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【麻薬組織とギャング】ビジネスモデルの違いは「お客様」を見れば分かる

先週、ある麻薬組織が支配している町に行ってきた。
中米某国を拠点とする、「ロス・○○○」という通り名を持つ麻薬組織だ。
巷の話では、最近勢力を強めていて、若者がどんどん加入している急成長中の組織とのことだ。
某国ジャングルの中で覚醒剤を作り、麻薬を栽培し、自前で製品にしてメキシコ経由でアメリカに密売しているらしい。

そのナルコ-アメリカ大陸の人たちは、麻薬組織のことを「ナルコ」(narco)と呼ぶことが多い-その幹部が多く住んでいる町は、基本的にナルコが支配しているのだ。
もちろん、町の役場もあるし町長さんもいる。
しかし、一番偉いのはナルコだ。

警察はどうか?
たいていの町には警察もいる。
しかし、ナルコが法律であり正義だ。

その町の友人に、最近起きた出来事を教えてもらった。
数か月前、隣の国からギャング集団が流入してきたらしい。
そして、その町でもお決まりのやり方を採った。
全身タトゥーだらけの男たちが家や商店を回って、銃を突きつけ金を要求して歩き始めたのだ。

だが、彼らはそこがナルコの町とは知らなかった・・・
町に侵入してからわずか2日後、そこから出ざるをえなくなった。

ナルコの紳士たちは、いかついピックアップトラックに乗り込み、手には突撃銃やマシンガンを持って、ギャングたちを取り込んだのだ。
ギャングは数人、ナルコは数十人。ギャングはナイフとピストル、ナルコはマシンガン。一瞬で戦意喪失させる。
首根っこをつまんで、警察署に連れて行く。

そして、警官に、「お前たちがこいつらを町の外に追い出すか、
俺たちが『処理』するか、どっちかを選べ。」と選択を迫る。
警察は無表情、無言でギャングを受け取り、町の外へと警察のピックアップの後ろに載せて連れ去っていった。

この出来事から分かるように、麻薬組織というのは大抵、ギャングを嫌っている。
「俺たちは、ギャングとは違う。」という、強いポリシーがあるのだ。

ギャングというのは、誘拐や暴力で住民を脅して金を巻き上げるというビジネスをしているお方たちだ。
よくある手口は、店や個人宅に携帯電話を投げ込んで、そこに電話をかける。
店や家の人が電話に出ると、「○千円の金を明日までに用意しろ。払わないと殺す。」と言って脅す。
もしくは、子どもを誘拐して身代金を請求する。
たいていは、ボクら日本人から見れば貧しい、一般住民が被害者となる。

企業向けビジネスの場合で多いのは、バス会社への脅迫だ。
路線バスに銃弾を撃ち込んだりして脅してから、「金を払え。」と高額の金を要求する。
無視すると、乗客を装ってバスに乗ってから運転手や車掌を撃ち殺す。
ひどい時には、バスに手りゅう弾を投げ込む。
ちなみに、金の支払いは銀行口座への振り込みがほとんどである。
なので、脅迫と同時に口座番号を教えてくれる。
警察も銀行も、こういう恐喝用の口座というのは知っているはずだが、堂々と同じ口座を使い続けているのだ。
そして、脅された会社は毎月の経費よろしく、律儀に月々の支払いを振り込んでいる。

一方の麻薬組織は、麻薬つまりマリファナや覚醒剤を作って、密輸して売りさばくのがビジネスだ。
麻薬組織は、なんと言うか、「ちゃんとした産業」になっている。

コカインにしてもマリファナにしても、草を栽培して収穫するところから始める必要がある。
なので、ナルコは「契約農家」を持っているのだ。
たいていは山の中の村に、コカの葉や大麻草の広大な畑があって、地元住民がトウモロコシや小豆を育てるのと同じ感覚で栽培している。
そして、ナルコはそれなりの金を払って収穫した葉っぱを買い取る。
場合によっては、農家が乾燥や圧縮などの工程までしてくれる。

