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ウォロフ語文法:現在形①

今回の記事から、ウォロフ語文法の簡単な解説を行う。

以下にまとめるのは基本的に東京外国語大学で作成された『ウォロフ語入門』(1994年、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)の記述を参照した情報であるので、より詳しく知りたい方はこの本を読んでいただければと思う。『ウォロフ語入門』は、セネガル人言語学者Jean-Léopold DioufとMarina Yaguelloによる教材J’apprends le wolof(1991年、Karthala)を日本語訳したものである。30年以上前の古いテキストでがあるものの、日本語でまとまった文法事項が学べるという、非常に大きな利点がある。

早速ウォロフ語の現在形から説明していきたいところだが、ウォロフ語の大きな特徴として文法的な「時制」というものが存在しない。それはつまり、英語やフランス語のように、動詞の活用による時制がないという意味である。では、どのようにして時間を表現するのかというと、それは「完了」と「未完了」での区別である。完了とは、文字通り「動作が完了していること」、未完了は「動作が完了していないこと」であり、その区別によって現在や過去、未来を表すことができる。しかし、必ずしも完了であればすなわち過去というわけではなく、あくまでどの時点における完了か否かで分類されるものとして理解していただきたい。

このような説明ではわかるようなわからないような部分も多いかもしれない。そこで、以下では、あえて日本語での読者にわかりやすい「現在形」、「過去形」、「未来形」といった言葉を用いて説明しつつ、それぞれの表現が持つニュアンスを理解しつつ文法事項を把握できるような記述を試みる。なお、このような説明がそのままウォロフ語の言語を説明する上で必ずしも正しいわけではなく、ある程度の簡略化をしているので留意していただきたい。


まずは、現在形を表すための基本表現を3つ紹介する。
それは、Dafa活用、Mu ngi活用、la活用である。それぞれが何を強調するかの違いがあるとして理解していただきたい。

Dafa活用

  • 動詞を強調する活用である。主語の人称の違いによって以下の表の通りに活用される。

dafa活用
  • 状態動詞(熱い、寒いといった状態を意味する動詞)を使った表現に使われることも多い。

    • 例:Dama sonn(ダマ ソンヌ):私は疲れている

    • 例:Danga baax(ダンガ バーフ):あなたはいい人だ。

    • 例:Dafa sedd(ダファ セッド):寒い

  • また、行為動詞(行く、食べるといった行為を意味する動詞)を使う場合は、習慣的な行動について説明できる。

    • 例:Dama jàng al-xoraan(ダマ ジャング アルホラーン):私はクルアーンを勉強している。

    • 例:Dama lekk ceeb jën(ダマ レック チェブジェン):私は(習慣的に)チェブジェンを食べます。


Mu ngi活用

  • Mu ngi活用は、主語を強調する表現である。行為動詞をつけるものが多く、現在形または現在進行形の状態を表すものに近い。活用は以下の通り。

    • 例:Maa ngi jàng al-xoraan(マンギ ジャング アルホラーン):私はクルアーンを勉強している。

    • 例:Mu ngi dem ekool(ムンギ デム エコール):彼/彼女は学校に行っている

Mu ngi活用
  • また、Mu ngi活用で場所を意味する名詞や指示代名詞を用いると、その場に「いる」状態を指すことができる。

    • 例:Yaa ngi Dakar ?(ヤンギ ダカール?):あなたはダカールにいますか?

    • 例:Ñu ngi fii(ニュンギ フィ):彼らはここにいます


la活用

  • la活用は、名詞を強調する表現である。名詞をla活用の前に置くことで、「私は(名詞)です」を意味する。

    • 例:Jàngkat laa(ジャングカット ラ):私は学生です。

    • 例:Japonais la (ジャポネ ラ):彼/彼女は日本人です。

la活用
  • また、la活用のあとに動詞をつけると、「VしているのはOです」の意味となる。Dafa活用でも同じ内容の文章は作れるが、la活用で倒置した表現となることで、より名詞を強調した文章を作ることが可能である。

    • 例1

      • Dama sopp xale bii(ダマ ソップ ハレ ビ):わたしはその子供を愛している。

      • Xale bii laa sopp(ハレ ビ ラ ソップ):私が愛しているのは/が、その子だ。

    • 例2

      • Danga fatte sa caabi(ダンガ ファッテ サ チャービ):あなたは(あなたの)鍵を忘れた。

      • Sa caabi nga fatte(サ チャービ ンガ ファッテ):あなたが忘れたのは、(あなたの)鍵だ

  • またこの用法では副詞の強調も可能である。

    • 例3

      • Dafa agsi ci ngoon(ダファ アグシ チ ンゴーン):あの人は夕方に着く

      • Ci ngoon la agsi(チ ンゴーン ラ アグシ):あの人が着くのは、夕方だ


参考文献
梶茂樹, ジャン=レオポルド・ジュフ. 1994.『ウォロフ語研修テキスト1:ウォロフ語入門』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所


(文責:池邉智基)

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