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自戒を込めて。「引き寄せの法則」にハマる母

ブームというのは往々にして、若者に持て囃される→子どもやミドル世代にまで広がる→中高年にまで浸透して一般化or淘汰、という流れがあると思う。
スピリチュアル好きの中高年の間では、今は「引き寄せの法則」が流行り出しているようだ。
と言っても、「スピリチュアル好きの中高年」のサンプルは、私の母だけなのだが。

先日帰省したら、何やら部屋中に、願い事や感謝の言葉を書いた紙が張り巡らせてあって、母がやたら「◯◯しようと思ってるんだよねぇ」と願望を口にしていたのでピンと来た。
そして本棚に『「引き寄せ」の教科書』があるのを見つけ、確信に変わった。母は今「引き寄せ」にハマッている。

私も「引き寄せ本」は何冊か読んだし、このムーブメント自体を否定する気持ちは一切ないが、わが母の挙動に限ってはどうにも不快だった。

滞在中、「お母さんね、老後にはピアノの練習をして、『戦場のメリークリスマス』を弾くんだ」としきりに言っていたが、それなら今から練習しなきゃ、老後いきなり弾けるわけがない。
私と妹は子どもの頃にピアノを習っていたから、うちには電子ピアノがある。それなのに、母が今その電子ピアノを使っていないということは、すなわち「本気ではない」ことの証左ではないか。

他にも、こういう類の「有言不実行」が多すぎてうんざりした。
「暖かくなったら◯◯(地名)に行こうと思ってるんだよね~」と言うのはいいが、言うだけ言って何年も行っていないのを私は知っている。
何かこう、「こんな風に言っておけば、あわよくば誰かがお膳立てしてくれるんじゃないか」みたいな母の期待が透けて見える気がした。もしくは私に「良いじゃん、やってみなよ」と背中を押してもらいたがっているようで、言い方は悪いが、ゾッとした。
私が大人になってから(ささやかながらも)ようやく身につけた行動力に、「乗っかられている」「便乗されている」と感じたからだ。

何より、そこへ行くための下調べも準備もろくにしていないのが、心底疑問だった。
本当に行く気はあるのだろうか?「やる気がないなら、初めから口に出さないでくれ」という言葉が喉まで出かかった。

ここまで私が苛立ちを覚えたのは、母の姿に、自分に似たものを見たからであろう。
私も「そのうち◯◯しようと思ってるんだよね〜」と言うだけ言って結局やらないことが多々ある。

しかし今回、母を見ていて、「願望を誰かに告げると言うことは、告げられた相手を、叶うまで待たせてしまうことになる」と気づいた。

「前に言ってたアレ、どうなった?」と相手に結果を待たせるのは、時間の無駄をさせてしまうし、すごく失礼な行為だと思った。
口にするのが許されるのは、確実に成功する見込みのある「有言実行」、もしくは「不言実行」のみだ。

(余談だが、最近では、松田聖子の不言実行力に感動した。大学入学さえ公言せず、今春、見事卒業したそうだ。)

もちろん、何か願望を叶えるために具体的な協力を求めたい場合は、誰かにそれを明かしても良いと思う。
先程の母の「ピアノを弾きたい」という願いを例にとるなら、「何から始めるべきか」「どんな教本を買ったらいいか」などのアドバイスを求められたら、きっと私も助けになれただろう。

しかし、「あれがしたい」「これがしたい」と言うばかりで、その後何の努力も行動もしないのは、あまりに無責任なような気がする。
誰かに願い叶えてもらおうとするような、自発性のない無力な人間が願望を叶えたとて、果たしてそれは幸せと言えるのか?それで満足は得られるのか?

私も目に見えないものは信じる方だし、この世に人智を超えた力があるのは重々承知である。「引き寄せの法則」も現実にあると思っている。
しかし、行動すれば手に入るのが目に見えているものさえ、起こるともしれない「宇宙の奇跡」に丸投げするのは、絶対に違うと思うのだ。
手を伸ばせばそこに湯呑みがあってお茶が飲めるのに、じっと見ているばかりで、なんかの拍子に湯呑みが浮き上がって口にお茶が入るのを期待しているような、そういう馬鹿らしさを感じる。
現実的に行動を起こさないのは、せっかく心の内に湧き上がった願望に対して、あまりに不誠実ではないか。

望むものがそこにあるんだから、手を伸ばしなさいよ。
その労力さえ惜しむなら、はじめから願望なんて持たない方がいいよ。

そう、母にはっきりと言った方が良かっただろうか?

宇宙はあなたの代わりに、ハノンもチェルニーも練習してくれないと思いますよ。

――つい手厳しくなってしまった。
今回の母へのイライラは、私が自らのグズグズした性質(言うだけでやらない)を省みるチャンスなのだろう。
私はこれから、やりたいことをスッとやるように心がけようと思う。
目指せ不言実行。自分の内に湧き出た願望に対して、とことんまで誠実であれ。

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