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#03 ボロボロの公共施設を救う保全戦略(FM編)

公共施設とは実に不幸な存在であると、#01で書いたところであるが、施設が完成した後に、保全に対する予算があまりかけられないところが、公共施設を不幸たらしめている大きな原因の一つであろう。

一般的な話をすると、建築物を良好に維持するためには、年間に建設費の2%くらいの保全(修繕)費用を充てることが理想的だと言われている。とは言ってもかけられる予算も厳しいから、突発的なことも含めて、最低でも1%程度は確保しておくというのが世の中の通説である。

その理屈でいうと、仮に10億円の建設費がかかった建築物ならば、年間1千万円の保全費用を用意しておくということになる。
仮に築50年まで保有するとなると、その総額は単純計算で建設費の50%にも相当する。

ちなみに、ここでいう保全費用の中に、電気代などの光熱水費や、清掃や各種点検・保守などの委託費、いわゆる維持管理費は含まれていないということと、設備の入替や大規模改修と言われるような、更新費用は含まれていないということを付け加えておく。

では、公共施設の保全費用は一体どうなっているのだろう?

詳しい統計上の数字を持ち合わせていないのを先に断っておいた上で、僕の肌感だと、年間0.1%くらい、ひどい場合にはその何分の1程度しか予算が確保できていないというのが、自治体の台所事情ではないだろうか。

そのような状況であれば、公共施設はどのような運命を辿っていくのであろう?
おのずと結果は・・・

予算のかけられない公共施設はどうなっていくのか?

本来すべきである修繕を怠っていくと、当然ながら建物のあちこちが傷んでくる。
内装など若干の美観を損ねるくらいならまだ良いが、扉の開閉不良あたりから症状が出始め、やがては雨漏り、外壁の劣化、設備の故障や停止、躯体の腐食・・・徐々に利用に供するとは言えないほどの老朽化へと進んでいく。

中でも一番恐ろしいのは人命に関わる事故だ。
幸いにも僕自身経験したことはないが、全国では公共施設の老朽化や点検等の不備で利用者が亡くなってしまうという悲惨な事故も起こっている。
そうした事態は絶対に避けなければならない。

人命までには至らずとも、設備の停止というのも事態としては最悪だ。
特に頭を抱えるのはエアコンの停止で、現代の日本においてエアコンのない生活は考えられないため、もし起こると即休館ということにもなりかねない。

そう、しっかりとした予算がかけられない公共施設は、愛情が注がれないままボロボロとなっていくのだ。

ボロボロの公共施設をどうやって救いだすのか?

とにかく日々の点検は非常に重要な事項だ。
とはいえ、公共施設を直接管理する所管課には、専門的な職員が配置されていないことが多いので、どの職員にでも点検方法などが分かるマニュアルを用意しておくことも、公共施設マネジメントにおいては重要なミッションとなる。

そこで、僕たち津山市が作っている点検マニュアルをぜひ参照してほしい。
素人でもできるだけ分かりやすいよう、建築の部位ごとの点検方法や、見るべきポイントをまとめてある。
さらに、巻末には「知って得する建物のいろいろ」というコラムを添付しているのだが、これが実に分かりやすくて面白くて素晴らしい。
本文である点検マニュアルよりボリューミーで、僕も久しぶりに読み返してみたが、非常に充実した内容となっている。
ちなみにこの点検マニュアル(コラムも含めて)、全て僕(川口)によるものなので、完全に自画自賛だが(笑)

公共施設点検マニュアルの巻末にあるコラム「ガムテープの功罪」

また、公共施設をボロボロにしていかないため、多くの自治体で取り組んでいるのが公共FM(FMとはファシリティ・マネジメントの略)である。
平成26年総務省から全国の自治体に向けて「公共施設等総合管理計画」の策定要請もあって、これをきっかけに、全国多くの自治体において、公共FMの取組が始まることとなった。

公共FMの一般的な出口戦略は、公共施設の保有量を減らし、健全な行政運営を目指していこうというものだ。
もちろん、この考え方は間違ってはいないし、減らせるものは減らしていくというのが常套手段ではあるが、こと公共施設に関しては、減らしたくてもそうそう減らせないというのが現実だ。
(このあたりは#01でも書いているのでそちらも参照してほしい)

そうなってくると、保全をしっかりやろうというのが、公共FMのもう一つの出口戦略ということになってくる。

保全のためのFM戦略と具体的な解決方法は?

