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ウォロフ語と世界のことば

世界中の「お茶」を指す単語は「チャ」系統の言葉(日本語の「茶」や「チャイ」など)と、「ティー」系統の言葉(英語など)に二分されると聞いたことはありませんか?
(中国南部から陸路で伝わったのが「チャ」系統、海路で伝わったのが「ティー」系統と言われています)
参考:https://shop.chanoma.co.jp/s/special/detail/028

ウォロフ語でお茶を指す言葉は「アターヤ」ですが、さて、これはどちらでしょうか?

(提供:池邉智基)

正解は「チャ」の系統です。

中国では「チャ」と発音するのがインドやトルコでは「チャイ」や「チャーイ」になり、さらにアラビア語圏では「シャーイ」になります。
この「シャーイ」に定冠詞「アル」をつけると、「アル・シャーイ」ではなく、音が詰まって「アッシャーイ」と発音されます。
この「アッシャーイ」が段々に変形して「アターヤ」になったのです。

モロッコのミントティーのことを現地では「アタイ」と呼ぶそうなので、途中で北アフリカを経由したのでしょう。
セネガルのアターヤも、モロッコのお茶によく似た小さなグラスで供されます。

イスラームがセネガルに伝わったのは1000年ほど前のこととされており、ウォロフ語にはアラビア語由来の単語が少なからず存在します。
しかし、ウォロフ語に取り入れられている外来語はアラビア語だけではありません。
例えば、ウォロフ語話者の典型的な挨拶は次のようなものです。

"Salaamaaleyekum!Na nga def?Ça va?"

「サラーマーレクム」はアラビア語の挨拶「アッサラーム・アライクム」からきており、「ナンガデフ?」と「サヴァ?」は、それぞれウォロフ語とフランス語の「元気?」です。
短い挨拶の中に3つもの言葉が登場しています。

Ça va?もそうですが、旧宗主国の言葉であり今も公用語であるフランス語の単語や表現も、ウォロフ語話者の日常会話に山のように取り入れられています。
merci(メルシー:ありがとう)、portable(ポルタブル:携帯電話)、président(プレジダン:大統領)などなど、枚挙にいとまがありません。
筆者の知人は「私は外来語を一切使わずにウォロフ語だけで喋ることができる」と豪語していましたが、それが他人に自慢できてしまうほどに、これらの言葉は会話においてなくてはならないものです。
日本語に英単語がカタカナ言葉として大量に取り入れられているのとまったく同じです。

また、借用されているのはアラビア語やフランス語だけではありません。
例えばナイフを指すpaaka(パーカ)、鍵を指すcaabi(チャービ)はそれぞれポルトガル語のfaca(ファーカ)とchave(シャーヴェ)からきているとされます。

さらに、ウォロフ語は他言語から言葉を借用しているだけではありません。

多くが西アフリカから連れて来られた元奴隷による革命を経て建国されたハイチの言葉であるハイチ・クレオール(ハイチ語)は、フランス語をベースにウォロフ語を含むアフリカの諸言語から多くの影響を受けて成立した言語です。
ウォロフ語のak(アク)という言葉は英語でいうandやwithと同じように使われますが、なんとハイチ・クレオールでもまったく同じ使い方をされています。
"Ou mèt chita(ウ・メット・シタ)"は「どうぞ座ってください」という意味ですが(ouがあなた、chitaが座る)、「どうぞ~してください」または「~してもよい」を意味するmètという単語も、ウォロフ語のmën(~できる)からきているとされています。
セネガルから奴隷として連れ去られたウォロフの人々の足跡が、今でもハイチに残っているのです。

このように、ウォロフ語は多様なチャンネルを通じて世界の様々な言語とつながっています。
特に、アラビア語起源のウォロフ語の言葉にどんなものがあるかは、またの機会にお話ししたいと思います。

(文責:内山智絵)


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