの中でも寄付型や購入型といった非金銭的報酬が発生するタイプのものです。投資目的で金銭的報酬が発生するエクイティ型もありますが、これはICO(nitial Coin Offering)やIEO(Initial Exchange Offering)の方が近い性質を持つため、ここではスコープから外します。

INOとクラウドファンディングの基本構造

INOとクラウドファンディングでは、プロジェクトオーナーが資金を集めるために実施する点で目的が一致しています。そのため、プロジェクトや製品の魅力をユーザーに伝えることや、ユーザーにとって魅力的なリワードを用意することなどが重要になります。

また、実施のプロセスについても、基本的には以下の流れで同じになっています。

・プラットフォームの選定
・プロジェクトの提案および実施方法の選択
・審査
・公募

ただし、審査のポイントについては若干の違いがあります。INOの場合、プラットフォームが提供するのはNFTを販売するための技術的、法的、マーケティング的なサポートがメインです。もちろんプロジェクトの信頼性についても評価しますが、その際には支援者のメリットよりも賭博該当性や暗号資産該当性などリーガルチェックが重視されます。一方、クラウドファンディングでは、プラットフォームがプロジェクトの社会貢献性や実現可能性、リワードの魅力などをきちんと精査し、支援者ファーストの審査が行われます。

INOではNFTを単独で販売することもできます。しかし、既存のユーザーやコミュニティを確保できている場合を除いて十分な資金を集めることは難しく、新規プロジェクトでは暗号資産取引所やNFTローンチパッドを利用することが一般的です。INOの実施にあたってはウォレットをどう用意してユーザーに訴求するかという特有の問題がありますが、基本的にはプラットフォーム側でNFTの管理から送信までの機能を揃えています。

INOとクラウドファンディングで最も異なるのはプロジェクトと支援者との関係です。INOでは、支援者がデジタルコンテンツのリワードを即時で受け取ることができます。プロジェクトの進行中も特別なコンテンツやイベントなどNFT保有者だけの特典を通じて多様な形でプロジェクトに関わることができます。一方、クラウドファンディングの場合、支援者が具体的なモノやサービスを受け取るまでには時間がかかり、それまでの期間はプロジェクトの進捗アップデートの連絡を受動的に眺めることしかできません。

プロジェクトとプラットフォームの取引についても同様のことが言えます。クラウドファンディングでは募集終了から資金の集計、手数料の差し引き、そして資金の振り込みまで1〜2ヶ月かかり、プロジェクトが集めたお金を使えるまでには大きな時差があります。一方、INOでは支援金がイーサリアムなど暗号資産ですぐにウォレットへ振り込まれるため、日本円への交換は必要ですが、プロジェクトに資金が届くまでが比較的早いです。

これらの構造的な違いは、NFTのデジタル資産としての性質や、それを管理するブロックチェーンの共通台帳としての特徴によって生まれています。

INO独自の機能とNFTがもたらす新たな体験

さて、次に、INO(NFT)の特別な機能について詳しく解説します。NFTを資金調達の手段として活用することにより、プロジェクトと支援者双方にどのような新しい体験が提供されるのでしょうか?

現状、クラウドファンディングでもプロジェクトがアクセス権限を抑制する形でデジタルコンテンツをリワードとして付与することはありますが、そのデータ自体は複製可能で所有権が保証されていません。しかし、NFTを活用することでデジタルアートやデジタルグッズ、音楽、動画などのデータを固有のものとして取り扱うことができます。NFTは改ざん不可能なブロックチェーン上でユニークなIDと所有者情報を持ち、個々のデジタルコンテンツと紐づけることで誰でもその真贋性を検証することができます。

これにより、支援者はリワードとして手にするNFTの所有権を主張することができ、それを通じてプロジェクトとの関わりを感じることができます。支援者にとって、限定で付与されるNFTはコレクションアイテムとしての価値を持ち、その貢献度に応じてグレードアップするNFTはステータスとしての役割を果たすことがあります。これらのNFTを透明性を持って二次流通できることも資産性を高めています。

さらにプロジェクトは、リワードとしてNFTを付与するだけではなく、NFT保有者限定の特別な体験を用意することで支援者と継続的にコミュニケーションを取ることができます。限定のコンテンツやイベント、交流の場などをNFTを通じて提供することにより、支援者コミュニティ内でのエンゲージメントを深めることが可能です。プロジェクトと支援者の間で、クラウドファンディングでは一方向かつ一時的な関係だったものが、NFTによって双方向かつ持続的な関係を築くことができます。

例えば、最近よく見かける会員制レストランのプロジェクトの場合を考えてみましょう。

支援者にはグレード別の会員権を付与し、会員グレードに応じてレストランの優先予約や無償サービスなどの特典を用意するというのが考えられます。ここまでは従来のクラウドファンディングと同じです。しかし、NFT会員権では、大きな金額を支援してくれたロイヤリティ顧客をブロックチェーン上で管理し、その透明性と信頼性を活用することで個々の顧客に最適化されたサービスを提供することが可能になります。

