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ディーナ・ウゴルスカヤの「平均律」

私は、先日、バッハの作曲した音楽が好きであり、その音楽を紹介する記事を書こうと思うと述べた。

私は、その記事をどういう内容で書こうか、数日考えた。読者をクラシック音楽に馴染みの無い人と想定して、バッハの人となりや各曲の成立の成り立ち、作曲技法などを順番に紹介することも考えた。

しかし、バッハほどの著名な作曲家の音楽についての情報は、Webを検索すればすぐに見つかる。私は、一介の音楽の愛好家でしかない。専門的なことはその道の専門家に譲り、私は私の好みの作品のどこをどのようにして気に入っているか。その作品のお勧めの演奏はどれかを、私の思うままに語ることにしようと思う。

今回、私の紹介する作品は、「平均律クラヴィーア曲集」である。「平均律」とも略されて呼ばれるこの作品は、ピアノを勉強する方々にとっては避けては通れない作品だろう。私は、ピアノを学んだ経験は無い。そのため、この曲集の良さを理解したのは、つい最近のことである。私が交響曲など様々なオーケストラ作品を楽しんで聴いていた時期には、「『平均律』は似たような曲が延々と続く単調な作品だな……」と思っていた。

そんな私にも、ある時期にこの作品の良さを分かる日がやってきた。この「分かる」感じは、バッハに限らず、音楽に限らず、様々な芸術作品を鑑賞する上で、全ての人にとって、どこかのタイミングで何らかの形をとって、やってくるものだと思う。

私にとって、バッハ作品の良さを「分かる」最初のきっかけをくれたのは、「ゴルトベルク変奏曲」であった。私は、この作品を通して、「対位法」という作曲形式の音楽の素晴らしさを知った。次に「フーガの技法」を聴いて、「フーガ」という作曲形式の楽しさと奥深さを知った。そして、私は「平均律」にたどり着く。

「平均律クラヴィーア曲集」は、24の調性のプレリュードとフーガで成る、2巻の作品集である。プレリュードは、日本語では「前奏曲」と略される。対位法で書かれた自由な旋律の組合せによる華やかな曲である。それに続く「フーガ」は、一つの主題の旋律を、後続の声部が繰り返し模倣する、対位法の音楽の複雑さと華やかさと奥深さを感じられる素晴らしい作曲形式に基づく曲である。

こう書いても、恐らくバッハ作品を聴いたことの無い人にとっては、何のことか全く分からないと思う。作曲形式の話は、バッハの音楽作品を特徴づける大事な側面ではある。しかし、鑑賞者にとっては、それは実際に音楽を聴く中で感覚的に理解するものかも知れない。演奏者にとっては、また別の理解の仕方をすると思うけれども。

私は、Apple Musicのサブスクリプションを利用して、クラシック音楽を鑑賞している。限られた数の音源ではあるけれども、私にとっては十分な作品を楽しめるサービスである。私の一推しの「平均律クラヴィーア曲集」は、表題にも書いた、「ディーナ・ウゴルスカヤ」による演奏である。他の音楽のサブスクリプションサービスを利用している方は、「Dina Ugorskaja」で検索して探して欲しい。

ウゴルスカヤは、ソ連時代のレニングラードで生まれて、ドイツに移住しピアニストとして活躍した。大変悲しいことに2019年に46才の若さでガンで無くなった方である。この方の「平均律」は、過度な装飾の少ない端正な演奏でありながら、ロマンチックな表現を感じられる、新しい「平均律」だと私は思う。ウゴルスカヤが亡くなる前に、「平均律」の録音を残してくれて、私は本当に幸せだと思う。



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