ちなみに、「契約農家」になったり、運搬ルートになったりするのを拒否すると、その村では集団で人がいなくなる。
なので、時々メキシコでは、田舎で数百人の遺体が土の中から発見されるのである。

農家から上がってくる葉っぱは、別の業者によって、加工されたりパケット詰めされたりして運びやすくする。
そして、トラックや普通の自動車、船で、いくつかのルートを使って運ばれる。
ちなみに、主要産地から運搬ターミナルまでは小型セスナで運ばれることが多い。
なので、ボクが行った町にも、小さいながらもきちんと舗装された滑走路があった。
観光地もなにもない田舎に、いきなり滑走路があってビックリするが、これは「ソレ用」なのである。
当然、地図には載っていないし、民間機が来ることもない。

南米や中米で作られたドラッグは、メキシコを経由して、最終目的地のアメリカに入る。
地下トンネル、小型セスナ、船、自動車、不法入国者、時には潜水艦などによって、毎日ガンガン密輸される。
消費者のほとんどはアメリカ人、お金を持っている人たちである。

このように、同じ悪人業界だが、ギャングと麻薬組織とはかなり違う。
商材、経済規模、「お客様」、まさにビジネスモデルそのものが違うのである。

ギャングは、従業員は少人数でもいける。
暴力をふるって脅迫する担当者がいれば十分だからだ。
しかし、麻薬組織に関わる人の数は膨大である。
栽培農家、加工業者、運搬者、売人、役人を引き込む渉外担当、トラブル担当の殺し屋、組織をまとめる幹部など、少なくても数百人、多い組織は全部で万を超える関係者がいることになる。

経済規模もかなりの差がある。
ギャングの収入は、一般住民では1件あたり数千円が限界だ。企業相手でも数十万から、大都市でも数百万くらい。
全体でも年間数千万から億を稼げれば、立派なギャング組織と言えるだろう。
一方のナルコは、軽く数十億から大きい組織だと数百億を稼ぐ。
超巨大組織だと、小さな国の国家予算くらいの稼ぎがあるという噂もよく聞く。

この差が出る理由ははっきりしている。
ギャングは地元で単発の仕事をして稼ぐことがメインだ。
しかも、「お客様」はそれほどお金を持っていない人たちだし、リピーターにもなってくれない。
しかし、ナルコは世界中の消費者を相手にする、どんな有名企業にも負けないスーパーグローバル組織なのだ。
顧客は貧しい人も、超大金持ちも含まれる。しかも、みんなリピーターになってくれる。

そして、なによりギャングと麻薬組織の人たちの思考パターンは大きく違うのだ。
ギャングはとにかく悪いヤツという感じで、地元でも怖がられ避けられる存在となる。
自分たちも、そのことをよく分かっているし、別にどうも思わない。
住民を暴力と恐怖で搾取する、悪の象徴になっているわけだ。

しかし、ナルコは地元を大事にする。
稼いだ金をバンバン使うので、ナルコが支配する町は比較的裕福だ。
自分たちのルールに従う限り、という条件は付くが、概してナルコのメンバーは地元住民に危害を加えることはない。
そして、自分が住んでいる町で平穏に暮らしたいと思っているので、泥棒もギャングも町にいてほしくない。
そういうヤツが出没すると、一瞬で消される。そして、平和になるのだ。

ナルコは自分たちが「尊敬される」町の支配者になりたいと思っているのかもしれない。
それは、たとえ政府や警察がいてもである。
金と武力、人員では、どうあがいても、田舎の行政府も警察も麻薬組織には敵わない。
そのため、一応役場も警察もあるが、実質的な支配者は麻薬組織になっているのだ。
こうして、基盤をしっかりと持ち、麻薬を作り、運び、売るというビジネスを安定して続けられるようにしているのがナルコビジネスのすごいところなのである。

つまり、ギャングと麻薬組織のビジネスモデルの違いをまとめるとこうなる。

悪人の世界にも、こうした違いがあるのである。
実に興味深く、そして恐ろしい世界であることを分かっていただけただろうか。


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