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自分の小説世界を広げるために イタリア篇

日本に暮らして日本の小説を読んでいると どうしても日本の小説世界が枠として意識されがちになると思います。
日本では 「この小説変わってるー」と思われても、
世界中の読み手には「どこかで読んだ技法や表現だな」と思われているかもしれません。
日本生まれの日本育ちで日本にしかルーツがない作家だから狭いということにならないように 海外に旅行や移住などをできればいいのですが、諸事情でできない人もいますよね。上村もそうですが、海外の小説を読むことでなんとか埋めようと思っています。

今回はイタリア文学です。

古くはダンテ・アリギエリの「神曲」がトスカナ語で書かれて、脱ラテン語、つまりルネサンスの先駆と言われました。ボッカッチョは「デカメロン」つまり10日物語で、フィレンツェの郊外にペストから避難した10人がひとり一話を語るという、チョーサーが「カンタベリー物語」で模倣した作品を作りました。19世紀にはミラノのアレッサンドロ・マンゾーニがあえてトスカーナ語で小説を書いたことで、現代のイタリア語という共通語がトスカーナ語を基盤にするという流れになったんです。その代表作が「いいなづけ」(河出文庫)で、17世紀ミラノの物語です。恋愛逃避行もので、すがすがしくて、面白い作品でした。

20世紀以降の作品を書きます。
「作者を探す六人の登場人物」。ルイジ・ピランデッロさんは世界で有名な劇作家で、ノーベル文学賞も受賞しています。この作品は不条理劇で、
舞台稽古中の舞台に作者を探す登場人物たちが話を聞いてくれとやってくるんです。座長は作者兼演出家になります。それで、みんなの話を聞いた後で、演じてみようということになって、主演男優と女優が演じるんですけど、芝居臭いので笑ってしまう登場人物たち。ある人が拳銃で自殺すると「本当に死んでる!」と皆逃げ出すんですね。そこで、「明かりを消してくれ」と座長が言うとみんなが去るというメタシアターな作品です。
            
「不在の騎士」(河出書房新社)イタロ・カルヴィーノさん、この人は幻想的な不条理世界を描く作品が多いですね。

「薔薇とハナムグリ」(光文社古典新訳文庫。15編収録されています)
アルベルト・モラヴィアさんは作家モランテ・モラヴィアさんの夫で、シュールな幻想譚を特徴としています。
日本語版はシュールレアリスムの風刺短編集54編から15編を選んだ作品です。観察者の視点で書く小説が多いので、起きていることが、いかに変な事かがよくわかるんですね。
「部屋に生えた木」部屋に木が生えてきて、伐りたい夫に対して、妻はのめり込む話。
「清麗閣」披露宴で妙な仕掛けがあるがそんなものだろうと思っていると、とんでもないことが。注文の多い料理店を想起させられます。
「薔薇とハナムグリ」表題作です。ハマムグリという薔薇を官能的に好む虫の母娘。娘はキャベツが好きという異端者でカミングアウトできない。セクシャルマイノリティがモチーフです。
「ワニ」田舎出の夫人は、初めて招待された都会の婦人の家で、夫人や女中がワニをまとうさまを見て、驚き、これが最先端で、自分も欲しいと思い出す。18世紀でしたか、フランスの宮廷では貴婦人が頭に船の模型を載せるのが流行したことがあったのを思い出しました。
「疫病」最臭兵器というアニメを想起させられました。
「月の特派員による初の地球からのリポート」この星には金持ちと貧乏人がいる。貧乏人は変わった種族で、仕事という名目で汚くうるさい工場に毎日集う、地下の鉱山で金属を掘っている。病気になっても病院にもいかず、高尚な趣味もない。ハバナ産のタバコではなく、くさいだけのタバコや水で薄めたワインを好み、服もボロボロで、汚く狭い家を好み、ヴァカンスにもいかない。彼らの言い分では金と言われる色のついた紙と丸い金属片が不足しているためとのことだ。金融なんて錬金術ですものね。

「神を見た犬」
ディーノ・ブッツァーティさんもシュールな話が多くて、上村はなんだか惹かれてしまいます。短編が多くて、「K-コロンブレ」も代表作の一つですね。

「インド夜想曲」
アントニオ・タブッキさんの作品で、好きですね。
アラン・タネールさんが映画化した「レクイエム」や「フェルナンドペソア最後の三日間」はポルトガルのぺソアさん関連の本で、「黒い天使」はポルトガルの現代史、「イザベルへ:ある曼荼羅」は死後刊行された最後のミステリーで、これもポルトガルのサラザール独裁政権下で消えた人に取材しています。

「ある家族の会話」
ナタリア・ギンズブルグさんがファシズム統治下を描いいた作品です。「マンゾーニ家の人びと」は、先ほど書いた「いいなづけ」の作者の家系について書いた本です。18世紀後半-20世紀初を書簡を通じて描いています。

「薔薇の名前」(東京創元社)
ウンベルト・エーコさんの世界的なベストセラーです。14世紀の修道士の事件で、ミステリーです。師と弟子の関係がアーサー王のマーリンを思わせるのですが、上村は上巻を読んだところで、面白いと思わなかったので、本を伏せました。

「風の丘」
カミネロ・アバーテさんの作品です。イタリア南部を舞台に、三世代を描いているので上村が好きな物語です。兵役で故郷を離れいく子がいたりと、歴史も描かれています。丘に暮らす家族なんですけど、地所を守るというのは共感できますね。

「Q」
ルーサー・ブリセットの名で書いている作家グループで、5人のユニットだそうです。この作品は宗教改革のドイツ、オランダ、イタリアを描いていて、カトリックの教条主義、プロテスタントの自由を求めるエナジーとのぶつかり合いを背景にして、ミステリー要素とアドベンチャーの組み合わされた作品です。
この作家グループは、当初の予定通り1999年の「SEPPUKU」で活動を終えています。ウー ミンという6人ユニットを作り直したそうですけど、解散しても再結成ってバンドのようですね。


これから読みたいと思っているのが、
小説ではありませんが、アントニオ・グラムシさんの「獄中からの手紙」(「グラムシ獄中ノート」)、それからアントニオ・スクラーティさんの「小説ムッソリーニ 世紀の落とし子  四部作」(2018年) ですね。反ファシズムが当然だった世代が消えて、権威主義を支持する人もいる時代に、敢えてファシストの視点から物語を書くことで反ファシズムを支えようとしています。
トマージ・ディ・ランペドゥーサさんの「山猫」(岩波文庫)も気になります。

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