僕たち津山市は公共施設の保全については、かなり戦略的に行なっているといっても良い。
ここからは、そのFM戦略について具体的に紹介していきたい。

僕たちが本格的にFMを始めるようになったのは、平成27年度からであるが、まず行なったのが、公共施設の一斉点検と保全にかかる予算の確保である。
公共施設の保全には一定の予算が必要だと上述したが、津山市では公共施設の長寿命化と解体に特化したFM基金(正式名称は公共施設長寿命化等推進基金という)を、平成28年3月に創設し、平成28年度から運用を開始している。

他の自治体においても、公共施設の保全のために一定の枠予算を確保し、FM部門がそれを一元化していることは珍しくないが、津山市ではその予算を、FMという特定目的の基金で運用しているというのが大きな特徴である。
また、従前はほとんど予算が付かなかった公共施設の解体も、このFM基金の対象としたことで、面積を減らすという部分においても実効性を担保している。

FM基金の原資には、遊休不動産の売り払い収入や決算剰余金などを充てているが、一般財源とは財布を切り離したお金をプールすることで、ある程度規模の大きいことにも対応できること、通常の予算編成への影響を最小限に留められるという効果もある。
(少しテクニカルな話であるが、補助金適化法にかかる財産処分を行う場合でも、このFM基金に積み立てるという手段が取れるという実利もあり)

なお、FM部門である僕たちが、現地点検から優先順位付け、予算概算の作成、設計から工事監理までを一元的に行っている。
すでに7年ほど運用を行なってきたが、予算の的確な執行、効率的な改修工法の選定、計画的な予防保全など、FM基金を持つことで、保全レベルも確実に上がってきていると感じている。

とはいえ、全ての公共施設を完全に良好な状態に保つためには、圧倒的に予算が足りていないのも、悲しいかな現実である。

FM基金の次なる一手をどう打つか?

平成28年からFM基金の運用を始めたところ、いくつかの課題も出るようになってきた。
FM基金の業務フローでは、まず所管課から僕たちFM部門に修繕要望を出してもらうのだが、最初の数年はこの数がものすごい件数となり、全て現地に赴いて点検するためには、相当の日数を要することとなってしまった。
これでは、いくら身があっても足りないということで、FM基金を充てる保全内容を先取りして、向こう10年での改修計画を見える化するために作ったのが、保全・長寿命化計画シート(長寿命化個別計画カルテ)である。

長寿命化すべき施設を先に僕らが点検(3年ごとに実施)して、老朽化具合を見つつ、必要と思われる保全の計画を、机上ではなく現場レベルで行なっているのが、このカルテということになる。
プールしておくべき保全のお金を、大枠で把握しておくというのは戦略的に非常に有効である、というか把握していないとヤバいのではないだろうか。

保全にはまず点検が重要と書いたが、これを定期的に行うことで、施設の状況も自分たちで把握でき、FM基金と連動させることによって、無駄な労力も割かずに済むという訳だ。

これからの課題とその解決策としての公民連携

さて今回は、FM基金や長寿命化カルテという具体的な保全戦略について書いてきたが、完全に解決できているとは当然感じていない。
先にも書いたが、保全に対するお金が圧倒的に足りておらず、長寿命化といった計画的な予防保全と言うよりは、事後保全でやり繰りしているのが現状と言えるだろう。
もう少し保全レベルを底上げしていくことは、これからの大きな課題である。

また、そのお金をどこから調達してくるのかということになると、おそらく減らす方策だけでは厳しいと感じている。
だからこそ、公共施設で稼ぐこと(公民連携)が必要なのだ

僕たちが行なっているFM戦略とは、実に単純で、①減らす(施設の保有量や日常のコスト)、②直す(保全をしっかりやること)、③稼ぐ(公民連携で収益を増やすこと)をサイクルで回していくことだと思っている。
つまり、保全にはお金がかかるのだから、それは自分たちでしっかり稼いできて、それを賄っていこうという至極当たり前の発想である。
欲しい欲しいとおねだりしても、お金が無いのだから自分たちで生み出すほかないのだ。もちろん減らすことも当然やっての話である。

さて、今回は②直す(保全)ことについて書いてみたが、1/17(火)の19時から、僕が所属しているNPO法人自治経営で行なっている6週連続オンラインFM講座、どうする?これからの公共施設経営2023で、このあたり、もう少し深掘りして説明しようと思うので、ぜひこちらも聴いてほしい。
チケットは下記リンク先から。

それでは次回もお楽しみに。




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