一方、ロイヤリティ顧客は自分のNFT会員権を市場で第三者に譲渡することもできます。レストランが新規店や系列店、コラボ企画などでの新しいユーティリティを提供し続ければ、NFT会員権を保有している間にその価値が高まる可能性を享受できます。これにより、NFT会員権はただの会員権を超えて資産価値を持つようになるでしょう。

このようにNFTはデジタルコンテンツの所有権を確固たるものとし、プロジェクトと支援者双方に新たな価値を提供するための強力なツールとなりえます。

ただし、現在NFTに関する明確な規制が存在しないため、NFTが表現する内容によっては知的財産権や消費者保護など、異なる法的枠組みが適用される場合があります。このため、INOやNFTを活用したクラウドファンディングを行う際には、JCBAのガイドライン等を参照し、プロジェクトごとに法規制のリスクを個別に検討することが必要です。

INOとクラウドファンディング×NFTの事例

INOと、NFTを活用したクラウドファンディングの事例を紹介します。

San FranTokyo VISIONS

2024年3月、Web3アニメスタジオのSan FranTokyo がNFTマーケットプレイスMagicEdenでNFTコレクション「Visions」を販売しました。今後、保有者はコレクションの希少性に応じてスタジオのコンテンツや製品などへの限定アクセスが付与されるそうです。

今回、8000個のNFTが0.12ETHで販売され、全て完売しました。販売金額は960ETH(現在価格で約4.6億円)でINOの事例の中では大きな金額となっています。San FranTokyoはWeeboxというデジタルコンテンツストアを世界中のアニメファンに向けて提供しており、最近では攻殻機動隊とのコラボも話題となりました。

De:Lithe Last Memories

2024年2月、人気スマホゲーム「De:Lithe〜忘却の真王と盟約の天使〜」の続編として注目を集めるブロックチェーンゲーム「De:Lithe Last Memories」がコインチェックのNFTマーケットプレイスでゲーム内で使用可能なキャラクター「ドールNFT」の限定販売を行いました。今回のNFTは希少性が高く、購入者は今後ゲーム内での様々な特典が保証されているとのことです。

NFTの販売数は108個(全45,334個のうち)、価格は5万円相当のETHで、販売総額は約540万円と小規模でした。プロジェクトとしては資金調達というよりも初期のロイヤリティユーザーを囲い込む目的で実施したという意図が読み取れます。

千葉県匝瑳市デジタル住民票

2024年3月、千葉県匝瑳市がデジタル住民票NFTをHEXAのNFTマーケットプレイスを利用して販売しました。購入者は千葉県匝瑳市のデジタル住民になることができ、市長の参加するオンラインコミュティへの参加や、匝瑳市内での様々な特典が得られるとのことです。

NFTの販売数は1,000個、価格は1,000円で、販売総額は100万円と本件も実験的な規模でした。NFTは地域における関係人口を増やすための手段としても注目されており、最近ではふるさと納税でNFTを活用する例も増えています。千葉県匝瑳市のINOもその一環で行われたものでしょう。

CryptoAnime Labs

2022年11月、NFTコレクション「CryptoNinja」のアニメ制作委員会として立ち上がったCryptoAnime Labsが、パスポートNFTと手裏剣NFTの販売を通じて累計3,800万円を資金調達しました。パスポートNFTはラボメンバーの証明として譲渡できないNFTが採用されました。一方、手裏剣NFTはラボへの貢献度の証明として発行され、より多くの手裏剣NFTをステーキングすることでパスポートNFTのランクと得られる特典が変化するように設計されていました。

NFTの販売数は不明ですが、公式ホームページにあるパスポートNFTのプライベートセールリストの数は約8,700となっています。価格はパスポートNFTが0.02ETH、手裏剣NFTが0.008ETH。もとよりCryptoNinjaのNFTコレクターがファンとして存在していたこともあり、CryptoAnime Labsは2023年10月にアニメ「クリプトニンジャ咲耶」の放送開始を実現しました。NFTを活用したクラウドファンディングでは数少ない成功事例と言えるでしょう。

MikoSea

NFT活用に特化したクラウドファンディングプラットフォームも登場しています。MikoSeaは、これまで福岡県糸島市のワイナリープロジェクトやオートレースチームの応援プロジェクト、デジタル図書館プロジェクト、能登半島地震寄付プロジェクトなど複数の案件を実施しています。いずれも目標金額が数百万円以下と小規模ですが、目標達成の件数も少なくありません。

NFTを活用した資金調達の事例を見ると、世界的にもその数が少なく、大半のプロジェクトが比較的小規模な資金調達にとどまっています。一方で、San FranTokyoやCryptoAnime Labsのようにアニメ・IP系で既存のコミュニティを持つプロジェクトが大きな金額を集めるケースもあります。

このようにINOはまだ発展途上の資金調達手法ですが、将来的にはデジタルコンテンツ分野での利用が増える可能性があります。特に、クラウドファンディングを用いてプロジェクト支援を募る際には、NFTを使って初期のロイヤリティ顧客との関係を築く効果的な手段として活用できるでしょう。

ただし、適切なNFTの販売・配布方法はプロジェクトによって異なります。NFTを活用したプロジェクトの企画を検討中の方は、Decentierまでご相談ください。最適な戦略を一緒に考えるパートナーとして弊社がサポートいたします。

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