アクターネットワーク理論によるChatGPTの分析
ChatGPTのようなジェネーレーティヴAIが身近になって、AIに代表されるようなマン・マシンインターフェーズが、まるで対人関係と同じような感じになってきて、そこに新しいコミュニケーションの方法論なども生まれてきている。
たとえば、AIに効率良く仕事をさせるために効果と効率のいいプロンプトを設計する「プロンプトエンジニア」といった仕事も生まれつつある。AIがバックボーンとする大規模言語モデルのデータセットやコーパスを理解していて、AIのアルゴリズムの「クセ」などを勘案してコミュケーションを図る仕事だが、これは臨床心理を背景にコミュニケーションの円滑化を図る心理学者のような要素が強い。
そこには、今までのようなマン・マシンの関係を超えた、新しい形のコミュニケーション技術やセンスが必要になっているという現実が映し出されている。
1980年代後半から90年代に、アクターネットワーク理論(Actor-Network Theory、ANT)がフランスの哲学者・社会学者ブルノ・ラトゥール(Bruno Latour)によって提唱されはじめたが、今の状況は、まさにこのANT理論が実践的に必要になってきているといえる。
ANTとは、社会や技術的な現象を分析する際に、人間と非人間(物体、技術、アイデア、文化など)とを分けて考えないで、すべてを「アクター」として、その相互作用するネットワークをベースとして考えるネットワーク理論で、以下の主要な考え方に基づいている。
対称性の原則:ANTでは、人間と非人間のアクターを区別せず、同様のネットワークの構成要素として扱う。これにより、技術や物体が社会に与える影響や、社会構造の形成における役割が明確になる。
ネットワークの構築:アクターネットワーク理論は、ネットワークがどのように構築され、維持され、変容するかを分析することに焦点を当てる。このプロセスでは、アクター間の交渉や連携、競争、対立などが重要な役割を果たす。
翻訳(Translation):ANTでは、アクターが他のアクターに影響を与え、自分の目的や利益に沿って行動を調整させるプロセスを「翻訳」と呼ぶ。翻訳はネットワークの形成と変容に不可欠な要素であり、アクターが互いに影響し合いながら、共通の目標に向かって協力することが可能になる。
ブラックボックス:ANTでは、技術や知識が安定した状態に達すると、ブラックボックスと呼ばれる状態になると考えられている。ブラックボックスは、その内部の複雑なプロセスや交渉が見えなくなり、疑問や議論の対象から外れた状態を指す。ANTの研究者は、このブラックボックスを開くことによって、技術や知識の構築過程におけるアクター間の相互作用や交渉を明らかにしようとする。
局所性と広がり:ANTは、ネットワークが局所的なコンテキストにおいて形成され、維持されることを強調する。ただし、ネットワークは時間や空間を超えて広がり、他のアクターやネットワークと相互作用することで、より大きな社会的影響を及ぼすことがある。
こうしたANTの方法論は、科学技術の発展やイノベーション、環境問題、組織や政策の研究など、様々な領域に適用され、人間と非人間のアクターがどのように相互作用し、協力や対立を通じて社会的な変化を引き起こすのかを理解することが目指されている。
一方で、この理論が主観的で、アクターが必ずしも対等な力関係にあるわけではなく、権力の不均衡が重要な要素であることを無視しているといった批判もある。しかし、ANTは、社会現象の分析において、従来の方法論では見落とされがちな視点を提供し、新たな知見を生み出すことができるという点で、多くの研究者に支持されている。
■ANTでChatGPTを分析すると■
たとえば、ANTの手法でChatGPTを分析してみよう。
まず、分析するにあたって、以下の要素がポイントとなる。
人間と非人間アクターの相互作用:ChatGPTのネットワークには、人間のアクター(開発者、ユーザー、研究者など)と非人間アクター(ChatGPT自体、アルゴリズム、データセット、インフラストラクチャなど)が存在する。ANTを用いて、これらのアクターがどのように相互作用し、ネットワークを構築しているか。
翻訳プロセス:ChatGPTの開発や普及に関わるさまざまなアクターが、自分たちの目的や利益に沿って他のアクターに影響を与えるプロセスはどのようなものか。これには、技術開発の方向性、市場への導入、規制やポリシーの形成などが含まれる。
ブラックボックスの開放:ChatGPTのアルゴリズムやデータセットがどのように構築され、最終的な性能や機能に影響を与えているかを明らかにするために、ブラックボックスを開放し、内部のプロセスや交渉に焦点を当てる。
局所性と広がり:ChatGPTのネットワークが特定のコンテキストで形成され、維持されることを考慮し、ネットワークがどのようにして時間や空間を超えて広がり、他のアクターやネットワークと相互作用するのか。
社会的影響:ChatGPTがもたらす社会的影響を分析し、その影響がどのようにアクター間の相互作用やネットワークの構築に関与しているか。これには、倫理的な問題、プライバシー、バイアス、労働市場への影響、情報の拡散などが含まれる。
この中では、アルゴリズムやデータセットなどのブラックボックスの開示がボトルネックになることが予想できる。そこにAIを巡る危機感という最大の問題があるわけだが、開発の透明性や明確なガイドラインの策定とその強力な拘束力をどう実現するかが大きな課題となる。この問題は、また別途検討する必要がある。
では、現状におけるChatGPTの社会的影響についてANTの分析ではどうなるか。
コミュニケーションの変化:ChatGPTは、人間とAIの対話を促進し、新たなコミュニケーションの形態を生み出している。これは、個人や企業が情報収集や問い合わせ、エンターテイメントなどにおいてAIとの対話を利用することで、効率や便益を享受することができる一方で、人間同士のコミュニケーションや関係性にも影響を与える可能性がある。
バイアスと倫理的問題:ChatGPTは、学習データに含まれるバイアスや偏見を引き継いでしまうことがある。これは、AIが不正確な情報や差別的な表現を生成することにつながり、特定の集団に対するステレオタイプや偏見を助長する恐れがある。この問題に対処するために、AIの倫理や透明性、公平性に関する研究や開発が重要になっている。
労働市場への影響:ChatGPTは、カスタマーサポートやライティング、翻訳などの分野で効率化や自動化を促進し、労働市場に変化をもたらしている。一部の職種や業務はAIに取って代わられる恐れがあるが、同時に新たな機会やスキルが求められる職種も登場している。労働者の再教育や職業訓練が、AI時代に適応するために重要な要素となっている。
情報の拡散と偽情報:ChatGPTを利用した情報生成が増えることで、偽情報やプロパガンダの拡散が容易になる可能性がある。この問題に対処するために、メディアリテラシーや情報の検証技術の向上が求められている。
以上のように、現状、ChatGPTがもたらすポジティブな効果と潜在的なリスクが浮き彫りになったが、とくに潜在的なリスクを解消するために、以下のような対策や規制が考えられる。
倫理的AIの開発と運用:AI開発者や研究者は、バイアスや差別を軽減する技術や手法を研究し、より公平で透明性の高いAIシステムの構築に取り組む必要がある。また、AI開発のプロセスに関わるさまざまなアクター(開発者、ユーザー、規制者など)が、倫理的な問題に関する対話や協議を通じて、共通の基準やガイドラインを策定することが重要である。
教育と職業訓練:AI技術の普及に伴い、労働市場への影響に対処するために、教育機関や政府は、職業訓練や再教育プログラムを実施し、労働者がAI時代に適応できるようなスキルを習得できるよう支援することが求められる。
メディアリテラシーの向上:偽情報やプロパガンダの拡散を防ぐために、メディアリテラシー教育がますます重要になる。一般市民が情報の信憑性を判断する能力を高めることで、社会全体がより健全な情報環境を維持することができる。
規制とポリシーの検討:政府や規制機関は、AI技術に関する法的・倫理的問題に対処するための規制やポリシーを検討し、実施する必要がある。これには、プライバシー保護、知的財産権、倫理的なAIの使用に関するガイドラインなどが含まれる。
さて、以上のような論文をまとめるのに私は、ChatGPT(GPT4)を使ったのだが、対話のアウトカムを得て、それをここまでまとめるのに1時間あまりしかかかっていない。
じつをいえば、ANTという理論を知ったのもこの対話を通しててであり、まっさらの状態から理解していった。それにはbingやbardそれにGoogleでの一般的な検索も行った。
というと、いかにも俄仕込みの話をまとめたようだが、それは私が今まで学んできた哲学や社会学や先端技術の知識などの延長線上にあったもので、自分でそれらを統合して、なにがしかの理論を築くことを考えたら、ANTという方法論が、自分が求めてきた方法論に近いもので、これを援用したほうが、とても効率よく、今まで自分が蓄積した知識を活かせることがわかり、展望が開けた。
GPTは、研究者はもちろん、何か具体的な問題意識をもっている者にとっては、理想的なガイド役になってくれることを実感した。
ちなみに、イメージカットは、ChatGPTに画像イメージのプロンプトを英訳させて"bing image creator"で制作した。
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